公開日:2015年2月10日

リナ・シェイニウス インタビュー

「Exhibition 03」 親密でリアルなものを求めて 日々の記録《ダイアリー》から

ロンドン在住のスウェーデン人写真家リナ・シェイニウスの日本初個展「Exhibition 03」及びそのサテライト展「Lina Scheynius」がそれぞれタカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム及びPOSTにて同時開催中です。

10歳から独学で写真を学んだシェイニウスは、Flickrを通じて注目を集め、依頼を受けて撮影したシャルロット・ランプリングのポートレイトが『Dazed & Confused』に採用されたことを皮切りに、プロの写真家としてのキャリアをスタートさせました。以後、『Vogue』『AnOther』など多くのファッション雑誌への掲載を経て、ドイツの週刊新聞紙『Die Zeit』ではドイツ人写真家、ユルゲン・テラーからフォトコラムを引き継ぎ、1年間に渡って連載しました。国際的に注目を浴びる彼女の作品は、世界最大のフォトフェア「Paris Photo」やアムステルダムのフォトフェア「UNSEEN」にも出展しています。
今回は、東京での展覧会の準備の為に来日していた彼女にインタビューを行いました。

まずはじめに、あなたのキャリアについてお聞きしたいと思います。もともとファッションモデルをされていたと伺いましたが、なぜ写真家に転身したのですか。
実はモデルの仕事は好きではありませんでした。不健康になり、自分自身のイメージに囚われるようになっていく、そんな時期に写真をたくさん撮るようになりました。ファッション写真よりももっとリアルに感じられるなにかをとらえたいと思うようになったのです。モデルのような受動的な職業においては、誰も自分が考えていることを聞いてきませんから、私を撮っている写真家を観察する時間が充分にありました。それに、モデルはいつまでも出来る仕事ではありません。25歳でもう年をとりすぎていると見られ、多くのモデルは第2のキャリアを探さなくてはなりません。転職は一夜にして成ったものではありませんが、私は幸運なことに写真家に転身することになりました。

その転身があなたの写真作品に影響を与えている部分はありますか?
はい。もしモデルをやっていなかったら、今頃写真を撮っていなかったと思います。というのも、しばしばファッションといった過剰に飾り立てたものに温かみや誠実さが欠けているように感じていたので、そういうものに対して、より親密で生でリアルなもの、表面的なものを全て取り払った後に残るようなものを描き出すことで抗いたかったのだと思います。

何故その手段として写真を選んだのですか。
別に写真である必要はありませんでした。ただ、たまたまそうなっただけ。写真というメディアを好きな理由をあげるとすれば、その速さと簡易性だと思います。自分や自分の恋人、家族、友達のなにかを撮りたいときに、写真というメディアがうまく機能するからだと思います。なんとなく、合うのです。

写真 高橋健治

モデルであることへの嫌悪とも言うべきその考えに反して、セルフ・ポートレイトをたくさん撮られています。その意図を聞かせてください。
勿論他者を撮ることもありますが、私が被写体に望むことを正確にやってもらうことは難しいと感じています。セルフ・ポートレイトの場合は、被写体と撮る者の間に障壁がなくなり、誰かの感情を巻き込んだりすることなく、自分のアイディアを形にできる。それは私にとって大切なことです。

話を転じて、日本初の個展についてですが、日本には以前にも来たことはありましたよね。
はい。2000年、19歳のときにモデルの仕事で来て、4週間滞在しました。ずっと日本の写真が好きだったので、また来ることができてうれしいです。私は日本にもたくさんフォロワーがいるので、とても歓迎されているように感じました。

好きな日本の写真家は誰ですか。
アラーキー(荒木経惟)と川内倫子が好きです。森山大道もすばらしい。特にアラーキーは長年大ファンでした。「センチメンタルジャーニー」という写真集が好きで、その私的で、誠実で、親密な作品に写真家のキャリアを始めた頃強く影響を受けました。作品に表れている彼の旺盛な好奇心といつも新しいものを追求する姿勢が好きです。

写真 高橋健治

今回の展覧会のコンセプトはなんですか。また、日本の人々に伝えたいメッセージはありますか。
そうですね、「Hello, Hello Japan」とか?(笑)
活動の多くが感情や本能をベースにしているので、それらについて説明するのは不得手です。タカ・イシイギャラリーでの展示は日本の皆さんに向けた私の作品の紹介になっています。ダイアリーと題し、ここ10年間自分の身の回りや自分自身について記録してきましたが、展示内容はそれらの中からのセレクションです。多くはセルフ・ポートレイトで、ほとんどが誰も居ない中一人で撮ったものです。本展「Exhibition 03」は私の3度目の個展であり、写真集と同様に番号を冠しています。
また、POSTで開催中のサテライト展示は、最新号の作品集「07」からのインスタレーション作品で、制作の裏側のような展示になっています。ですので、二つの展覧会を同時開催しているのは面白いと思っています。

ダイアリーとはどのような意味を含んでいますか?
紙の日記も書いているのですが、毎日書くこともあるし、何も書かないこともある。いつも現在の出来事に関してというわけではないけれど、気持ちを吐き出す一つの重要な方法であり、私の周りの世界を整理する方法でもある。私の写真はそれに似たものです。何かを紙の上に示し、表現し、あるいは残す必要があります。私は毎日写真を撮るスタイルではありませんが、写真を撮ることはいつも私をハッピーにしてくれます。それと、私は退屈しているとたくさん写真を撮るみたいです。

写真 高橋健治

最後に、写真集について伺いたいと思います。最新刊「07」が出版され、タカ・イシイギャラリーで購入可能です。この「07」では内容やレイアウトに大幅な変更が加えられているそうですね。ところであなたの写真集はいつも小数部しか出版されておらず、既刊分の問い合わせも多いかと思います。増刷する計画などはありますか?
写真集を出版することについて最も興味があるのはその制作過程です。少なく作れば、また次に移れる、その連続が好きなのです。それから、私の写真集を手にしてくれた人が何か特別なものを持っていると感じてほしい。色々な方に同じことを聞かれますが、増刷はするつもりはないです。前に出た写真のうちいくつかが、またいつか違う写真集に収録されることはあるかもしれないけれど。

インタビュー中、彼女は自分の気持ちを確かめるように一つ一つの言葉を選んでもの静かに喋りました。その姿勢にも、よりリアルで親密なものを求めるシェイニウスにおける、世界を捉えるための一貫した哲学を見ることが出来ました。

リナ・シェイニウスの展示は、タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムにて1月31日まで開催中。

[TABインターン] 木谷静香: ビジュアルアートやメディア学を学ぶ大学生。幼い頃から両親に国内外の美術館に連れられ、アートとライフスタイルの関係に興味を持つようになる。マナティーという不思議な生き物と紅茶と雨の日が好き。

TABインターン

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学生からキャリアのある人まで、TABの理念に触発されて多くの人達が参加しています。3名からなるチームを4ヶ月毎に結成、TABの中核といえる膨大なアート情報を相手に日々奮闘中! 業務の傍ら、「課外活動」として各々のプロジェクトにも取り組んでいます。そのほんの一部を、TABlogでも発信していきます。