コンテナを積み重ね、再生可能な資材で組み立てられたこの建造物は、世界的な評価を得ている日本人建築家、坂茂氏の建築である。また、撮影には日本人写真家の中村宏治氏が参加し、印画紙には徳島県の阿波手漉和紙が使用されている。
会場内に足を一歩踏み入れると、外の喧噪から一気に隔離され、ほの暗い空間の中に立ち並ぶ紙管の支柱が、まるでお寺の参道を思わせる。その中に浮かび上がるのは、カナダ人アーティスト、グレゴリー・コルベールによる動物と人間が共存する美しい瞬間を収めた写真と映像の世界。すでに駅などでポスターを目にした方も多いことだろう。
その作品の中では、人間も動物も、同じ地球に生きる生物として大きくくくられ、当たり前のように一緒にいる。むしろ、動物と人間の区別という概念が、人間が持つ一種のおごりである気がしてくる。唯一、被写体の人間が時に手にしている書物のみが人間の文明を感じさせる。人間と動物があまりにも自然に寄り添い、明らかに心が通じ合っている姿に、本当にこんな光景があり得るのかと一瞬思ってしまう。しかしそこにはいかなる画像のデジタル加工や処理も行われていないという。美しいセピア色の世界にしばし心を奪われていると、だんだんその光景が自然に見えてくる。それは、現代を生きる我々の心の奥底にも眠っている、かつて大自然の中で動物とも密接に共存していた我々の先祖の代の記憶が、グレゴリー・コルベールの作品によって揺さぶられるからなのかもしれない。
タイトルの”Ashes and Snow”は、積もっては消えゆく「灰と雪」によって、「美と再生」を象徴している。また、上映されている映像作品のストーリーにも関係している。
人間の文明の進化の一つの証である交易を象徴するともいえるコンテナで組み上げられた荘厳な空間で、自然の大きさに想いを馳せる。そして、会期が終わるとこの期間限定の美術館は、跡を濁すことなく消え去っていく。訪れた人々の中に太古の記憶を呼び起こして。