公開日:2007年6月21日

シュヴァンクマイエル展

シュヴァンクマイエル展とある美しい秋空の午後。

「おなかすいちゃった、展示の前にご飯食べようよ!」
「そうだね。」
海に面したテラス席を確保して、潮風に吹かれながら夕方までランチをする。

食事を終えようとした頃に、ふと思う。

「日が沈む前に砂浜あるこうか。」
ミュージアムカフェからエントランスに戻り、付近の散策用の地図を手にして
2時間ばかり海岸沿いを歩く。美術館に戻った頃には閉館30分前。結局、
「帰ろっか。」

そして帰りの横須賀線車中。
「気持ちよかったね。」
「うん、関東で生活始めてから、一番好きになれそうな美術館かも。」
と二人招待券を無駄にする。

というわけで、今月27日までの神奈川県立近代美術館葉山館のシュヴァンクマイエル展に足を運んだ。展示は結局見ずじまいだったので、展覧会の内容に関してのレビューなど書けようもないが、私も連れも「シュヴァンクマイエル展」に行ったことに満足したのは確かだと思うし、正直楽しい「美術館体験」だった。

多分、美術館のコレクションの豊富さや展覧会の企画力というのは、美術館を評価する上での一つの指標でしかなくて、むしろ美術館が持続的にフレッシュであるためには、↑のような経験が図らずも生じてしまうことが必要なのだと思う。企画に頼れば、動員数は不安定になるし、何よりキュレーターは移動するものだから。そして、私は美術館にはよく行くが、必ずしもアートを鑑賞しに行っているわけでもない。楽しいから美術館に行くのであって、アートの鑑賞はその一つの要素に過ぎない。その意味で、展示目当てで行ったのに、展示以外の力で来館者を満足させることができる葉山館は素直に素敵な美術館だと思う。

私のレビューでは、今後も普段はあまり私たちが意識することのないこのような包括的な「ミュージアムの力」を折りに触れ紹介したい。もちろん、展示の内容にも踏み込んだレビューも書くこともあるけれど。とはいえ、展示の内容に関わらずシュヴァンクマイエル展は楽しめるので、皆さんも足を運んでみては。但し、青空とカフェでのテラス席の確保はお忘れなく。

Toshiro Mitsuoka

Toshiro Mitsuoka

Educator, Graduate student of Museum Studies, Tokyo University. 1978年生まれ。メディア論、博物館研究。ミュージアムを多様な意味が生成するコミュニケーション空間として分析するかたわら、2000年からSetenv(セットエンヴ)に参加。展覧会、シンポジウム等の企画を行う。