公開日:2020年1月24日

TABユーザーと編集部が選ぶ2019年の展覧会ベスト10

Tokyo Art Beatで1年間に紹介した約5000件の展覧会・イベント情報の中からもっとも注目を集めた展覧会トップ10を紹介。

Tokyo Art Beatが2019年に公開した展覧会・イベント数は約5000件。それらすべての情報をチェックできるTABアプリのクリップ機能「行った」「行きたい」の総数=票数とし、TABユーザの関心度がもっとも高かった展覧会ベスト10を紹介する。

「塩田千春展:魂がふるえる」の会場風景
「塩田千春展:魂がふるえる」の会場風景
Photo: Xin Tahara

1位:「塩田千春展:魂がふるえる(森美術館、6月20日〜10月27日)
ベルリンを拠点に国内外で作品を発表してきた塩田千春の過去最大規模の個展が堂々の1位に。SNSやテレビなどでも連日のように取り上げられ、会期130日間で総入館者数が66万6271人(六本木ヒルズ展望台 東京シティビューとの共通チケット)を記録したことも話題となった。 これは、2003年のオープニング展「ハピネス:アートにみる幸福への鍵 モネ、若冲、そしてジェフ・クーンズへ」に続く、森美術館歴代入館者数第2位の記録。TABアプリの「行った」+「行きたい」は1242票。

2位:「クリスチャン・ボルタンスキー – Lifetime(国立新美術館、6月12日〜9月2日)
歴史や記憶、人間の存在の痕跡などをテーマに、世界中で作品を発表してきたクリスチャン・ボルタンスキーによる過去最大規模の回顧展が2位にランクイン。現代フランスを代表するアーティストであり、「空間のアーティスト」と自負する本人が会場を構成した本展は、初期作品から最新作までを時系列に紹介するのではなく、ひとつの大きなインスタレーションとして設計。ほぼ同時期の開催となった塩田千春展とは「死」のテーマがともに通底し、2019年夏の六本木エリアを象徴する2つの展覧会となった。TABアプリの「行った」+「行きたい」は850票。

3位:「ジュリアン・オピー(東京オペラシティアートギャラリー、7月10日〜9月23日)
最低限の線と点からなるポートレイトが代名詞、ジュリアン・オピーの日本の美術館では11年ぶりの大型個展が3位にランクイン。日本では電通本社ビルや高松港近くのパブリックアートでも知られるオピー。この展覧会では絵画、彫刻、映像をはじめ初公開となる作品を発表し、展覧会公式グッズも人気を呼んだ。TABアプリの「行った」+「行きたい」は808票。

4位:「六本木クロッシング2019展:つないでみる(森美術館、2月9日~5月26日)
森美術館が3年に1度、日本の現代アートシーンを総覧するために開催してきた定点観測的な展覧会シリーズ「六本木クロッシング」。1970〜80年代生まれの日本の作家25名を「つないでみる」をテーマに紹介する本展が4位にランクインした。シリーズ初の試みとして、同館の3名のキュレーター(椿玲子、徳山拓一、熊倉晴子)が共同キュレーションを行った本展は、セクション(章)を設けないことで有機的なつながりを生み出すことも試みた。TABアプリの「行った」+「行きたい」は702票。

5位:「CHRISTIAN BOLTANSKI – ANIMITAS II(エスパス ルイ・ヴィトン東京、6月13日〜11月17日)
クリスチャン・ボルタンスキーが近年意欲的に取り組む「アニミタス」は、人里離れた広大な野外風景と風鈴からなる作品シリーズ。本展では、そんな「アニミタス」シリーズより、日本の豊島で撮影された《ささやきの森》とイスラエルの死海のほとりで撮影された《死せる母たち》を藁の香りが充満する空間で上映した。2位の国立新美術館での個展とあわせて訪れた人々も多かったのではないだろうか。TABアプリの「行った」+「行きたい」は649票。

6位:「トム・サックス ティーセレモニー(東京オペラシティ アートギャラリー、4月21日〜6月23日)
6位は、プラダのロゴが描かれた便器、エルメスの包装紙を模したマクドナルドのバリューセットなど、「手作り(ハンドメイド)の既製品(レディメイド)」とも評される作品を手がけてきたトム・サックスの個展。日本の伝統的な茶の湯の世界とそれを取り巻く様々な儀礼や形式を独自の解釈で再構築した作品を制作するため、2012年から本格的に茶道を学び始めたというサックス。日本国内での発表を念頭に置いてきたサックスの念願の個展でもあった。TABアプリの「行った」+「行きたい」は619票。

7位:「クリムト展 ウィーンと日本 1900(東京都美術館、4月23日~7月10日)
展覧会開催が予告された2018年よりファンを中心に大きな話題となっていたクリムト展は7位にランクイン。19世紀末ウィーンを代表する画家グスタフ・クリムト(1862-1918)の没後100年を記念する本展では、日本では過去最多となる25点以上の油彩画が紹介された。なかでも注目を集めたのは、円熟期のクリムトが手がけた《女の三世代》の初来日。ほかにも、ウィーンの分離派会館を飾る壁画の精巧な複製による再現展示のほか、同時代のウィーンで活動した画家たちの作品、クリムトが影響を受けた日本の美術品など、ファンのみならず楽しめる充実した内容となった。TABアプリの「行った」+「行きたい」は584票。

8位:「ダムタイプ|アクション+リフレクション(東京都現代美術館、11月16日〜2020年2月16日)
11月16日に開幕した「ダムタイプ|アクション+リフレクション」が早くも8位にランクイン。1984年、京都市立芸術大学の学生を中心に結成された「ダムタイプ」は、中心的存在の古橋悌二(1960-1995)をはじめとするメンバーが独自の表現活動を展開しつつコラボレーションを行ってきた。そんなダムタイプの今回の大規模個展は、新作を含む6点の大型インスタレーションを一挙に見られる国内でも貴重な機会ゆえに、TABアプリの「行きたい」では、1位の塩田千春展に続く2位・432票となっている。「行った」+「行きたい」は580票。

9位:「百年の編み手たち:流動する日本の近現代美術(東京都現代美術館、3月29日〜6月16日)
大規模改修工事のための3年間の休館を経て、ついにリニューアルオープンを迎えた東京都現代美術館。その、リニューアル後第1弾となる企画展「百年の編み手たち -流動する日本の近現代美術-」展は9位にランクインした。1914年に発表された作品を起点に現代まで、同館のコレクションのみで構成された本展。TABアプリの「行った」+「行きたい」は544票。

10位:「加藤泉 – LIKE A ROLLING SNOWBALL(原美術館、8月10日~2020年1月13日)
原始美術を思わせる、ミステリアスで力強い「生命体」の表現を特徴とし、国内外で作品を発表してきた加藤泉。10位にランクインした個展は、絵画や彫刻など最新作約30点を展示し、吹き抜け部分に大判のファブリックを用いたインスタレーションが出現している。ハラ ミュージアム アークで同時開催の個展とあわせてチェックすることをおすすめしたい。なお、原美術館は2020年12月をもって閉館することが決定している。TABアプリの「行った」+「行きたい」は511票。

「TOKYO 2021」の会場外観
「TOKYO 2021」の会場外観
Photo: Xin Tahara

TAB編集部が選ぶ2019の展覧会

TOKYO 2021 美術展「un/real engine ―― 慰霊のエンジニアリング」(TODA BUILDING 1F、[建築展]8月3日~8月24日、[美術展]9月14日~10月20日)
Tokyo2020を目前にした東京において、戦後復興のためにあった五輪、万博を念頭にキュレーションされた展覧会。未曾有の大災害のあとには必ず祝祭があったが、その祝祭とはそもそも何なのか、その後わたしたちは何をしてきたのか、そしてこれからすべきことを新旧の世代のアーティストを交えて問うものだった。山内祥太によるVR体験そのものを俯瞰させる《Lonely Eyes》、舞台としたゼネコン大手が最重視する安全性を逆手に取り、地下を「水没」させたHouxo Que《un/real engine》など、見どころも多かった。ここ10年の東京でそこかしこにてスクラップ・アンド・ビルドで開催されてきた「廃ビル展覧会」のフィナーレと言えるだろう。(Xin)

◎「加藤泉 – LIKE A ROLLING SNOWBALL(原美術館、8月10日~2020年1月13日)
日本人アーティストだが、日本ではなかなかまとめて見ることができなかった加藤泉。作品バリエーションの豊かさ、邸宅建築である館と作品が呼応した展示構成、庭園に配置された作品群の遊び心が素晴らしかったです。大御所アーティストの個展は数あれど、「東京」を中心に運営するTokyo Art Beatとして、展示全体の完成度の高さから選びました。(Natsuki)

◎「DECODE/出来事と記録-ポスト工業化社会の美術(埼玉県立近代美術館、9月14日〜11月4日)、イケムラレイコ 土と星 Our Planet(国立新美術館、1月18日~4月1日)、アート・プロジェクト KOBE 2019:TRANS-(新開地地区、兵庫港地区、新長田地区、9月14日〜11月10日)
DECODE/出来事と記録-ポスト工業化社会の美術: For its thorough research and reframing of Mono-ha to include more contemporary artsits. イケムラレイコ 土と星 Our Planet: Very extensive, impressive retrospective with an Alice-in-Wonderland vibe. アート・プロジェクト KOBE 2019:TRANS-: Well-executed, very site-specific event that captured the curator and artists’ visions. (Company dorm painted in all black was especially memorable).(Jenni)

◎「バスキア展 メイド・イン・ジャパン(森アーツセンターギャラリー、9月21日〜11月17日)
When someone as well-known and mythical as Basquiat is exhibited, the hits are expected. But there is also an expectation of new discoveries, unfamiliar works from a lesser known period. These were on show, as well as Basquiat’s connection with Japan during his life. I serched for a favorite that decorated my dorm room wall many years. Sadly, it was not there. However, there were so many spooky self-portraits, “porks”, and crooked crowns to keep a visitor satiated. Legends can disappoint, this one did not.(Terry)

丹羽良徳「誰も要求していない計画に全会一致で合意する」(GALLERY X BY PARCO、4月19日~5月7日)
労働や経済、全体意思がテーマとなっている丹羽さんの作品が移転前のGallery Xの暗いアングラな雰囲気ととてもマッチしていた。作品自体の怪しさ、可笑しさ、不条理さが渾然一体となったインスタレーションは端から端まで丹羽さんの作品を感じられる空間で、グッズも含めとてもよかった。(Mayo)

◎「あいちトリエンナーレ2019(愛知芸術文化センター、8月1日〜10月14日)
ジャーナリストの津田大介が芸術監督を務めた今回のあいトリは、美術・映像・舞台という従来のプログラムに加え、初となる音楽イベントの開催、ジェンダーイクオリティの取り組みなど、アートファンのみならずより広い層へとアプローチする取り組みが行われていた。しかし開幕直後よりあいトリの一展示「表現の不自由展」を発端とした脅迫や圧力が起こり、参加作家の展示取り下げを含むアクション、SNSでの議論やメディアのし烈な報道合戦が約2ヶ月の会期を通して展開された。実際に脅迫を受けた現場スタッフも多く、展示中止等で私自身も全作品を見られなかったこと、引き金となった問題はいまなお終息したとは言えないことなどから晴れがましく「ベスト」とするには憚られる。しかし、刻々と状況の変わるあいトリの動向をSNSで日々注視していたこと、いまの日本の問題が凝縮して炙り出されていたこと、心もとない気持ちと灼熱の気温のなかでの鑑賞体験は忘れがたく、2019年もっとも記憶に残る展覧会という点で「ベスト」に選びました。(Chiaki)

野路千晶(編集部)

野路千晶(編集部)

Editor in Chief