「横浜トリエンナーレ2008」概要
■会期 2008年9月から12月までの間の80日程度
■会場 横浜市山下ふ頭周辺をはじめとする都心臨海部
■主催 国際交流基金、横浜市、NHK、朝日新聞社、横浜トリエンナーレ組織委員会ほか
■総合ディレクター 水沢勉(神奈川県立近代美術館企画課長)
■キュレトリアル・アドヴァイザリー・チーム ※アルファベット順
ダニエル・バーンバウム(フランクフルト市立美術大学学長、ポルティクス ディレクター)
フー・ファン(ビタミン・クリエイティヴ・スペース 共同ディレクター)
ハンス=ウルリッヒ・オブリスト(サーペンタイン・ギャラリー 国際プロジェクト担当ディレクター、展覧会プログラム共同ディレクター)
■全体テーマ 「TIME CREVASSE(タイムクレヴァス)」
筆者雑感
「横浜トリエンナーレ」は2001年より開催されている現代美術の国際展であり、第1回展(2001年)のディレクターは河本信治、建畠晢、中村信夫、南條史生の4名で実施。第2回展(2005年)のディレクターは、2004年春に一度は磯崎新に決まったものの、同年12月で川俣正に交代するという「事件」を経て開催された。
まずは約2年後となる2008年9月の開催に向けて、この比較的早い時期にディレクターおよび開催概要が決定したことをひとりのアートファンとして喜びたい。
第2回展については上記の通り紆余曲折があり準備期間が限られる中で、言わば川俣正の作品のように進行形のスタイルで開催さた。これはこれで独特の高揚感に包まれた楽しい内容であったが、残念ながら胸を張って国際展と言えるだけのクオリティには到達していなかった。(この複雑な印象については筆者によるEvent Reviewをご覧いただきたい)
今回は約2年という準備期間を十分に生かし、過去2回で積み上げられたノウハウ、一方で横浜市が「文化芸術創造都市」を掲げて行っている様々な文化政策の効果も取り込むことができるはずである。3回目に相応しい、質を保ちつつも野心的な試みが含まれるような国際展を期待したい。
総合ディレクターについて
第3回展の総合ディレクターを務める水沢勉氏(1952年横浜市生まれ)は、神奈川県立近代美術館の現・企画課長。同館で28年の学芸経験に加え、バングラディッシュ アジア・アート・ビエンナーレ(1993年、1997年)、サンパウロ・ビエンナーレ(2004年)の日本館コミッショナーの経験もあることから、前任者たちに加えて派手さはないものの、適任であることに間違いはない。
トリエンナーレの現状と今後目指すべき方向性もよく認識しており、本日の記者会見では「基本的なスタンスとしては成熟を目指したい、ある意味落ち着きを目指したい」「1回展2回展のいいところを引き継ぎたい」などと豊富を語った。
全体テーマについて
全体テーマ「TIME CREVASSE」は直訳すると「時間の深淵」。抽象的ではあるが、「新しさ」ばかりがアートの豊かさではないということを再確認する(歴史や作品の自立性を見つめ直す)、時間や空間も含めて世界的に進む「標準化」がかえって生み出してしまっている「分断」を見つめるといった趣旨で設定されたようだ。
―いま世界は、高度な情報化によって、時間も空間もひとつの基準によって標準化されているように思われますが、じつはその標準化そのもののためにかえって多くの分断、おそらく、人類の歴史のなかでも、そうとうに深刻な分断をわたしたちは生きることを余儀なくされているように感じられるのです。
時間は複数の系として流れている。とはいえ、そのこと自体がそのまま豊かであるわけではありません。むしろ、時間は、ときに捩れ、渦巻き、ぶつかりあい、そこに予想をしない亀裂が生じ、そこに深淵が顔を覗かせます。
アートの力は、まずは、その深淵を直視し、いうならば「タイムクレヴァス」のかたわらに佇むことによって、個人と社会、国家、性差、世代差、人種、宗教といった相互の差異を、現在の自分自身が置かれている状況を含めて、徹底して感じ取ることから生まれ出てくるのではないでしょうか。―(水沢勉によるテキスト/抜粋)
方針と矛盾はなく、うまく言語化されているものの、全文を読み込まないとなかなか分かりにくい趣旨である。これをいかにかみ砕いて伝えていくかが課題となりそうだ。
キュレトリアル・アドヴァイザリー・チームについて
第3回展の概要発表に伴い特筆しておくべきことであり、おそらく内容に大きく影響を与えるのが「キュレトリアル・アドヴァイザリー・チーム」の設置である。同チームには未発表の人物も含めて今後更に数名が加わり、展覧会全体のアドヴァイザリー機能を担うメンバーと、実際のキュレーションを担うメンバーとに分けて構成されるとのこと。
実は過去2回展のディレクターおよびキュレーターなど主要キュレトリアル・スタッフは、国際経験豊富だとはいえ全て日本に拠点を置く人物ばかりで構成されていた。もちろん、第1回展のようにインターナショナル・コミッティを組織することで海外との連携を強めるやり方もあるが、名前だけにも思われるアドヴァイザリー・スタッフだけではなく、実際にキュレーションも担うスタッフがきちんとしたチームとして組織されていることは、国際展としての充実度に大きく関係してくるはずだ。(ちなみにダニエル・バーンバウムとハンス=ウルリッヒ・オブリストは第1回展のコミッティ・メンバーを務めている)
ここに、中国広州で「ビタミン・クリエイティヴ・スペース」というオルタナティブ系のスペースを運営しているフー・ファンなど、若いディレクター、キュレーターなどが入ってくることで、第3回展も思いのほか刺激的なものとなる可能性がある。
会場について
最後に、会場については「横浜市山下ふ頭周辺をはじめとする都心臨海部」とだけ発表されている。前回はメイン会場に山下ふ頭の3号、4号上屋が利用されたが、山下ふ頭とは言いつつも、必ずしも同会場を利用するとは限らないようだ。もう少し他会場とのアクセスを考慮して、利用しやすい会場を確保するつもりなのかもしれない。
関連サイト:横浜トリエンナーレ
Makoto Hashimoto
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