公開日:2011年8月30日

原美術館 ミン・ウォン「ライフ オブ イミテーション」

シンガポール、ベルリンを拠点とする気鋭の若手作家の日本初個展

2009年にヴェネツィア・ビエンナーレでシンガポール人としては最高の審査員特別表彰を受賞した若手映像作家ミン・ウォンの日本初個展が原美術館にて開催されています。受賞展《ライフ オブ イミテーション》は、受賞後に新たな展示デザイン、歴史的資料等の展示物を加え、世界各地を巡回してきました。そして今夏、いよいよ日本にやってきました。既存の映像作品を作家独自の視点で再演した作品の数々は、一見ユーモラスにも見えますが、シリアスなメッセージが込められ、現代社会の問題を言及しています。

美術館のエントランスも展示会場もまるで映画館に来たかのようです。

シンガポール映画史における貴重な資料が並びます
シンガポール映画史における貴重な資料が並びます
提供:原美術館、撮影:米倉裕貴
入館してすぐの展示室では、映画看板絵や映画資料などが展示され、シンガポールの映画黄金時代を振り返っています。

ミン・ウォン制作の《フォー マレー ストーリーズ》《イン ラヴ フォー ザ ムード》《ライフ オブ イミテーション》はそれぞれCinema1、Cinema2、Cinema3と分けられた展示室で上映されています。

資料とミン・ウォンによる作品の展示構成によりフィクションとリアリティー、過去と現在の対話を実現しています。


《ライフ オブ イミテーション》ビデオ オーディオ インスタレーション (2009)
《ライフ オブ イミテーション》ビデオ オーディオ インスタレーション (2009)
提供:原美術館

《ライフ オブ イミテーション》展示風景
《ライフ オブ イミテーション》展示風景

《ライフ オブ イミテーション》は人種的アイデンティティを取り上げたハリウッドメロドラマ『Imitation of Love』(1959年)へのオマージュとして制作されました。シンガポールの主要三民族、中華系、マレー系、インド系から選ばれた三人の俳優が、登場人物を順番に演じています。鏡を使った展示方法により、鑑賞者までをも、映像内に引き込こむかのような、不思議な映像体験となっています。

意外と知らない他国の抱える社会問題や状況。ミン・ウォンの一見ユーモラスにも見える作品の中に、普遍的な人間のあり様や多種多様な言語と文化が共存するシンガポールの状況が表現されています。アートを通して世界を知ること。それがアート鑑賞の醍醐味の一つのなのかもしれません。

[執筆者]

takimotoeri:東京出身。武蔵野美術大学卒業後、ディスプレイデザイン会社を経て、渡英。Kingston Universityの大学院でキュレーションを学び、卒業後帰国。デザインに関する展覧会に興味があります。

TABインターン

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学生からキャリアのある人まで、TABの理念に触発されて多くの人達が参加しています。3名からなるチームを4ヶ月毎に結成、TABの中核といえる膨大なアート情報を相手に日々奮闘中! 業務の傍ら、「課外活動」として各々のプロジェクトにも取り組んでいます。そのほんの一部を、TABlogでも発信していきます。