公開日:2015年12月22日

日産アートアワード2015:ファイナリスト7名による新作展をレポート!

グランプリは誰の手に!? 会期は12月27日(日)まで

日産自動車が主催する現代美術のアワード「日産アートアワード2015」のファイナリストに選出された7名の新作展が、11月14日(土)から12月27日(日)までBankART Studio NYKにて開催されている。
展示されているのは、秋山さやか、久門剛史、石田尚志、岩崎貴宏、ミヤギフトシ、毛利悠子、米田知子の7名の作品。展覧会での作品展示と最終審査を経て、グランプリが1名選出される予定だ。

グランプリには賞金計300万円に加え、英カムデン・アーツ・センターの協力のもと、2ヶ月間のロンドン滞在も提供される。滞在では、カムデン・アーツ・センターが培ってきた専門的知見や国際的な人的ネットワークが惜しみなく提供される。アーティストにとって世界のアートシーンを牽引する美術関係者との交流や、現地のアートシーンを肌で感じることは、アーティストのキャリアや創作活動のさらなる展開につながることになるだろう。2013年に続き2回目の開催となる今回、グランプリは誰の手に渡るのか。7名それぞれの作品の見どころをレポートしていこう。

秋山さやか

秋山さやかの作品《侵食す 9.1 19 29 10.3 11.7 8 13》は、自らがその土地で生活し、歩いた軌跡を布に縫い付けたもの。約2ヶ月半にわたり、BankART近くに滞在した秋山の記憶が、半透明の巨大な布と鮮やかなステッチによって紡ぎだされる。

秋山さやか《侵食す 9.1 19 29 10.3 11.7 8 13》

近づいて布をよく見ると、そこに印刷されているのは関内や馬車道付近の地図。その上に、この地で集めたという糸やリボンだけでなく病院の診察券や郵便物の不在票など、秋山の生活の痕跡が貼り付けられ、地図を侵食していく。

また、作品周辺の壁面には、秋山が制作のためにBankARTのスタジオ内に入館した時間と退館した時間も描かれている。これらの数字もまた、空間を侵食しているといえそうだ。

久門剛史

光、音、立体などを駆使した空間全体で記憶の再現を創り出す久門剛史。《Quantize #5》と名付けられた今回の作品では、薄暗い空間の中に鏡の巨大な集合体が鎮座し、コツコツという鉛筆の音、それに連動する裸電球、風にそよぐカーテンなど、記号化された日々の現象が不規則に立ち現れる。そして、巨大なノイズ音がランダムに流れ、部屋のすべてをノイズで押し流す。

久門剛史《Quantize #5》

あえてランダムに動作するようプログラミングされたさまざまな音や響きは、人為的なものでありながら、一種の自然を表現している。同じシーンは二度と現れないこの空間の中で、鑑賞者はいつか・どこかで体験したことがあるような、曖昧な記憶を再体験することになる。

石田尚志

石田尚志のドローイングは静物としての絵画からやすやすと抜け出し、自在に飛び跳ね、躍動する。画家であり、映像作家であり、自らの身体も用いたパフォーマンスを行う石田の作品は、まるでそれ自体が個別の生き物のようにさえ見える。

石田尚志《正方形の窓》

長方形のフレームには正方形の窓が映し出され、それを軸にアニメーションが展開していく。今回の新作のモチーフになったのは、エドガー・アラン・ポーの密室だという。「窓と壁」「渦」「反復」など、石田尚志ならではのテーマが、密室の中で蠢く。そこには、石田のダイナミックな身体の痕跡や時間の集積が映し出されている。

岩崎貴宏

終戦後70年を迎えた今年は、広島出身であり被爆3世である岩崎貴宏にとっても大きな意味を持つ年であったという。原爆が落とされた後の土地をイメージした《アウト・オブ・ディスオーダー(70年草木は生えなかったか?)》では、岩崎自身と、祖母、母、姉、甥の四世代を含む人毛でランドスケープを制作。

岩崎貴宏《リフレクション・モデル(羅生門エフェクト)》

また、黒澤明の映画『羅生門』をモチーフにした《リフレクション・モデル(羅生門エフェクト)》は、墨汁を染み込ませたひのきを用いて、実像と水たまりに映る上下に反転した羅生門を立体化。1950年という、第二次世界大戦後5年という時期に制作された映画にも、原爆の影響が色濃く現れているはずだ。単に美しいだけではない、死や刹那といったイメージが付帯した作品が展示されている。

ミヤギフトシ

ミヤギフトシが2012年から取り組んでいる、沖縄やセクシャルマイノリティーを扱ったプロジェクト「American Boyfriend」の連作が発表される。ヴァイオリン弾きのアメリカ兵と沖縄人ピアニストの交流が、アメリカと沖縄、セクシャルマイノリティーといった複雑な関係性の中でねじれ、独特の位相へと迷いこんでいく。

ミヤギフトシ《南方からの17通のノート》

作品はミヤギによるリサーチやインタビュー、映像、写真、手紙によって複合的に構成されており、フィクションともノンフィクションともつかない、浮遊感を持った物語が生み出される。また、バッハのシャコンヌの楽譜など物語で重要な要素を占めるアイテムが展示されている。

毛利悠子

駅の構内で時折目にする、雨漏りを処理するためのビニールやパイプ。その駅員たちによるブリコラージュに芸術的発想の原点を発見した毛利悠子は、2009年から「モレモレ東京」として雨漏りの対処方法を写真に収めるフィールドワークを行ってきた。今回の新作は、同プロジェクトの集大成として、雨漏りを立体作品として自身の手にて再現したもの。

毛利悠子《モレモレ:与えられた落水 #1-3》

計3つ制作された作品は、それぞれ水をパイプにて汲み上げ、ビニールや傘、自転車の車輪などを経由してポンプに水が戻るという、循環型のシステムとなっている。パイプの中を水が通り、脈動する様子は血管のようにも見える。数々の雨漏り事例を収集してきた毛利による都市の姿をユーモラスに捉えた作品群。

米田知子

写真家として活動する米田知子は、写真の根本的な役割=記録を主軸に据え、人間の歴史や記憶に向き合い続けてきた。アルベール・カミュのエッセイ「Neither victims nor executioners」(被害者でも執行者でもなく)のタイトルを引用して掲げた今回の作品では、B-29の墜落現場、朝鮮半島の南北分断の軍事境界線地域、画家・藤田嗣治の日本出国を助けたGHQ民政官に送った電報など第二次世界大戦の歴史にまつわる風景、人物、物が取り上げられた。

米田知子 展示風景

これら新作の他、「積雲」シリーズの菊、サダコの折り鶴、「Scene」シリーズから靖国神社の桜などもあわせて展示されている。旧作から新作まで、さまざまな歴史的断片を連ねて見ることで、過去と今を見つめなおすシリーズとして新たな発展を遂げている。

そうそうたるアーティストたちが名を連ね、その新作が一斉に展示される貴重な機会だ。これらの作品を鑑賞できるのは12月27日まで。見逃す手はない。

■日産アートアワード2015 ファイナリスト7名による新作展

2015年11月14日(土)~ 12月27日(日)
会場:神奈川県横浜市中区海岸通3-9 BankART Studio NYK 2F
時間:11:00~19:00(11月24日はイベント開催のため、一般入場ができません)
料金:無料

「ファイナリスト7名によるアーティストトーク」
2015年11月14日(土)、11月21日(土)、11月22日(日) 15:00~16:00
会場:神奈川県横浜市中区海岸通3-9 BankART Studio NYK 2F
出演:
11月21日(土) 秋山さやか、石田尚志
11月22日(日) 米田知子、ミヤギフトシ
料金:無料(各回定員40名、要事前申し込み)

「グランプリ・アーティストによるトーク」
2015年11月28日(土) 11:30~12:30
ゲスト:飯田志保子(キュレーター / 東京藝術大学美術学部先端芸術表現科准教授)
料金:無料(定員40名、要事前申し込み)

「ギャラリーガイドツアー」
2015年11月21日(土)、11月28日(土)、12月5日(土)、12月12日(土)、12月19日(土)、12月26日(土) 13:00~13:45
料金:無料(各回先着20名)

※出演者、スケジュールは諸般の事情で予告無く変更する場合があります。

日産アートアワード2015
公式サイト:http://www.nissan-global.com/JP/CITIZENSHIP/NAA/
Facebook:https://www.facebook.com/NissanArtAward
Twitter:https://twitter.com/NissanArtAward

Koushiro Tamada

Koushiro Tamada

玉田光史郎。熊本県生まれ。ファッション/カルチャー系の出版社に勤務後、広告の制作ディレクターを経て、2014年よりフリーランスのライター/ディレクターとして活動。趣味は園芸とクライミング。