鉛筆は、人が紙の上に表現する時に用いる、最も原始的な道具といえるだろう。
この展覧会では、その鉛筆を用いて描く9名の作家の作品が紹介されている。
同じ鉛を主材とした鉛筆を用いているとはいえ、アーティストそれぞれの技法によって、9人9様の多様な表現による世界が描き出されている。
たとえば、一面を黒鉛で塗りつぶした画面を消しゴムで“消しながら描く”篠田教夫、練り消しゴムを用いて柔らかい触感を描く関根直子、シャープペンシルによる細く一定な線で空間を構成する佐伯洋江、黒の色鉛筆で漆黒の闇と積載する時間の流れをも描き出す小川百合、写真かと見間違えるほど精巧に描きながらも現実にひねりを加える小川信治…。
鉛筆一本でこんなにも幅広い世界を生み出せるのかと、アーティストの手の成せる技の可能性に感嘆を覚え得ない。また、不思議なのは、白い紙に鉛筆の鉛一色で描かれているにもかかわらず、色彩を感じることだ。これは、良く描けた水墨画を見て色を感じる感覚と同じである。
今の子どもたちが最初に文字に慣れ親しむツールが鉛筆なのか、コンピューターのキーボードなのか分からないが、このレビューを読んでいる方々には、文字を覚え始めた頃に握ったのが鉛筆だという人は多いのではないか。
カッターで削った時の木と芯の匂い、紙に触れて砕ける芯の感触、鉛のにび色の艶。誰もが慣れ親しんだ道具であるからこそ、これらの作品を見ていると、自分の身体感覚とシンクロし、ぐっと世界に引き込まれる。
会期中はさまざまなワークショップが開かれていて、夏休みに家族で楽しめる企画展である。