公開日:2012年4月9日

みんなで冗談を言い合って、音楽が生まれる<br />アートアクセスあだち「風呂フェッショナルなコンサート」

音楽家、野村誠さんによる駄洒落づくしの“おけストラ”コンサート

野村誠さん
野村誠さん
Photo: Rie Yoshioka
下町情緒が残る足立区千住地域を舞台に、足立智美さん、大巻伸嗣さん、大友良英さん、野村誠さんら4人のアーティスト、音楽家を中心に、市民参加型のまちなかアートプロジェクト「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」が展開されています。(主催:東京都、東京文化発信プロジェクト室[公益財団法人東京都歴史文化財団]、特定非営利活動法人やるネ、足立区、東京藝術大学)

今回ご紹介するのは、音楽家の野村誠さんが2ヵ年計画で構想している「千住だじゃれ音楽祭」の企画第一弾プロジェクト、その名も「風呂フェッショナルなコンサート」。プロじゃないけど風呂でする、桶も叩くおけストラ(オーケストラ)とは!? 立派な日本庭園を見る事ができる「キングオブ縁側」 で、全国的にもその名が知れた銭湯「タカラ湯」を会場に、野村さんと公募で集まった約50人の演奏者が銭湯のお湯や桶などを使って音を奏でるユニークな演奏会なのです。今回は銭湯の湯気と演奏会の練習で熱気ムンムンの現場へ行って来たレポートと、野村さんのインタビューをお届けします。

 

風呂フェッショナルなコンサート♪ 練習レポート

Photo: Rie Yoshioka

演奏会会場のタカラ湯は、普段からアート作品の展示やジャズコンサートを開催するなどユニークな活動をしている銭湯です。北千住駅からいくつもの商店街を抜け、徒歩20分弱の住宅街の中にあります。

今日は本番会場で練習を行います。銭湯に集まった皆さんは、足立区などから集まってきた20人。ホームページや友人の紹介などで、このプロジェクトのことを知ったそうです。

すでに野村さんから企画についてのレクチャーを受けており、今回の練習は初めての実践の場! 水着に着替えて浴槽に移動する前に、まずは脱衣所に集合して、野村さんが作曲したお風呂にまつわる駄洒落ソング「集まれ!風呂フェッショナル」を練習しました。歌詞に盛り込まれている駄洒落は、前回のワークショップで集まったみなさんで出し合ったもの。2年前に野村さんが福岡アジア美術トリエンナーレで披露した混浴合唱「フローリア」も歌いました。

声を出して気持ちよくなったところで、水着に着替えて、いざ洗い場へ。


洗い場では、水面を叩いたり水を掻いて、音を出す練習をしました。
演奏者は3グループに分かれて、桶や手で湯を持ち上げて音を出したり、相撲の突き出しのようなスタイルで音を出したり。グループで話し合って工夫をすることで、実にいろいろな音色が生まれ、高い天井のおかげでとてもよく響いています。

さらに男湯と女湯の二手に分かれて、お互いの音を聞き比べ。湯船につかりながら、それぞれの音を聞いて真似をする「おけチェンジ」もやってみました。壁の向こうの演奏者が出している音を想像して、水面や桶を叩く目の前の演奏者たち。見ている私は、壁の向こうの演奏者が実際どうやって音を出しているのだろう? もしかしたら違うんじゃない? 私も一緒にお湯につかって演奏したい! とハラハラしてしまいました。

予定の時間ギリギリまで練習を行った野村さんと演奏者の皆さん、おつかれさまでした。

© アートアクセスあだち2011「音まち千住の縁」

 


駄洒落で現代アートにいろんな人を呼びいれたい
〜野村誠さんへインタビュー〜

Photo: Rie Yoshioka
———今日の練習はどうでしたか?

野村誠(以下、野村):順調です!!

———銭湯でコンサート、というこの企画のアイデアはどこから来たのですか?
野村:お風呂が好きなんです。さらに銭湯も好きなんですよ。銭湯という空間での音の響きも好きなんです。銭湯はどんどん少なくなっていますが、千住は銭湯が多いと聞いたのでやりたいなと思ったんです。お風呂での音楽会は、過去に福岡で一度したことがあります。お風呂のお湯を演奏する音、つまり水がはねたりバシャバシャして演奏する音は実に豊かだし、銭湯はその音がよく聞こえる環境なんですよ。

———今回のコンサートは「千住だじゃれ音楽祭」の第一弾なんですね。
野村:そうです。「千住だじゃれ音楽祭」は、2ヵ年計画で企画しています。駄洒落は発音が同じ言葉をかけて遊ぶ日本独自のもの。非常にドメスティックで、外国人に分かりにくい言葉の遊びです。特に現代アートの世界では、冷たい視線をあび続け、脚光をあびることもないものです。そして個人的意見ですが、いろんなアートイベントに行っても一番駄洒落を言うようなおじさん世代が来ていない、現代アートとおやじの接点があまりにも薄いのではないか。そんなことを思って、おじさんも含めていろんな人が関われるイベントにしたい、と駄洒落を取り入れました。駄洒落は(言葉の)発音が同じというだけで、無関係なものに関係性をつけるもの。今回披露する駄洒落ソング「集まれ!風呂フェッショナル」の歌詞に出てくる「“ユカタ”ン半島」と「“浴衣(ゆかた)”」は、普通つながらない、駄洒落じゃないと出てこない言葉です。お風呂で“オーケ”ストラって言われたら、“桶”をつかおう、でもオーケストラと桶には本当は何も関係がないんです。もっと駄洒落を考えて、ユニークな企画にしていきたいですね。

© アートアクセスあだち2011「音まち千住の縁」
———演奏会をどういうものにしたいですか?
野村:音に対する驚きの体験をしてもらいたいですね。いい音を聞いてもらって、パフォーマンスがよくて、すごい拍手喝さいで、「良かった」「楽しかった」と見に来たお客さんが言うだけのイベントなら、出演者と観客という関係だけなんです。そうじゃなくて、この演奏会を見に来た方に「自分も関われるんじゃないか」と思ってもらわないと、成功とは呼べない、と考えています。

———演奏者の皆さんに、どういう期待をお持ちですか?
野村:演奏会を楽しんでくれることが一番ですね。僕にとっては仕事ですが、演奏者の皆さんには楽しんで関わってほしいんです。僕の作品を発表するだけなら、「野村誠ソロコンサート」とか「野村誠と風呂によるコンサート」とかいうタイトルのはずでしょう? さっきも「楽器をつくっちゃいました」という人がいましたけど、曲をつくって「これもできませんか」という人もいていいし、演奏者、見に来てくれた方、みんなが参加してくれるコンサートにしたいです。今回はオーケストラという形にしたのは、ひとりで「トン!」とやって大したことなくても、みんなで「ダン!」とすることで迫力があるものになるからです。

———見にいらっしゃるお客さんに対して、一言お願いします!
野村:見てて「いいな」とか「私だったらもっとバシッてやるのに」というように、参加したいと思ってくれたら、僕はうれしいですね。あと、不思議な体験ができるコンサートなんです。見に行ってドラムとベースの人は姿が見えるのに、ギターとボーカルは声しか聞こえないという、そんなコンサートは普通はないですよね。でも今回は、銭湯という場所がら男湯に座ると女湯が見えないという、演奏者が半分しか見えないコンサートなんです。男湯側の観客席で女湯から聞こえる音はどうやって出しているかを想像しながら音を聞く、という体験もしてほしいですね。ぜひ見に来てくださいね!

 

Photo: Rie Yoshioka

イベント情報
野村誠ふろデュース「風呂フェッショナルなコンサート」
日時:2012年3月17日(土)13:00~14:00
会場:タカラ湯(足立区千住元町27-1)
料金:洗い場席 一般1,200円/小学生400円(定員80名)
   脱衣所席 一般1,000円/小学生300円(定員120名)
予約制・先着順

大巻伸嗣「Memorial Rebirth 千住いろは通り」
日時:2012年3月17日(土)12:00〜/15:00〜(各回30分程度)
※雨天決行(荒天の場合は中止の可能性有)
会場:千住いろは通り(千住寿町・千住大川町)
料金:無料
音楽:安野太郎

空飛ぶオーケストラ大実験—千住フライングオーケストラお披露目会
日時:2012年3月20日(火・祝)13:00〜15:00
会場:虹の広場(荒川河川敷)
※雨天の場合は「学びピア21 講堂」に会場変更
料金:無料
出演:大友良英、遠藤一郎、堀尾寛太、梅田哲也、毛利悠子、チャンチキトルネエド選抜メンバー、ほか

詳細 http://aaa-senju.com/

※アートアクセスあだち2011「音まち千住の縁」
「音」をテーマに人と人、人と場所、人とアート、さまざまな縁を結ぶ「音まち千住の縁」。アートアクセスあだちは、足立区千住地域を舞台に、市民とアーティストが協働するまちなかアートプロジェクトを展開しています。

ゲストライター:藤田千彩 アートライター。1974年岡山県生まれ、東京都在住。文章を書くことで、人にアートを伝える・記録する係として活動中。

東京文化発信プロジェクト

東京文化発信プロジェクト

東京文化発信プロジェクトは、「世界的な文化創造都市・東京」の実現に向けて、東京都と東京都歴史文化財団が芸術文化団体やアートNPO等と協力して実施しているプロジェクトです。都内各地での文化創造拠点の形成や子供・青少年への創造体験の機会の提供により、多くの人々が新たな文化の創造に主体的に関わる環境を整えるとともに、国際フェスティバルの開催等を通じて、新たな東京文化を創造し、世界に向けて発信していきます。