公開日:2014年9月18日

夏ミューぽんでアートの旅に出かけよう!(青森編その2)

十和田市現代美術館「そらいろユートピア」展フォトレポート。

Tokyo Art Beatによる美術館・アートイベントの割引アプリ、ミューぽん。現在ミューぽんが北は青森から南は鹿児島まで、全国に拡大しているのをご存知ですか?うだるような夏の暑さも引き、芸術の秋がやってきました!9月には連休もありますよね。ふだんは都内や都内近郊の美術館しか行かない方も、思い切って遠い地方の美術館に足を伸ばせるチャンスです。ミューぽんでお得にアートの旅に出かけてみましょう。

青森編一日目の記事、青森県立美術館「美少女の美術史」展のフォトレポートは こちら から。

さて、二日目は青森から十和田に場所を移し、十和田市現代美術館に行ってきました。十和田市現代美術館は、市街地の商店街を抜けた官庁街通り沿いにあります。この官庁街通り一帯は、その昔軍馬を育てる土地だったといいます。それに由来して、路地に馬蹄が埋められていたり、鞍の形をした案内板や馬頭の車よけなど、馬にちなんだデザインのオブジェがみられます。

官庁街通りを挟み美術館の向かい側には、公園のようなアート広場が広がっています。草間彌生さんの≪愛はとこしえ十和田でうたう≫やエルヴィン・ヴルムさんの≪ファット・ハウス&ファット・カー≫など、旅の思い出に記念写真が撮れそうなスポットです。館内スタッフの方いわく、草間さんのかぼちゃオブジェのなかで寝泊まりするひともいるとかいないとか?


そして現在、十和田市現代美術館では、企画展「そらいろユートピア」展が開催されています。

東日本大震災から三年半が経ち、だんだんと震災の記憶が薄れていくように思われる昨今。「そらいろユートピア」展は、震災時に見知らぬ人たちが声を掛け、手を取り合って生まれたユートピアのような空間について、もう一度考え直そうと企画されました。今展を企画したチーフキュレーター・小澤慶介さんが感銘を受けた<Cafe de Monk>の活動記録を中心としながら、はじめて出会う人たちとゆるやかにつながるコミュニケーションのあり方や、それによって形作られる一時的な場について考える作品が並びます。

Cafe de Monk(カフェ・デ・モンク)は、「Monk」(お坊さん)が被災者の方々の「文句」を聴き、共に「悶苦」する、そんな場をコーヒーやケーキとともに提供する移動式の傾聴カフェです。東日本大震災をきっかけに立ち上がったこのプロジェクトは、北は岩手県山田町から南は福島県南相馬市まで、これまでに150か所以上の被災地を訪れてきました。展示では、発案者でリーダーの金田諦應(かねたたいおう)住職のインタビュー映像、写真アーカイブ、実際に使われている看板などを紹介しています。

金田住職のお話では、自分の呼びかけによって様々な宗派のお坊さん達、さらには宗教を超えてキリスト教の神父さんもが集まったといいます。東日本大震災から49日目には、集まったお坊さんや神父さんたちが、各々のお経や賛美歌を唱えながら海岸線を行脚したそうです。
小澤さんは、「私たちの世の中は、決まりごとやしがらみが意外と多くてなかなかそうした思い切ったことができないのですが、それを軽く飛び越えて宗教者がつながり、過酷な状況に花を咲かせるように安心できる場を作っていく。そうしたCafe de Monkのエネルギーと芸術の潜勢力は同質だと思ったのです。」といいます。

Cafe de Monkの隣には、被災地と私たちの距離感について考えさせられる作品がありました。

守章≪終日近所≫

守章さんは、東日本大震災以前から、防災放送をモチーフに『終日23区』などのプロジェクトを手掛けてきました。誰もが聞いたことがあるだろう、夕刻を告げる「夕焼け小焼け」。これには防災放送のテストという、もう一つの目的があります。『終日近所』では、守章さんがかつて住んでいたまちの生活音がインターネット回線を通して、美術館にライブ配信されています。時折かすかに聞こえてくる童謡のメロディーは、当たり前の日常世界が震災によって非日常世界に一転する時を待っているかのようにも聞こえてきます。


三田村光土里さんは、海外滞在を繰り返しながら、記憶や記録から生まれる物語をテーマに映像を制作しています。今回は、外国の友人と現地で久しぶりに再会した会話を録音し、それを友人の住む土地の情景と重ね合わせた作品が展示されています。三田村さんとその友人が再会を喜ぶ会話と、どこともわからない土地の情景。ぼんやりと眺めていると、後方から澄んだ歌声が聞こえてきました。
『Till We Meet Again』。第一次大戦時に離ればなれになった兵士とその恋人の心中を歌った曲です。旅の出会いと別れ。出会った人々とのつかの間の「ユートピア」をしのび、いつかまた会える日を願うきもちは、多くの人たちが共感できるものです。


山本高之さんは、子どもたちに「知る」「習得する」「考える」を促すワークショップを行い、そこに現れる子どもの想像力や素直な反応を記録しています。今回の山本さんのターゲットは、秋田県の厄払い行事で悪い子どもたちを戒めるなまはげ。今年の2月8日に行われたワークショップ『なまはげと生きる』の成果をもとに、子どもたちが「なまはげ」に近づくために質問をする様子が映像インスタレーションで展開されています。メッセージ映像では、目の前になまはげがいるのを想像しているのでしょうか。子どもたちの表情からは「なまはげ」に対する恐怖や畏怖の感情が伝わってきます。一方で、子どもたちがなまはげに宛てた手紙の中では、「どうしていつも怖そうにしているのですか?」という素朴な質問から「風邪をひいていませんか?」「元気でいてください」など、なまはげを気遣う言葉も。未知なるものとの遭遇するとき、私たちは恐れながらも、相手を思いやるきもちを持っているのだと気付かされます。


「そらいろ」に込められた意味



「そらいろユートピア」展の「そらいろ」は何を指しているのでしょうか。
Cafe de Monkの金田和尚は、震災直後の被災地の海は「色がなくなってしまった」といいます。人々の手により震災復興が徐々に進み、世界に色が戻ってくるのを見るなかで、「色即是空」「空即是色」を実感したといいます。仏教用語である「色即是空」は、この世のすべてものに実体はなく、空無であるという意味です。実体のなく移り行く世界でも、人々の助け合いによって生まれる「ユートピア」があるのかもしれません。そこには、たとえ見知らぬ人同士であっても、相手を思いやることの出来る人間の豊かな想像力があるのです。
震災から日常の生活が戻ってきたかに思われる今こそ、アートを通して互いを思いやることについて考えてみませんか?



「そらいろユートピア」展を見終わったあとは、常設展へ。白い部屋の天井裏に驚きの世界が広がる、栗林隆≪ザンプランド≫や、高さ4mものリアルな女性像、ロン・ミュエク≪スタンディング・ウーマン≫など、五感で体験できる現代アートの作品が展示されています。
カフェスペースでは、マイケル・リンがてがけた鮮やかな花柄のタイルで彩られた空間が広がっています。帰り際には、ゆったりとしたソファでくつろぎながらお茶を楽しんで。十和田市現代美術館でしか買えない、オリジナルグッズも販売されています。

次回は青森編最終回、十和田の街なかアートをご紹介します!

▼割引アプリ「ミューぽん」でお得に楽しもう!
「そらいろユートピア」展はミューぽんで100円引きになります。(2名様まで有効)
ミューぽんをお供に芸術の秋を満喫しよう!

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[TABインターン] 吉村真里奈: 西洋近代美術を専攻する学生。美術館やギャラリーを巡るうちに、学校では学ぶことができない「今起きている」アートに関心をもつようになる。休日は吉祥寺ArtCenterOngoingのお手伝い。好物はグミ。

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学生からキャリアのある人まで、TABの理念に触発されて多くの人達が参加しています。3名からなるチームを4ヶ月毎に結成、TABの中核といえる膨大なアート情報を相手に日々奮闘中! 業務の傍ら、「課外活動」として各々のプロジェクトにも取り組んでいます。そのほんの一部を、TABlogでも発信していきます。