公開日:2015年4月25日

「和歌を愛でる」展

和歌から広がる日本美術の世界

1月9日から根津美術館で開催されている、「和歌を愛でる」展の内覧会に行ってきました。今回の展覧会は、和歌をテーマに古筆、屏風絵、蒔絵の硯箱、茶道具などの厳選された名品が展示されています。日本の文化を感じる機会の多い新春にぴったりな展示でした。

《吉野龍田図屏風》(江戸時代 17世紀)
《吉野龍田図屏風》(江戸時代 17世紀)

ひときわ展示で存在感を放ち、目を引くのが「吉野龍田図屏風」です。見事な春の吉野の桜と秋の竜田川の紅葉が描かれた一双の屏風で、「古今和歌集」、「玉葉和歌集」に収められている吉野と龍田、桜と紅葉の名所を詠んだ和歌が、絵の中に短冊に書かれている形で描かれています。風景から和歌を、そして詠まれた和歌から風景を思い描いて愛でていたのだなと感じました。


そして「扇面歌意画巻」は修理後初の展示、かつ展覧会で100図すべてを公開する初めての機会。和歌100首と、各歌を連想させる扇面画を100図描いた、いわゆる「扇の草子」と称されているものです。和歌の意味内容を絵画で表現した歌絵は平安時代に流行しており、扇の草子もこの伝統に連なる作品とのこと。有名な歌は、下の写真にもあるように、分かるようにパネルで和歌が表示してあります。

《扇面歌意画巻》(江戸時代 17世紀)
《扇面歌意画巻》(江戸時代 17世紀)
和歌と扇の絵柄がリンクしている

和歌からの連想をより楽しむ作品の一つが「花白河蒔絵硯箱」です。蓋表に満開の桜の下に佇む烏帽子狩衣姿の公達が描かれ、桜の幹から土坡に「花・白・河」の三文字が「葦手の手法」と呼ばれるもので表されていることにより、『新古今和歌集』巻16、飛鳥井雅経(あすかいまさつね)の歌「なれなれてみしはなこりの春そともなとしら河の花の下かけ」の歌意による意匠が暗示されているそうです。見る側がまずその歌を知っていること、そして作り手側が作品に込めた趣向に気づいた上で楽しむことが求められていて、文化度の高さにただただ感服されるばかりです。

《花白河蒔絵硯箱》(室町時代 16世紀)根津美術館蔵
《花白河蒔絵硯箱》(室町時代 16世紀)根津美術館蔵
隠された字を見つけ出すのも楽しい

根津美術館では、この「和歌を愛でる」以外にも、「小袖の彩り」や「百椿図」の展示が同時開催されています。「百椿図」は、100種類以上の椿とそれに合わせて和歌が書かれている絵巻で、椿そして紅白の色彩が新春らしい展示でした。


伝 狩野山楽筆《百椿図》
(江戸時代 17世紀)

水戸光圀公が「いさはや」という椿を詠んだ歌

その他、新年に合わせ吉祥や干支などおめでたいものを選んでいる茶道具や常設の展示もあり、様々な展示を一度に楽しむことができました。改装されてから今回初めて根津美術館を訪れたのですが、隈研吾設計の美術館自体や趣のある庭園を眺めるだけでも楽しく、充実した時間を過ごせました。今年の初美術鑑賞には、新春の気分を味わえる根津美術館を選んでみてはいかがでしょうか。

入口を入ってすぐの広間に展示されている仏像の数々
庭園にはカフェがあり(右手奥)鑑賞後にゆっくりできます

[TABインターン]
安田七海:東京都出身。大学院卒業後、就職したもののその後紆余曲折を経て来年から法律を学ぶ予定。アートは未知なる世界への入口と捉え、TABを活用して様々な展示へ足を運ぶ。趣味は他に読書・散歩・食。

TABインターン

TABインターン

学生からキャリアのある人まで、TABの理念に触発されて多くの人達が参加しています。3名からなるチームを4ヶ月毎に結成、TABの中核といえる膨大なアート情報を相手に日々奮闘中! 業務の傍ら、「課外活動」として各々のプロジェクトにも取り組んでいます。そのほんの一部を、TABlogでも発信していきます。