公開日:2007年6月18日

キュレーターズ・チョイス展

美術館における展覧会というものは、必ず何らかのかたちで「企画」されたものである。いわゆる企画展はもちろん、常設展でさえ、あるテーマやストーリー、カテゴリ分けなどが設定され、それらに基づいて作品が「選ばれる」。

「〇〇時代の△△展」といったような、どんなに客観を装っている展覧会でさえ、それらはある立場からの視点に基づき構成されている、言わば主観的なものでもあるのだ。そして実際に、そういったテーマの設定、作品の選出、構成などの企画作業を行うのが学芸員(=キュレーター)である。東京都写真美術館で行われている<キュレーターズ・チョイス展>は、館所属の学芸員全員と専門調査員がそれぞれのテーマに基づき所蔵作品の選出を行い、それぞれのスペースで展示を行うという、かなり思い切った試みだ。

近年、公立美術館では、予算削減の影響を受けていかにして所蔵作品をより多様な形で展示していくか、という工夫をしている。この企画もそのひとつであろうことは言うまでもないが、館としての企画ではなく、企画があくまで専門家個人の視点の複合により成立している点を逆手に取り、徹底して突きつめている点、また各人の氏名を全面的に押し出し、本当の意味でその展示の責任を負っている点で画期的である。(特に公立美術館では、担当学芸員の名前を公式にアナウンスすることは稀である)

結果として、ひとつの館の所蔵品から、実に様々な展示が実現している。

金子隆一(専門調査員)は個人と写真との関わりにおいて重要である様々な作品を選び、エッセイ的なテキストを合わせて展示。河村美枝子(学芸員)は研究を重ねてきた下岡蓮杖について。山口孝子(保存科学専門員)は、作品の保存や修復の手法。神保京子(学芸員)はシュルレアリスム。江戸東京博物館から異動してきた小林克(学芸員)は、戦後のヤミ市を撮った写真とその解説、、、などなど。

展示方法も含めてそれぞれがオリジナリティ溢れる内容、高いクオリティをもって実現されている。美術館の財産とは、建物や所蔵作品だけでなく、学芸員も含めたスタッフの能力なのだということを再認識させられる展覧会であった。

Makoto Hashimoto

Makoto Hashimoto

1981年東京都生まれ。横浜国立大学教育人間科学部マルチメディア文化課程卒業。 ギャラリー勤務を経て、2005年よりフリーのアートプロデューサーとして活動をはじめる。2009〜2012年、東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化財団)にて「<a href="http://www.bh-project.jp/artpoint/">東京アートポイント計画</a>」の立ち上げを担当。都内のまちなかを舞台にした官民恊働型文化事業の推進や、アートプロジェクトの担い手育成に努める。 2012年より再びフリーのアートプロデューサーとして、様々なプロジェクトのプロデュースや企画制作、ツール(ウェブサイト、印刷物等)のディレクションを手がけている。「<a href="http://tarl.jp">Tokyo Art Research Lab</a>」事務局長/コーディネーター。 主な企画に<a href="http://diacity.net/">都市との対話</a>(BankART Studio NYK/2007)、<a href="http://thehouse.exblog.jp/">The House「気配の部屋」</a>(日本ホームズ住宅展示場/2008)、<a href="http://creativeaction.jp/">KOTOBUKIクリエイティブアクション</a>(横浜・寿町エリア/2008~)など。 共著に「キュレーターになる!」(フィルムアート/2009)、「アートプラットフォーム」(美学出版/2010)、「これからのアートマネジメント」(フィルムアート/2011)など。 TABやポータルサイト 「REALTOKYO」「ARTiT」、雑誌「BT/美術手帖」「美術の窓」などでの執筆経験もあり。 展覧会のお知らせや業務依頼はhashimon0413[AT]gmail.comまでお気軽にどうぞ。 <a href="http://www.art-it.asia/u/hashimon/">[ブログ]</a>