公開日:2018年10月12日

『鉄工島FES 2018』インタビュー【後編】:タイトルに込められた想い

東京都・大田区に一夜限りで出現する「鉄工島」を紐解く

記事の前編はこちらから:『鉄工島FES 2018』インタビュー【前編】:『鉄工島FES 2018』に懸ける想い

『鉄工島FES』看板
『鉄工島FES』看板
写真:佐藤美晴

鉄工島という名前に、漠然としたロマンを感じているのは私だけだろうか。京浜島がモノづくりの街であり、そこに職人が居るというのは、特別なことじゃない。しかし、そこに、「鉄工島」と名付けることで、途端にファンタジーの世界を彷彿させるような、ロマン溢れる響きに変貌を遂げるのだ。
このタイトルにはどのような意図があったのか。そこには、「鉄工島」という言葉に込められた、熱い想いがあった。

「鉄工島だからこそ生まれてくる場所性みたいなものを感じてくれたら」by 松下さん

—『鉄工島FES』というタイトルについて、どう思いますか?

松下)良いタイトルだよね。日本はモノづくりの国っていうけど、実際はもう過去の歴史になりつつある。それは悪いとは思わないんだけど、もともと京浜島や日本の社会が持っていた記憶や、モノを作るっていう姿勢を大切にしていく気持ちを表現できている。
鉄の島って言ったら、昔は、ただの鉄工所の集まりでしょ、みたいなかんじで、ファンタスティックな感じはしなかったんだ。でも今は、鉄工所の集まり、素敵そう!ってなる。それがやっぱり今の時代なんだろうな。

—それは、時代が移ってきたからこそのイメージの変化ですか?

松下)そうだね…製造業が弱くなってきている今の日本っていう難しい状況を反映している言葉でもあると思う。
例えばアーティストは大きい製造業ではないけど、モノをつくるっていう行為自体には、すごい共通するものがあって。そもそもお互い何をつくってるのかわからない。でも、結局モノづくりって、通ずる部分が絶対あるわけ。綺麗ですね、とか。モノをつくっている人ならではの視点やコミュニケーションがあるからこそ、互いに共有していけるし、世の中にも発信していけるっていう社会の形を見せられたらいいな。
そういうところだからこそ生まれてくる場所性みたいなものを、『鉄工島FES』を見に来た人が感じてくれたらいいなって思います。

「幻の鉄工島が、この日だけ、京浜島の一角に立ち現れる」by 伊藤さん

伊藤)タイトルの『鉄工島FES』はもう、思いついちゃったんだよね。鉄工島だー!って。普通に京浜島フェスにしたいんじゃなくて、鉄工所に働くモノづくりの魂自体をフィーチャーしたいな、と思っていて。
鉄工島っていうこと自体は、隣の昭和島も城南島も、あるいは他の都市の鉄工所の島でもありうるなって。この普通の地図の上に、もう一つ違う地図を作って、架空の島を重ねる。そうすると、幻の鉄工島が、この日だけ、京浜島の一角に立ち現れるみたいになればいいなと思っています。

—私が感じたイメージは、まさしくそんな感じでした!

伊藤)そう思ってくれるのは嬉しいね。去年は1回目だったし、鉄工所の島っていうのを印象づけたかった。ただ、そうすると、ザ・昭和の島と思われて、ノスタルジックになりがちで。単なるノスタルジーとか産業遺産とかで終わらせていたら現状を認めただけになってしまう。そうじゃなくて、そこからでもクリエイトすることができるよっていうのを今年は伝えたい。そのためには外国人とか、宇宙人とか、若者とか、よくわかってない人が見た方が、よっぽどここを面白く解釈してくれるんじゃないかな。

「鉄工島FES 2018 コンセプトビジュアル」
「鉄工島FES 2018 コンセプトビジュアル」
©NEWPARADISE

—だから今年のビジュアルは宇宙人なんですか?

伊藤)そう、そのことを私がずっと言ってたら、ああいうビジュアルができて、全然鉄工島と違うから大丈夫かな、と思っているんだけど。
この祭りがなかったら出会わなかった人たちと、ここで出会うきっかけになってほしい。
アーティストがこの島に来てくれると、また違った解釈で、全然違う方向性で捉えてくれる。鉄工が昭和のイメージの鉄工じゃなくなるかもしれないな、と思います。

—なるほど。私が鉄工島にロマンを感じたのは、ノスタルジックな要素があったからかもしれません。もちろんそういう要素に惹かれて興味を持つ方もいると思いますが、そこをターゲットにしているわけではないんですね。

伊藤)見たことない風景を作りたいんです。ゴミは汚くて不要なもの、家電って古い、みたいな固定概念もあるけど、そこからでも面白く遊べるし、生産できるし、クリエーションできるし。そうしていったら、蘇るんじゃないかなって思って。

—蘇るっていうのは?

伊藤)新しいことに出会うことによって、京浜島の単なる日常が面白くなるって感じ。ここにいる一人一人が、違う回路に目覚めて、みんな鉄の楽器とかつくりはじめちゃったりして。思わぬ才能に開花していったら面白いな。異常な光景になるかもしれないけど、そうなったら初めて鉄工島って言える。

—では、鉄工島と名付けてはいるけど、実はまだ鉄工島ではない?

伊藤)これから鉄工島を探していくって感じですね。

—おお!それはすごい、物語みたいですね。地図の上にもう一つの地図を重ねて、幻の島を立ち現していくという…。

伊藤)今、本当に、1人1人と出会いながら、一つ一つ鍵を開けている状況なんだ。あらゆる人に、発火するスイッチみたいなのがあるはずなので。
今って、新しく都市を作るとか、人のコミュニティーを作ることっていうのは、場所を整備することとかじゃないと思うんだよね。もっと内側のことだったり、見え方を変えることだと思う。そうすれば、同じ世界でも違う世界に見えてくるはず。
そういうのがアートの役割だと思うし、アーティストが出来ることでもあると思うし、ささやかな私たちの取り組みがもたらす変化だと思っていて、そっちの方が、面白いんじゃないかな、って。

2018年現在、東京では、都市の構想や整備が進み、スクラップアンドビルドを繰り返しながら、絶え間なく様相が変化し続けている。しかし、人々の日常が重なり合いながら、その土地が持つ場所性に由来して、生活の文脈を継いで立ち現れてくる文化を目にする機会は少なくなっているように思う。私は、『鉄工島FES』を、これから長い時間をかけて変化を遂げていく、文化の創造地点である、と感じている。こういった地点、瞬間に立ち会えることの喜びを、ぜひ多くの人に感じていただきたい。

9月6日に開催された『鉄工島FES 2018』オープンBBQ(左より: 松下徹さん、中野貴輔さん、高木賢祐さん、伊藤悠さん、そして田中直史さん)

■開催概要
『鉄工島FES 2018』
日時: 11月4日(日) 11:00〜20:00(予定)
会場: 大田区・京浜島内4会場 (BUCKLE KÔBÔ・須田鉄工所 ほか)
入場料: 前売り 5400円・当日 5900円
クラウドファンディング: 10月15日(月)まで
〈LIVE / 出演アーティスト〉
石野卓球 / ∈Y∋ / PBC / 七尾旅人 / Kan Sano / KAKATO(環ROY×鎮座DOPENESS) / Brigadoon / and more…
〈ARTWORKS / 参加アーティスト〉
SIDE CORE / コムアイ(水曜日のカンパネラ) / 和田永「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」/ NEWPARADISE / 花坊 / and more…

[TABインターン] Miharu Sato: 早稲田大学文化構想学部3年の、「面白い人とたくさん出会う」をモットーに生きる現役大学生。色んな人との不思議な縁を手繰っていたら、TABインターンに行き着いた。アートも映画もテレビも音楽も、どれも少しずつちゃんと好き。

TABインターン

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学生からキャリアのある人まで、TABの理念に触発されて多くの人達が参加しています。3名からなるチームを4ヶ月毎に結成、TABの中核といえる膨大なアート情報を相手に日々奮闘中! 業務の傍ら、「課外活動」として各々のプロジェクトにも取り組んでいます。そのほんの一部を、TABlogでも発信していきます。