Flying Lotus、Nicki Minaj、Fetty Wap、Post Maloneら名だたるアーティストのグラフィックを手がけ、Red BullやBudweiser、Adidasといった企業とコラボレーション。GUCCIMAZE(グッチメイズ)は「世界的に活躍する」という枕詞に相違ない、日本有数のグラフィックデザイナーだ。
GUCCIMAZEの作品スタイルと言えば、鋭さと硬い質感が入り混じる立体的なフォルムのタイポグラフィや、メタリックでサイケデリックな色彩のグラフィック。
そうした特徴をつかさどる「Chrome Type」「Acid Graphics」といったグラフィックのムーブメントの牽引者としても世界から注目を集め、Instagramを主な作品発表の場としてきたGUCCIMAZEの世界初個展が、DIESEL ART GALLERYで10月13日まで開催中だ。
コラボレーションや立体作品など自身初となる試みも多く見られ、AR技術を使った作品も発表される本展。これまでの活動や個展の見どころについて、GUCCIMAZEに話を聞いた。
GUCCIMAZEは1989年神奈川県生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒後、デザイン制作会社勤務を経て2018年独立。一貫して「グラフィックデザイナー」として活動し、いくつかのインタビューの中でその肩書きへのこだわりを度々語っている。なぜアーティストではなく「グラフィックデザイナー」なのか。その理由を2つ語る。
「まず、大学卒業後、グラフィックデザイナーとして就職し、“デザイン”の文脈の中でGUCCIMAZEは生まれたという意識があります。もうひとつは、自分の活動の割合。じつは僕は普段、GUCCIMAZE名義の活動からは絶対に想像がつかないであろう、クリーンで整頓されたエディトリアルデザインや文字組の仕事もしています。そんな状況から、『デザイナーがアートをやったらこうなりました』という見え方が僕にとって自然で、そう見られたいという思いが強いんです」。
高校時代にはグラフィックデザイナーのSKATE THINGや、和の要素を織り交ぜた独自のグラフィティを確立したESOWらを敬愛し、グラフィティの延長線上にあるものとしてグラフィックデザインを認識。美術大学に入るためにデッサンに取り組み、「行き当たりばったりでムサビの視覚伝達デザイン学科に入りました」と振り返る。「ADC」「JAGDA」などの言葉が行き交う大学構内で、「ただ絵とグラフィティが好きだった」というGUCCIMAZEは自分が何をしたいか、できるのか、日々漠然とした不安とともに日々を過ごしていたという。
グラフィックデザインへのこだわりを持ち始めたのは大学卒業後、デザイン制作会社で仕事をスタートさせてからのこと。現在の作品スタイルは、そうした仕事と、並行して行っていたDJやクラブイベントでの仕事が重ね合うことで生まれた。
「会社の仕事でPhotoshopを本格的に触り始めて、なにかおもしろいことができそうだと仕事中に各機能をこっそり試していたりしたんです。その機能実験のアウトプットの場がクラブイベントのフライヤーだった。そこから、バイクのマフラーなど金属特有の虹色っぽい色彩をつくりたいと思い、試行錯誤しているうちにだんだん今のスタイルができあがってきたんです。完成したグラフィックをInstagramにアップしていたある日、コメント欄で『このChrome Typeやばいね』と言われ、自分のスタイルがChrome Typeというトレンドのひとつとして認識されていることも知りました」。
一連の話を聞くと、GUCCIMAZEのグラフィックはすべてPhotoshopで成立しているように聞こえるが、じつは「下描きは必ず手で行う」という見えないこだわりがある。色の明度や彩度もすべてその手描きスケッチの時点で決めるという徹底の下準備については「そのほうが早いから。例えば、何かをつくるときにホームセンターに行ってあれこれ悩むよりも、設計図や部品を決めて行くほうが、ものが早く完成しますよね。そういう考え方です。衝動を形にするスピード感が好きなんです」と話す。本展ではそうしたスケッチの実物も展示されており、普段の制作プロセスを垣間見ることのできる、見どころのひとつとなっている。
今回の展覧会「MAZE」では、GUCCIMAZE初となる2つの試みが披露されている。まず1つ目は、ゼロから作品をつくること。
クライアントからの要望やお題をベースに作品を生み出してきたGUCCIMAZEにとって、「何もないところから作品をつくり、見せる」ということは今回が初めてのこと。例えば、本展のメインビジュアルでもある《MAZE01》(2020)は車、雷の軌跡などの要素がかけ合わさったグラフィックだが、当初は写真を用いるなどの試行錯誤を経て生み出されたグラフィックだ。
「個展が決まったとき、何をつくろうかと本当に困りました。外からのお題があって初めて前に進むという自分の性質も、アーティストではなくグラフィックデザイナーっぽいなと思います。とにかくかっこよさを追求しようと腹をくくると、ゴールがだんだんと見えてきたんです。あとは、世の中が思う“GUCCIMAZEっぽさ”を自分なりに考えるということ。新作の《MAZE03》(2020)では、普段あまり使わない赤色を使っている点にも注目してほしいです」。
そして2つ目の新たな試みは、他の作家とのコラボレーションだ。本展でGUCCIMAZEは彫刻家のKOTARO YAMADA、イラストレーターの上岡拓也とそれぞれコラボレーションし、平面作品のみならず立体作品にも挑戦。2人とのコラボレーションを次のように振り返る。
「いい意味でコントロール不可能で、作品に自分以外の考えも入ってくる感覚が新鮮でした。YAMADA君とのコラボレーションでは、デジタルと違って完全に予測できない焼き物の釉薬の色味や、彫刻刀を使った掘りの作業が楽しかったです。グラフィティ上がりの上岡君については、僕は彼に圧倒的な信頼を置いていて、コラボしたら絶対よくなるという確信があった。メキシコ系のレタリングスタイルが得意なのですが、彼が描いた“maze”をベースにエフェクトやシェイプを肉付けしていきました。どちらも、2人のアイデンティティをどのように生かすかという点に注意しました」。
「GUCCIMAZEっぽさ」とはなにか? それは、しばしばGUCCIMAZEのグラフィックを形容する際に言われる要素「立体的なフォルム」や「メタリックでサイケデリックな色彩」だけではない。グラフィックの要素が生み出す空間や奥行きも、大きな特徴だと言えるだろう。会場に展示されている手描きスケッチと完成したグラフィックに生まれる空間の現れ方の違いにも明らかだ。
「僕のつくるグラフィックは、パーツ単体でどうこうと言うよりも、“この隣にこれを置いたらどう反応し合うとか”というのを無意識に意識していると思います。実際のところ、制作の中では平面のスケッチからPhotoshopに落とし込んだとき、視覚的にも意味合い的にも奥行きが生まれる瞬間が一番楽しい。グラフィティも影をつけて立体的にする過程が好きでしたし、デッサンに影をつけて空間が急に立ち上がってくるような感覚にも魅力を感じている。そういう意味では、高校時代にデッサンを繰り返していた日々としていることは変わらないのかもしれないですね」。
今後は、家具などのプロダクト制作にも挑戦してみたいと話すGUCCIMAZE。これからさらに領域横断的に活動するであろうGUCCIMAZEを知り、語るためには、まずは本展の会場を訪れることが必須だろう。
■展示概要
タイトル:MAZE
アーティスト:GUCCIMAZE
アーティストウェブサイト:http://yutakawaguchi.com/about/
会期:2020年6月20日~10月13日
会場:DIESEL ART GALLERY
住所:東京都渋谷区渋谷1-23-16 cocoti B1F
電話番号:03-6427-5955
開館時間:11:30〜21:00(変更になる場合があります)
休館日:不定休
AR技術協力: KAKUCHO 株式会社
協賛: 株式会社 八紘美術
ギャラリーウェブサイト:https://www.diesel.co.jp/art/guccimaze/
■ARやVR、WallpaperなどGUCCIMAZEの世界観を体感できる企画を展開中
・AR作品の写真を投稿し、「MAZE」展のグッズがあたるInstagram #タグキャンペーン「#mazebyguccimaze」を開催。
・会期中、会場もしくはフライヤーのQRからDIESELの公式LINEの友達になると、「MAZE」展限定の待ち受けをプレゼント。
・「MAZE」展をオンライン上で体験できるバーチャルツアーも公開中。
会期中は新作・過去作を合わせた20作品以上の展示作品を販売するほか、Tシャツやポストカード、これまでのアートワークを再編集したアートブック(8月下旬発売予定)などの関連グッズも販売いたします。
野路千晶(編集部)