メビウスの輪は、よく知られているように裏表といった区別がなく、無限を表す形状である。靴下には銀河のマークがワンポイント刺繍されており、地色の黒は言わば宇宙空間としても捉えることができるだろう。人が日常的には意識することのない、ダイナミックな存在や概念を取り込んだ2つの作品が持つ仕掛けはささやかなものであるが、そこから放たれる空気感はギャラリー全体を満たしているように感じられた。壁面にも、「+(プラス)」ねじと「-(マイナス)」ねじに並べて突き刺された特注の「∞(無限大)」ねじや、平衡感覚を狂わせるような描き方をされた絵画など、我々の思考を深く刺激する作品が並ぶ。
不在の作家の意思と、作品そのものではなくその外部にまで意識される確かな「作品的」世界が、見事に実現されている展覧会である。
尚、展覧会場で閲覧可能なシートや販売されているカタログには、この展示をより深く楽しむことのできる手がかり、例えば上で述べたメビウスの輪と靴下の配置の驚くべき決定方法などが掲載されているので、ぜひ手にとっていただきたい。
Makoto Hashimoto
Makoto Hashimoto