公開日:2013年1月30日

Tokyo Art Map ミニ企画「shiseido art egg」

資生堂が毎年実施している公募展「shiseido art egg」。入選者の久門剛史さん、ジョミ・キムさん、川村麻純さんにお話を伺いました!

実は、来号から大幅なリニューアルを迎える『Tokyo Art Map』。ユーザーの意見を反映し、より使いやすくなる予定ですが、斜めに切り込みが入ったこの形はこの号で見納めです。

記念すべき最後の表紙の舞台となったのは、資生堂ギャラリーに展示されていたリー・ミンウェイさんの作品「The Letter Writing Project」の中。
灯籠のような形の部屋に紙とペンが備えられたこの作品は、来場者が思いを伝え残したい人に手紙を宛てるというロマンティックな作品です。

モデルになっていただいたのは、資生堂が新進アーティストの支援活動として毎年実施している公募展「shiseido art egg」の入選者の3名。応募総数293件のなかから選ばれた3名は、2013年1月、2月、3月に資生堂ギャラリーにてそれぞれ3週間の個展を開催します。

今回は展示に先駆けて、入選者の久門剛史さん、ジョミ・キムさん、川村麻純さんにお話をうかがいました!

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左から、ジョミ・キムさん、久門剛史さん、川村麻純さん
左から、ジョミ・キムさん、久門剛史さん、川村麻純さん




■久門剛史さん

オフィスと家の二重生活をめぐって

トップバッターは1月に展示を行う久門さんです。今回の展示では、自身の日々の生活を、音や光、オブジェを使ったインスタレーションで表現した作品を発表します。
平日にデザインの仕事をしながら帰宅後や土日に作品の創作を行うという、忙しい生活を送る久門さん。疲れてアイデアが浮かばなくなった時に、それをそのまま作品にできないかと思ったのが今回の作品のきっかけだそう。

会場には家とオフィスが共存した、一つの空間が出現します。私たちは家とオフィスのそれぞれで電気がついたり、上空で飛行機が飛んだりするのを「音」や「光」で感じることができます。そういった、日々の生活の中で起きる出来事が偶然重なり合う瞬間に美しさを見出そうとしています。

「音」でつくる彫刻

資生堂ギャラリーの高い天井を活かすために用いる素材は「音」。久門さんは彫刻を学んでいた学生の頃に初めて資生堂ギャラリーを訪れ、「この高い天井を立体で埋めるのは大変だなぁ」と思ったそうです。しかしその後、音を使って会場を満たせば広い空間でも展示を成立させられるのではないかと考え、作品づくりのポイントにしました。

久門さんは個人での活動の他に、映像制作などを行う娯楽ユニット「SHINCHIKA」に所属していますが、そこでも「音」を担当しています。久門さんにとって「音」は重要な要素。毎日の生活から様々な方法で「音」をサンプリングして、作品づくりをしています。



久門剛史「あれそれこれどれ」 2012
久門剛史「あれそれこれどれ」 2012




■ジョミ・キムさん

ささやかなものでもいい

続いては、2月に展示を行うジョミ・キムさん。キムさんが作品に用いる素材は、石膏や油絵などではなく誰もが知っているような日用品ばかり。

20歳の時、イギリスの大学に入って一日目からいきなり真っ白な壁に囲まれた自分のスペースを与えられました。他の人たちが写真を撮ったり、油絵を描き出したりしている中でキムさん一人何をしていいのか分からず、目の前にあった空ビンに糸を巻く作業をただただ一日中していました。すると膨大な量になり、まるで日記のようにその空ビンたちが作品として意味を持つようになってきたのです。このことをきっかけにアートに対する偏見がなくなり、肩肘を張らずに制作ができるようになったと言います。

手に触れる時間

身近なものを使う理由は、「手に触れる時間」を重視するからだと語ります。1つの素材に触れている時間が長ければ長いほど、その素材について知ることができるのです。

今回の展示では、消臭ビーズやつけまつげ、ヘリウムガスの風船などを素材にインスタレーションを行います。会期を通して、消臭ビーズが徐々に小さくなる様子や、風船が落ちていく様子などを観察できる展示です。
普段気にもとめないような、取るに足らない消耗品でも単に消費するのではなく思い入れを持つことで、消えていく間に浮かび上がる美しさを発見します。

キムさんにとって「憧れの場所」だという資生堂ギャラリー。銀座という奥深い街の中心に位置するこのギャラリーには、お年寄りから若い人たちまで幅広い層の人々が訪れます。
「日用品で立ち上げられた展覧会スペースがどのように幅広い人々に映るのか楽しみです。」


ジョミ・キム「houses I have lived」 2006
ジョミ・キム「houses I have lived」 2006



■川村麻純さん

「母と娘」という関係

3月に展示を行うのは写真家としても活動されている川村麻純さんです。今回の展覧会では「母と娘」など、家族における普遍的な関係性をテーマにした映像インスタレーションを展示する予定です。

結婚するしない、子供を生む生まない、仕事を継続するか専業主婦になるかという女性の人生の中の選択肢の岐路に川村さんが立った際、母親を絶対的な存在ではなく、女性としてどう生きるかという1つのモデルとして客観視できるようになった経験がこの作品を制作するきっかけになっているそうです。また、女性という存在が社会を反映しやすい性別であり、現在の社会を映し出す題材になるのではないかと考え、さまざまな年代の女性たちに母親についてインタビューし作品を制作しています。

「母と娘」など家族という関係性は、誰にとっても身近な問題でありながら、改めて意識する機会が少ないテーマかもしれません。幅広い層の方が訪れる資生堂ギャラリーにぴったりですね。

カメラや観客に「委ねる」

以前は写真を使用し作品を制作していましたが、東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術科で写真家の鈴木理策さんに学び、大判カメラの使用を勧められたことがきっかけで、映像インスタレーションへと作品が変化しました。大きくて扱いにくいカメラによって、自分の主観だけではなくカメラに「委ねる」撮影ができるようになったそうです。撮影者が撮影したい被写体の顔を撮影するのではなく、その人の表情を捉えることで現代におけるポートレート写真を撮影できるのはないかと考え、デジタル一眼レフカメラを用い動画を撮影するようになりました。

今回の展示では、観客がただスクリーンを眺めるような通常の映像作品のスクリーン配置ではなく、スクリーンや声といった空間に鑑賞者が入ることで成立するインスタレーション作品を予定しています。作品の鑑賞を通して、ドキュメンタリーとフィクションの関係性、女性の一生という時間についても考える契機になる展示になるように考えています。


川村麻純「Mirror Portraits」 2012
川村麻純「Mirror Portraits」 2012




—— ありがとうございました!
今回3名の入選者の方々に共通しているのは、テーマや素材の「身近さ」です。
日々の暮らしに潜む些細な事柄や感情に潜む美しさを、三者三様の視点から発見します。
銀座というラグジュアリーな街の真ん中で、アートをより身近に感じることができる展覧会になるのではないでしょうか。



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[TABインターン]
Ai Kiyabu: 89年生まれ。美学を専攻する大学生。編集者目指して、雑誌「GINZA」でアルバイト中。Sputniko!展にスタッフとして参加後、アートと社会の関わりに興味を抱く。趣味はアウトドア。バッグ一つで生きていける人生を模索中。

TABインターン

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学生からキャリアのある人まで、TABの理念に触発されて多くの人達が参加しています。3名からなるチームを4ヶ月毎に結成、TABの中核といえる膨大なアート情報を相手に日々奮闘中! 業務の傍ら、「課外活動」として各々のプロジェクトにも取り組んでいます。そのほんの一部を、TABlogでも発信していきます。