公開日:2014年9月5日

夏ミューぽんでアートの旅に出かけよう!(青森編その1)

青森県立美術館「美少女の美術史 『少女』について考えるための16の事柄」フォトレポート。

Tokyo Art Beatによる美術館・アートイベントの割引アプリ、ミューぽん。この夏、ミューぽんが北は青森から南は鹿児島まで、全国に拡大しているのをご存知ですか?せっかくの夏休み。9月には連休もありますよね。ふだん都内や都内近郊の美術館しか行かない方も、思い切って遠い地方の美術館に足を伸ばせるチャンスです。夏ミューぽんでお得にアートの旅に出かけてみましょう。

ということで、本州最北の青森までアートの旅に行ってきました!一日目は、青森県立美術館で開催中の「美少女の美術史 『少女』について考えるための16の事柄」展へ。美術館までは、JR青森駅から市営バスで約20分、JR新青森駅からはルートバスねぶたん号で約10分とアクセスも良好です。


会期1年ほど前から特設サイトが設けられ、すでに話題になっていた「美少女の美術史」展。100名以上の作家による約300点もの作品が並び、噂にたがわぬ充実の内容になっていました。日本の美術のさまざまな分野において長らく愛されてきたモチーフである「美少女」。その歴史的ルーツを紐解きながら、江戸時代の浮世絵から現在の漫画やアニメ、キャラクターに至るまで、そのイメージの変遷をたどります。



鈴木春信《見立寒山拾得》1765年中判錦絵26.9×19.6cm 千葉市美術館

20世紀初頭、「少女」の誕生
美少女の表象は、江戸時代の「美人図」までさかのぼることができます。江戸初期の菱川師宣、中期の鈴木春信、喜多川歌麿らの浮世絵師は、若い女性をモチーフにした半身図や見返り図を数多く描いています。
「少女」という概念が一般に定着したのは、20世紀初頭の明治期だといわれています。近代的な学校制度の整備によって女学生という身分が生まれ、袴を着て学校に通う女学生たちが登場しました。しかし、当時学校に通えたのはごく限られた裕福な層だけでした。学校に通えない一般の女性たちは、1902年に日本で初めて創刊された少女雑誌『少女界』を読むなどして、女学生のライフスタイルに憧れたのです。

戦前の「美人画」ブーム
明治末期~大正期には、画壇において「美人画」と呼ばれる絵画が流行し、西では上村松園、東では鏑木清方が活躍しました。透き通るような白い肌に赤い紅を引き、着物をまとったうら若い女性のイメージは、日本の理想の女性像として広く愛されるものでした。昭和初期には、女学生や若い女性のイメージはより一般的なものとなります。酒類や服飾品、デパートなどの広告では、「イメージガール」として若い女性や少女が描かれ、商業的に消費される対象として少女表象が用いられるようになります。

橋本花乃《七夕》1930~31年 紙本着色、二曲一双屏風 各176.0×176.4cm 大阪新美術館建設準備室蔵

戦後に花開く少女文化
戦前では裕福な一部の少女たちにしか手の届かなかった「おしゃれ」や「あそび」といった文化を、戦後には一般層の少女たちも楽しむことができるようになります。少女雑誌『ひまわり』『ジュニアそれいゆ』では、松本かつぢ、中原淳一、内藤ルネをはじめとしたイラストレーターが活躍しました。彼らの挿絵は、ただ可愛いだけでなく、夢とあこがれをもち、知性豊かな大人の女性になるための準備を促すものでもありました。これらの少女雑誌では、理想の女性になるためのマナーや所作まで掲載されており、まさに少女たちのバイブルだったのです。

内藤ルネ『ジュニアそれいゆ』第32号表紙絵をモチーフにした内藤ルネによる後年の模写 1960年 紙、水彩 33.5×48.0cm株式会社ルネ蔵 ©R.S.H/RUNE


手塚治虫《「リボンの騎士」『なかよし』1964年6月号 ふろく表紙絵》紙、鉛筆・水彩 42.0×29.7cm ©手塚プロダクション

「戦う少女」と「魔法少女」
60~70年代前後になると、手塚治虫『リボンの騎士』や、赤塚不二夫『ひみつのアッコちゃん』、横山光輝の『魔法使いサリー』、さらに80年代にはわたなべひろし『魔法のプリンセス ミンキーモモ』や高田明美『魔法のクリィミーマミ』などの女の子向けテレビアニメが放映されるようになります。武器を持って敵と戦ったり、魔法を使ったりするこれらの少女像は「ほかの人とはちょっと違うわたし」に憧れる女の子たちの変身願望を満たすものとして広く受け入れられていきます。

そして現在へ
平らな顔に大きな瞳、ちいさな鼻と口、そしてセーラー服。例えば現代のアニメキャラクターの特徴をこのように挙げることができるでしょう。Mr.《Goin To A Go-go!!》では、現代の萌え文化を象徴する造形言語が、横長の大画面に敷き詰められています。このようなアニメ・キャラクター文化において、必ずと言ってよいほどその中心には「美少女」が描かれています。私たちはそれを当然のことのように思いますが、それはなぜ当たり前なのでしょう。考えると現在の社会構造がみえてくるかもしれません。

Mr.《Goin To A Go-go!!》2014年 キャンバス、アクリル 648.0×259.0cm ©2014 Mr./Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

また、谷口真人《Untitled》では、手前のアクリルボードにぼやけた少女像が描かれており、奥の鏡を覗くと、アクリルボードの裏に描かれた鮮明な少女像がみえてくるという仕掛けになっています。鏡越しにしか捉えることの出来ない少女の輪郭や表情は、語られることのない彼女の内面性を表しているようにもみえます。
現代アートにおける「美少女」表象は、見つめられ、そして消費される対象である彼女たちの主体性や意思がどこにあるのか、という問いを提起するものでもあります。
谷口真人《Untitled(部分)》2014年 木製フレーム、鏡、アクリルボードにアクリル絵具、グリースペンシル 204.0×124.0×45.0cm 個人蔵

美少女なんて、いるわけないじゃない。
「美少女」はかわいらしさ、純粋さ、無垢さの象徴として、日本の美術において重要な役割を担ってきたモチーフです。しかし視点を変えれば、少女たちは常に見られる対象であり、見る者の願いや欲望を投影する装置として機能してきたということでもあります。かわいらしく美しい彼女たちは、私たちがつくりあげた単なる幻想なのかもしれません。「美少女なんて、いるわけないじゃない。」 作品から見つめてくる彼女たちの視線からは、そんな本音がポロリと垣間見えたようにも思いました。

会期中にライブペインティングをおこなったobさんの作品
会期中にライブペインティングをおこなったobさんの作品
青森県下北半島の恐山や遠野の伝承に着想を得たという。

青森県田舎館村イメージキャラクター「いち姫」
また、会場では太宰治の『女生徒』を題材にした展覧会のオリジナルショートアニメが放映されています。さらには青森県田舎館村とゆかりある戦国時代の武将・小山内讃岐の娘を題材にしたご当地キャラクター「いち姫」も紹介されています。

ダイジェストでレポートしてきましたが、会場ではさらに幅広い時代や視点から集められた「美少女」たちが展示されています。日本の歴史と美術の大きな流れから、現代に至るまで、少女という存在に私たちが何を求めてきたかを振り返ることのできる貴重な展示です。お見逃しなく!

今展示は9月7日まで。また9月22日からは静岡県立美術館にて、12月13日からは島根県石見美術館へ巡回する予定です。

次回は十和田市現代美術館「そらいろユートピア」展のレポートです。ご期待ください!

▼青森県立美術館へのアクセス
JR新青森駅からの場合: 車で10分、ルートバスねぶたん号 新青森駅東口バス停から乗車で約10分
JR青森駅からの場合: 車で20分、青森市営バス青森駅前6番バス停から運転免許センター行き乗車で約20分

▼割引アプリ「ミューぽん」でお得に楽しもう!
「美少女の美術史 少女について考えるための16の事柄」は一般300円、大高生は200円引きになります。(2名様まで有効) ※青森会場のみ

8月31日まで、アプリ価格200円の夏休み特別セールを実施中です!

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[TABインターン] 吉村真里奈: 西洋近代美術を専攻する学生。美術館やギャラリーを巡るうちに、学校では学ぶことができない「今起きている」アートに関心をもつようになる。休日には吉祥寺Art Center Ongoingのお手伝い。好物はグミ。

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学生からキャリアのある人まで、TABの理念に触発されて多くの人達が参加しています。3名からなるチームを4ヶ月毎に結成、TABの中核といえる膨大なアート情報を相手に日々奮闘中! 業務の傍ら、「課外活動」として各々のプロジェクトにも取り組んでいます。そのほんの一部を、TABlogでも発信していきます。