公開日:2007年6月18日

大久保亞夜子 展「クルテユラ」

2004年に、マンガを用いた卒業制作『奇的』で東京芸術大学を出て注目を浴びた大久保亞夜子。2年ぶりの個展でますますその独自性を発揮している。

今回の展示「クルテユラ」は15日までの第一部、17~22日までの第二部からなり、大久保には珍しく原画が展示されている。近年彼女は、著者が企画したReading Roomを含めてインスタレーション性の高い作品の発表が続いていた。その間にも、2冊目の単行本『奇的BOUYAGE』やテレビ番組のキャラクターデザインなどで仕事を見ることができたわけだが、今回、比較的ストレートに原画を見せてきたところに、スタイルの確立や自信を見てとることができる。第一部「予兆」で扱われているモチーフは、合唱隊、ジミヘン、メトロノーム、ピアノ、耳など「音」に関するもの。それぞれの作品の背景には同様のトーンが引かれ、配置もインスタレーション的ではあるが、1つの1つの作品に強度がある。マンガにはキャラクターの存在が欠かせないが、大久保の作品には人物が不在、もしくはその顔全体に「的」のような◎印が描き込まれ、そのキャラクター性を剥奪されている。人物にリアルな目を描き込まないことで、脱マンガ的な表現とすることが、大久保の選んだひとつの答えのようである。

(ちなみに『奇的』に登場している、自身をキャラクター化した人物「BOTSU」は箱をかぶっており、目が描き込まれていない。続編『奇的BOUYAGE』で顔に◎印が描き込まれたキャラクターが登場し、ストーリー性も希薄になっている点も興味深い。)

このような脱マンガ的スタイルをもって作品発表に臨んでいる大久保であるが、一方では展示をドラマツルギーだと発言しており、そこから完全に脱却しているわけでもない。ただし、個々の作品に関係性を見出し、作劇を行うのは我々観客である。彼女の作品は今、マンガだとかアートだとかいったレッテルを軽やかにくぐり抜けて、「culture」(≒カルチャー)という地点に着地している。

Makoto Hashimoto

Makoto Hashimoto

1981年東京都生まれ。横浜国立大学教育人間科学部マルチメディア文化課程卒業。 ギャラリー勤務を経て、2005年よりフリーのアートプロデューサーとして活動をはじめる。2009〜2012年、東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化財団)にて「<a href="http://www.bh-project.jp/artpoint/">東京アートポイント計画</a>」の立ち上げを担当。都内のまちなかを舞台にした官民恊働型文化事業の推進や、アートプロジェクトの担い手育成に努める。 2012年より再びフリーのアートプロデューサーとして、様々なプロジェクトのプロデュースや企画制作、ツール(ウェブサイト、印刷物等)のディレクションを手がけている。「<a href="http://tarl.jp">Tokyo Art Research Lab</a>」事務局長/コーディネーター。 主な企画に<a href="http://diacity.net/">都市との対話</a>(BankART Studio NYK/2007)、<a href="http://thehouse.exblog.jp/">The House「気配の部屋」</a>(日本ホームズ住宅展示場/2008)、<a href="http://creativeaction.jp/">KOTOBUKIクリエイティブアクション</a>(横浜・寿町エリア/2008~)など。 共著に「キュレーターになる!」(フィルムアート/2009)、「アートプラットフォーム」(美学出版/2010)、「これからのアートマネジメント」(フィルムアート/2011)など。 TABやポータルサイト 「REALTOKYO」「ARTiT」、雑誌「BT/美術手帖」「美術の窓」などでの執筆経験もあり。 展覧会のお知らせや業務依頼はhashimon0413[AT]gmail.comまでお気軽にどうぞ。 <a href="http://www.art-it.asia/u/hashimon/">[ブログ]</a>