公開日:2008年7月22日

「アート・スコープ 2007/2008」展

日本・ドイツ間のエクスチェンジプログラムの成果報告

untitled, 2008

「アート・スコープ 2007/2008」展に先立って行われたプレス発表。記者発表では<日本とドイツの間で互いに現代美術のアーティストを派遣・招聘し、異文化での生活体験、創作活動を通して交流をはかる──それがダイムラー・ファウンデーション・イン・ジャパンの文化・芸術支援活動「アート・スコープ」です。>との説明。そして、(展覧会カタログに書いてあるのでここでは割愛しますが、)アートスコープの歴史やダイムラー社のアートとの関わりのお話があり、4人の作家たちのコメント。

4人とも作風もいでたちも異なりますが、静かで、ぽつぽつとお話する感じは共通していて、その静かさやお話のスピードのゆっくりさに、まわりが少しハラハラしているような、時々それが高じて笑いが起こったりしていました。

加藤泉

特に加藤泉さんは、「大変だったけど、楽しかったです!終了!」…まではいきませんが、質問を考えたり、手を上げる隙も無いほど短いコメントで、ぱっと次の作家さんにマイクを渡していました。

untitled, 2008

本人も「すぐにその場所に影響を受けるタイプの作家じゃないので、ドイツに行ったから今すぐどうこうという訳じゃないけど…」と言っていた通り、展示にドイツの影響が顕著に見られるような展示ではありませんでした。しかし、「いつもはドローイングをすると、ドローイングが完成しすぎて、それよりよい作品になることは無いけれど、今回は、ドローイングを手がかりに制作」して、うまくいったようです。記者の人たちが去った後に、加藤泉さんに「コメントが簡潔で短くて、質問を考える暇がなかったですが、わざとですか?」と聞くと、「そう!わざと!作品みればわかるでしょ?」と笑顔で答えてくれました。

照屋勇賢

照屋勇賢さんは加藤泉さんと対照的で、ぽつぽつとですが、お話は長かったです。まるで詩を読んでいるように、言葉を選びながら、単語の対比を遊ぶようにお話していました。写真手前の作品は、ドイツから取り寄せた浮き輪だそうです。「誰かがおぼれていたら、助けてあげられる。お客さんは、ただ見るだけから、誰かを助けることができる。」と、言う照屋勇賢さんは、浮き輪の中に入ってしまって、助けて!と言っているようにも見えました。深刻におぼれては、いないけれど。

The Giving Tree Book (Children\'s book), 2007

横浜トリエンナーレでも見せてくれた、紙から木を作るプロジェクトをここでも行っていました。今回は、Shel Silversteinが描く絵本「Giving Tree」をモチーフにしています。絵本そのものから木を切り抜いていますし、小枝を使って詩を壁面に現しています。この壁面の小枝作品は去年秋にベルリンのギャラリー<Murata & Friends>で個展をした時のものです。私はたまたまベルリンの個展のオープニングに顔を出し、(照屋さんは覚えていませんでしたが)少しだけお話をしていたので、突然のベルリンの思い出が展示してあってビックリしました。ただ、展示の雰囲気は違いました。

Touch a Port Pine Tree Twigs, 2007

インスタレーションは特に、その場所でがらりと形を変えてしまうので、そのぶん面白いし、難しいものです。どっちの展示がよいとか、伝わってくるとか、そういう問題ではなく、違う作品として成り立ってしまいます。

Dawn (Knife)

そうそう。原美術館入り口に展示してある、包丁の柄にはサナギが付いています。蝶もいます。これは標本かと思っていたら、本物でした!びっくり。サナギの殻は薄く、美しいです。まだ中に居るサナギは、厚みがあり金色に光っています。サナギはどんどん孵化してしまうそうなので、サナギと蝶の両方を見たい人は、会期前半に展示を観に行くことをお勧めします。

Eva Teppe

The World is Everything that is the Case, 2003

Eva Teppeさんは映像作品と写真を出品しています。もともとは日本に来たときに鳴り響いて、街中を包み込んでいた「蝉の声」(声の正体がわからず、googleで検索したそうです。)と、その後にみつけた「蝉の抜け殻」が同一線上に結びつかず、とても興味深かったので、それを作品にしようとしたけれど、今回は新作は作らなかったそうです。飛び降りる人々など、もともと在った映像を加工し、作品化しています。

Friedenau, 2006

Ascan Pinckernelleさんは、ドローイング作品です。鉛筆で丁寧に描かれた、風景から切り取られた建築物は、イタリアやドイツのものだそうですが、私は日本の昔の建築物かと勘違いしてしまいました。その国の風景を形成している小さな建築たちですが、切り取られると、使用用途や意味を失い、有機質としての姿と、壁面に映る光と影の美しさを私たちの前に姿を見せてくれます。作家本人は日本に造詣の深い人でした。作品を眺める私に、影を指差しながら「KA・GE」とつたない日本語で話しかけ、漢字練習カードの「滴」と見せながら、「ひらがなやカタカナよりも、意味があるから覚えやすい。」と笑っていました。

4人の作家とも、滞在したことの影響をすぐに出すような作品ではないエクスチェンジプログラムでしたが、これからゆっくりと濾過するように滞在の記憶を作品にしみこませていくのかもしれません。

yumisong

ふにゃこふにゃお。現代芸術家、ディレクター、ライター。 自分が育った地域へ影響を返すパフォーマンス《うまれっぱなし!》から活動を開始し、2004年頃からは表現形式をインスタレーションへと変えていく。 インスタレーションとしては、誰にでもどこにでも起こる抽象的な物語として父と自身の記憶を交差させたインスタレーション《It Can’t Happen Here》(2013,ユミソン展,中京大学アートギャラリーC・スクエア,愛知県)や、人々の記憶のズレを追った街中を使ったバスツアー《哲学者の部屋》(2011,中之条ビエンナーレ,群馬県)、思い出をきっかけに物質から立ち現れる「存在」を扱ったお茶会《かみさまをつくる》(2012,信楽アクト,滋賀県)などがある。 企画としては、英国領北アイルランドにて《When The Wind Blows 風が吹くとき》展の共同キュレータ、福島県福島市にて《土湯アラフドアートアニュアル2013》《アラフドアートアニュアル2014》の総合ディレクタ、東海道の宿場町を中心とした《富士の山ビエンナーレ2014》キュレータ、宮城県栗駒市に位置する《風の沢ミュージアム》のディレクタ等を務める。 → <a href="http://yumisong.net">http://yumisong.net</a>