IG Photo GalleryIG Photo Galleryでは2021年8月10日(火)より福島あつし展「ぼくは独り暮らしの老人の家に弁当を運ぶ」を開催いたします。福島あつしは大阪芸術大学写真学科、東京綜合写真専門学校研究科を卒業したのち、老人の住まいに弁当を届けるアルバイトを始めました。
当初は撮影を考えていませんでしたが、福島の経歴を知った店長のアドバイスで老人たちの写真を撮るようになります。撮影はコミュニケーションのきっかけにもなりますが、同時に、カメラを向けシャッターを切ることの倫理的な側面を福島に意識させることになりました。
彼らの部屋やポートレートを撮影することは良いことなのか、それとも悪いことなのか。福島は幾度か撮影を中断し、仕事から離れ、また戻ることを繰り返したといいます。「撮ること」への葛藤をかかえつつ、十年という時間をかけて完成したのがこの作品です。
このシリーズは一昨年、「弁当 is Ready.」というタイトルでKYOTOGRAPHIEの「KG+ SELECT | 2019 Grand prix」を受賞。昨年、KYOTOGRAPHIEであらためて展示されました。また、NHK Eテレの「ハートネットTV『配達弁当とおひとりさま』」(2021年3月3日放送)で福島の作品が紹介され話題を呼びました。
今回の展覧会は写真集刊行(*)にあたり、「ぼくは独り暮らしの老人の家に弁当を運ぶ」と改題し、写真集に収録された写真をもとに展覧会として構成するものです。超高齢化社会を迎えたこの国で、独居老人のケアが社会問題となっているのは周知の通りです。しかし福島はジャーナリストのように社会問題として彼らの姿を捉え、問題提起しようとはしていません。同じ人間として、この現実をどう考えるべきかと自問自答しながら撮り続けた結果をともに考えるために発表してきました。いわばパーソナルな視点による記録写真なのです。
撮ることは交流であり、彼らの人生にほんの少し触れることでもありました。弁当とカメラを間に挟んだ関係から生まれたこれらの写真は、社会と個人、老いと生活、人間にとっての食べる行為、といった複数のテーマを浮かび上がらせます。誰もが年齢を重ね、いずれは年老います。他人事ではなく、誰にとっても身近な問題だからこそ、写真を前に、考えてみていただければ幸いです。