公開日:2015年12月22日

橋本麻里さん、五百羅漢図展から縄文土器までの編愛を語る!「シンクル大学」第一回 イベントレポート

カルチャーへの愛を編集するリアルイベント「シンクル大学」、初回はTokyo Art Beatとコラボ開催!

「好き」を共有することで、シンクロするプロフィールを楽しむスマートフォンアプリ『シンクル』、もう使ってみましたか?偏愛多き人が集う場として、「好き」を編集するリアルイベント「シンクル大学」が開講しました。12月9日に開催された第1回は、「シンクル大学 カルチャー編愛学部 第1回 アート編愛学科」と題し、数ある偏愛の中でもカルチャー、さらにアートへの愛を編集する方法を、美術ライターの橋本麻里さんのトークから学びます。会場には仕事帰りの大人の姿が目立ち、ディープなアート好きが多そうな雰囲気です!



実際に『シンクル』を使ってみると、従来のSNSと違って匿名のため、より純粋に好きなものについて語り合うことができます。自分の好きなものについてコメントを書き込むうちに、シンクルの中に自分の好きなものがどんどん溜まっていくのを見るのが楽しみでもあります。他の人からのコメントで新しい世界を知るのが楽しくて、好奇心が旺盛な人ほどはまってしまいそう。

シンクル大学学長のドミニク・チェンさん(右)、学部長として司会進行も務めた塚田有那さん(左)から、シンクルのコンセプトとイベントの趣旨の説明

イベント前半のトークは、橋本さんの興味の幅広さが窺える3つのテーマ紹介から始まりました。”知の全体性”というキーワードから選んだテーマには、知識やものが時代を超えてアーカイブされていくことに魅力を感じる橋本さんの編愛が詰まっています。

1. 「村上隆の五百羅漢図展」
森美術館で「村上隆の五百羅漢図展」を開催中のアーティスト・村上隆。橋本さんは、『美術手帖 2016年1月号』で村上隆特集の監修を務めました。過去何度も同誌で特集された村上隆ですが、今号では中国美術・東アジア美術・日本美術・イタリア文学などの専門家への取材により、歴史・地理・文化など周辺からその仕事を浮き彫りにしていきます。

橋本「村上さんが制作の柱にしてきた日本美術とサブカルチャーは、ともに引用と改変をベースにしてきたジャンル。村上さんが東京藝大で初めて博士号を取得した日本美術は、もともと中国美術の伝来から生まれています。現代美術家として作品を売ることやアーティストの自立についての発言も目立つ村上さんですが、レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロ・ブオナローティの時代から、政治・経済が美術作品・作家との関係を作ってきたことは明白です。
日本では、織田信長や豊臣秀吉といった権力者をクライアントとして大量の作品を制作するため、狩野派が集団によるクリエイションを発達させました。今回の個展では、村上さんから現場で実際に美大生たちに向けた指示が書き入れられた下絵も展示されています。そして出来上がった作品は村上隆の名の下に発表される。クリエイションはどこにあるのかということも考えさせられますが、実は狩野派に代表される、オーソドックスな制作スタイルとも言えるのです。
五百羅漢図は、3.11の後、カタールの要請で制作されたもの。藤田嗣治の戦争画以来、日本に存在しなかった『国民の絵画』を意識して描かれた作品ですね。」

2. 博物館・図書館
俯瞰的に歴史を見たい欲求があると語る橋本さんが持参した、貴重なコレクションの一部を参加者の間で回覧していただきました!

およそ5000年前、縄文時代の土器の破片

紀元前400年〜200年頃、中国戦国時代の青銅の腕輪。お墓に納められたものの偶然土がかぶっていなかったため、周りについている鈴は今でも音が鳴ります。この音を当時の人たちも聞いたと思うと!

時代を超えて受け継がれてきた「もの」に直に触れると、時間感覚がいつもと変わってきます。次に取り出したのは、12世紀〜13世紀の南宋の青磁の破片。
橋本「古くは漢代から焼成が始まり、何種類もの青磁が生まれた中で、もっとも高く評価されているのは、北宋時代の官窯「汝窯(じょよう)」で生まれた、雨過天晴(うかてんせい)と呼ばれる青色です。今日はそれに近い、南宋時代の青磁の破片を持ってきました。完品(かんぴん)ではわからない釉薬の層の状態などが、断面からうかがえます。こうした青磁が、その後歴史上初の”グローバルなヒット商品”となる染付に先駆けて、人気を博しました。」

「こういったものを保管・展示する博物館という施設のありかたについて楽しみながら考えることができるのが、丸の内にあるインターメディアテク。現代の博物館は、学問的な正しさによって分類・展示がなされていますが、ここで見られるのは、近代以前に博物館の役割を果たした「驚異の部屋」に近い展示方法。東京大学総合研究博物館館長を務める西野嘉章教授の偏愛にあふれています…!西野教授は、旧帝大時代からの家具や備品など、大学内で捨てられたものまでも蒐集していました。それらのモノの新しい見方・使い方とその美しさが提示されています。」

3. 宮沢賢治
作家や詩人として知られる一方で、もともとは鉱物への興味が深かった宮沢賢治も、橋本さんが気になる人のひとり。国立科学博物館での2014年の企画展「石の世界と宮沢賢治」を楽しんだエピソードを交え、鉱物への愛を語ります。
橋本「雑誌『夜想』に連載された、銀座のギャラリー「かんらん舎」オーナーの大谷芳久さんの鉱物コレクションを写真家の畠山直哉さんが撮影したシリーズがとても美しかったんです。ほとんど現代美術になっている。人間が侵すことのできない自然や宇宙の世界の美しさにも感動しますが、一方で人間が作ったものがこんなに美しいのかと感動することもある。どちらも人間がちっぽけな存在に感じます。」
「科学関連では、「巨大科学萌え」のFacebookページも気に入っています!巨大な重機や観測機器などは、人間が自然世界という神の領域に分け入るために作られた巨大なもの。宗教画も同じく、人間が神の領域に近づくためのものですが、「巨大科学」は不恰好なかたちのいじらしさにきゅんとします。」

江戸時代に登場した嵯峨本の復刻本も紹介。雲母(きら)刷りによる模様が美しく浮かびあがる

イベント後半では、参加者が自分の偏愛を「編愛シート」に書き込み、隣の人と交換することでリアルの場で「編愛トーク」を体験しました。初対面の人とも意外に共通の偏愛が見つかって盛り上がれるところに偏愛の力を感じます。

ここで、共有した編愛をシンクルへ投稿してみることに。まずは橋本さんが初投稿しますが、ここでも編愛が炸裂します。
「塚本邦雄による和歌の現代語訳が好きですね。翻訳することばのよろこびにあふれています。そもそも、歴史は誤訳だらけなんです。」
あるものが文化の外からもたらされ、ローカライズして変化を遂げながらさらに広がっていくというのは、アートの歴史にも共通する面白さですね。参加者からも次々とトピックが投稿され、共感の声が上がったり、見たことのない単語に質問が飛び交いました!

橋本さんがシンクルに投稿したトピックはこちら。ピンと来た方は、コメントしてみると橋本さんからコメントがもらえるかも?トピックを投稿するときは、タグをつけると盛り上がりやすいですよ。

アートとそれをとりまく歴史と知を俯瞰する編愛を学んだシンクル大学第一回。次回はマンガをテーマに開催予定です。詳細はシンクルのTwitterをチェックしてみてください!

・『シンクル』は「シンクロするプロフィール」という意味の共感コミュニティです。
 気軽に自分の”好き”を話して、”好き”を広げられる空間をつくれます。Android版も近日リリース予定!
シンクル App Storeサイト

・橋本麻里さんとドミニク・チェンさんは、毎週日替わりで「NHK NEWS WEB」(NHK総合テレビ)のナビゲーターを務めています。
http://www3.nhk.or.jp/news/newsweb/

・橋本さんが編集・執筆を手がけた日本美術全集(小学館)は、1月に全20回の配本が完了予定。
http://www.shogakukan.co.jp/pr/nichibi/

Sayo Tomita

Sayo Tomita

東京の西側で生まれ育ち、学生時代は美術館やギャラリーをはしごして過ごす。IT企業、大自然と大都会という環境の異なる二つのアートセンターなどを経て、Tokyo Art Beatの運営チームに加わる。アート、音楽、言葉、人、美味しいものなど、日々の新しい発見と驚きが原動力。