公開日:2016年3月30日

古く新しいストリートアート、サインペイントが渋谷の街をセレブレートする

スミノフの新アートプロジェクトにてアメリカのデザイナー、ブライアン・パトリック・トッドが作品を制作

店舗の外壁や看板などに描かれるサインペインティングは、ストリートアートとしてはクラシックな立ち位置にあるが、ここ数年来、アメリカをはじめとした国々で再び注目されている。そして2016年3月、日本でも渋谷PARCOパート1の外壁に新しいサインペインティングが描かれることになった。「Share Our Voice」のレタリングの周囲を、人々のさまざまな願いが囲んでいる。

今回のプロジェクトは、スミノフアイスがパッケージデザインの大幅な変更にともなって開催する「SMIRNOFF(R) Global Art Project」の一環。スミノフのブランドメッセージである「インクルーシブ」、つまり人種・文化の違いを受け入れ、新しい人、新しい経験にオープンになり、すべての人々がひとつになるというコンセプトが根底にある。そしてプロジェクトで作品の制作を手がけたのは、アメリカのケンタッキー州で活動するアーティスト、ブライアン・パトリック・トッドだ。東京の中でも特にストリートアートの印象が色濃い渋谷で、どのようなサインペインティングが描かれるのだろうか。制作途中のブライアンに話を聞いた。

ー現在の制作の進み具合はいかがですか。予定していた以上のスピードで制作が進んでいると話を聞きましたが。

想像以上に早く進んでいるよ。アメリカだと上下に動くリフトを使って制作するんだけど、日本の足場は素晴らしくて、上下にも左右にも自由に動くことができる。パートナーのカービー・スタッフォードと2人で同時にミューラル(壁画)を制作することもできるから、ものすごく作業が早く進んでね。こんな足場はアメリカでは見たことがないよ、持って帰りたいくらいだね(笑)。

ブライアン・パトリック・トッド
ブライアン・パトリック・トッド

ー作品には日本語の文字も描かれていますね。今回の作品のコンセプトを、教えていただけますか。

今回のプロジェクトは、日本の人々のいろいろな願いを事前に応募して、ミューラルとして渋谷の壁に描くというものなんだ。ストリートアートの大きな特徴として、その土地に対してメッセージを伝えるということがある。今回チャレンジしたかったのは、春という変化の時期において、新しいことを始めようとする人々の願いを表現することで、渋谷という街をセレブレート(祝福)すること。それも、自分の言葉ではなく、みんなの言葉として。他の人の言葉を作品に取り入れるというのは初めての体験だったよ。こうした機会を与えてくれたスミノフにはすごく感謝している。

ー最近は日本でもサインペインティングが増えてきたように思います。アメリカでは、サインペイントは社会でどのように受け入れられているのですか。また、サインペイントが注目を浴びてきているのはなぜだと思いますか?

日本とアメリカでは、受け入れられ方に多少違いがあるかもしれない。アメリカでは、サインペイントで描かれる文字のスタイルは、1940年代や50年代から受け継がれているものが多い。とても歴史が長いんだ。アメリカでは、サインペイントは街の歴史の一部であり、街中の窓やレンガに素晴らしい作品が描かれていることもある。サインペイントはもともと広告であり、コンピュータが登場する以前から使われていたものだからね。そして、アートというよりは、むしろクラフトなんだ。最近サインペイントが増えてきているのは、コンピュータやテクノロジーが発達してきたことによって、その揺り戻しとしてクラフトマンシップを目にしたいという欲求が高まってきたんじゃないかな。

ーストリートアートといえばグラフィティを想像する人も多いと思いますが、サインペイントはグラフィティと比べてより社会性があるように感じます。グラフィティとサインペイントとの違いは?

サインペインティングは、そもそも伝統的にビジネスとして行うもの。そして、グラフィティはビジネスではなく、こっそりと描かれて、すぐに消されてしまうもの。サインペイントはそこに何十年も存在することがあるし、商業的な意味での機能もある。作品が残る期間は大きな違いだと思う。サインペイントが街中で長年存在していれば、人々の目にも馴染んでくるものだから。

ーストリートでのペインティングは、街の人々に対して開かれた行為ですよね。制作中は、通行人との偶然のコミュニケーションも発生しますか?

うん、人々の反応はあるし、それを見るのも大好きだね。それがストリートアートの醍醐味だと思っているよ。制作中、人々と話す機会は多い。作品をデザインする際には、それが街の環境にどう影響するのか、すごく考慮するんだ。街の人々とエンゲージして、その土地をセレブレートするような作品を作りたいから。今回のプロジェクトでも、いろいろな年代、職業の人が興味を持ってくれて、話をしたよ。特に日本語の文字を描き始めてからは立ち止まる人が増えたと思う。日本語が描かれることによって、それまでと違う観点で見てくれるようになってきたのかな。

ー場所をセレブレートするためには、事前にその土地について知ることが必要であるように思います。いつも事前の調査などは行うのですか?

もちろん、できる限り行うようにしているよ。その場所の人々にとって適切に感じられる作品を作りたいと思っているから。ただ、今回は日本に来ることが初めてで、一度も行ったことのない場所で作品を作るという意味では新しいチャレンジだった。インターネットなどで調べるしかなくて。でも実際に来てみると、渋谷はカラフルな街で、すごく大好きになったよ。エネルギッシュで、みんな礼儀正しい。ニューヨーカーに似ているところもあるかな。それと、日本の街中でも、素晴らしいと思えるサインを目にすることがあって、その土地での文字の機能の仕方について考えさせられたよ。

ー今回の作品には、いろいろな願いが描かれていますよね。特に印象に残った願いはありましたか?

どれかひとつ、というものはないかな。個人的に、バラエティを見せたいと思っていて、いろいろな願いを含めるようにしたんだ。家族のこと、自分のこと、世界のこと。幅広い願いをまとめて見せることで、素晴らしいステートメントの集合として表現できたと思う。

ー実は作品を見るまで、願いが日本語で描かれているとは思っていませんでした。英語以外の言語で描くというのはどんな体験でしたか?

英語以外の言語で作ったのは初めてなんだ。アルファベットとも同様、日本語にも自然な動きがあるはず。それを正しくペイントしようと心がけた。これも自分にとって新しいチャレンジで、素晴らしい体験になったと感じているよ。もう1度やってみたいくらいだね。

ーまた日本で作品を作ってくれることを楽しみにしています。ありがとうございました。

(Text: 玉田光史郎 Koushiro Tamada)

Koushiro Tamada

Koushiro Tamada

玉田光史郎。熊本県生まれ。ファッション/カルチャー系の出版社に勤務後、広告の制作ディレクターを経て、2014年よりフリーランスのライター/ディレクターとして活動。趣味は園芸とクライミング。