公開日:2020年8月7日

美は生活の中にある:サントリー美術館のリニューアルオープン記念展をレポート

「生活の中の美(Art in Life)」を基本理念に展示・収集活動を行なってきたサントリー美術館がリニューアルオープンした

1961年の開館以来、「生活の中の美(Art in Life)」を基本理念に展示、収集活動を行なってきたサントリー美術館が、7月22日、約半年におよぶ改修工事を経てリニューアルオープンの日を迎えた。

2020年はリニューアルオープンを記念し、国宝、重要文化財をはじめとする同館の所蔵品約3000点の中から選りすぐりの名品をもとに、3つの企画展を開催。その第一弾となるのが、7月22日から9月13日まで開催中の展覧会「ART in LIFE, LIFE and BEAUTY」だ。

「生活の中の美(Art in Life)」にあらためて立ち返るこの展覧会では、酒宴で用いられた調度、「ハレ」(非日常)の場にふさわしい着物や装飾品、豪華な化粧道具などから、異国趣味の意匠を施した品々まで、生活を彩ってきた華やかな優品を厳選して紹介する。展示構成は第1章の「装い」、第2章の「祝祭・宴」、第3章の「異国趣味」からなり、出品作品数は約260点(会期中に展示替えあり)。

展示室。展示機能、天井の耐震強化などが行われるほか、エントランスも隈研吾建築都市設計事務所監修による全面リニューアルされた
展示風景より、狩野探幽《桐鳳凰図屛風》(六曲一双)

まず、第1章の「装い」では、身なりを飾り、整えるための化粧道具や髪飾り、それらを収納する手箱など、平安から江戸時代までの日常道具を取り上げる。ここでの注目は、身分の高い者が所有した最高級の漆工品である蒔絵手箱の中から、国宝の《浮線綾螺鈿蒔絵手箱》。本作を特徴づける直径4cmの文様は、わずか0.5〜0.6mmの厚さの螺鈿13パーツで構成されていることが近年の調査で判明しており、それら4cmの文様×115個が彩る本作の重厚さは、ぜひ会場で確認してほしい。

展示風景より、《浮線綾螺鈿蒔絵手箱》
展示風景より、絵櫛の数々

各時代の最新ファッションを表す美人画や着物も「生活の中の美」と密接に関わる重要なジャンル。本章では江戸時代から近代までの美人画や、化粧方法や髪型を解説した絵画と浮世絵、色鮮やかな小袖と打掛、雛形本などを通して艶やかなファッションの変遷を紹介する。

人物は描かれず、残された衣装などからその持ち主の面影を偲ぶという、いわば「人の気配」を閉じ込めた江戸時代の《誰が袖図屏風》は、現代の画家である山本太郎の作品と並置。このように、本展では新たな試みとして、古美術に造詣の深い現代作家の山口晃、彦十蒔絵・若宮隆志、山本太郎、野口哲哉の協力のもと、現代アートと同館のコレクションを交差させた特別展示が行われている。

展示風景より、《誰が袖図屏風》に着想を得た構成で作品を展示している

続く第2章は「祝祭・宴」をテーマに、金工と見紛う青銅塗など、各時代の名工によるさまざな漆芸の世界を紹介。祝い事を演出した品々や、ハレの儀式をモチーフとした絵画も並ぶ。宴の様子をこと細かに描いた絵画「遊楽図」を見れば、昔も今も変わらない人々の楽しげな熱気が伝わるが、本章では《上野花見歌舞伎図屏風》をヒントに、実際の酒器や食器、楽器、煙草盆を立体的に組み合わせることで当時の世界がリアリティをもって感じられる。

展示風景より、《上野花見歌舞伎図屏風》をモチーフにした展示構成
展示風景より、手前が《朱漆塗湯桶》

活気溢れる人々の姿と表情が、土佐派の絵師によって巧みに描画される《日吉山王祇園祭礼図屛風》など、高揚感と賑わいがリアルに描画される祭礼図の中から《賀茂競馬図屏風》とコラボレーションするのが、現代作家の野口哲哉による、甲冑姿の人々をかたどる立体作品。屏風の世界の中から人々が抜け出たようなユニークな展示方法が目を引くセクションだ。さらに、至極晴れやかな画面を特徴とし、四代将軍・徳川家綱の婚礼時のため制作されたという同館のコレクションを代表する作品のひとつで狩野探幽《桐鳳凰図屛風》も披露される。

展示風景より、《賀茂競馬図屏風》と、それを眺めるように展示される野口哲哉の立体作品

同館コレクションの大きな柱のひとつが南蛮美術。桃山時代、貿易やキリスト教の布教を目的に来日したポルトガル人やスペイン人は人々の関心の的となり、彼ら南蛮人を描いた南蛮屏風が流行した。自国を出港した巨大な南蛮船や、日本への入港、珍しい文物・動物などの荷揚げ、カピタン一行の上陸や行列。第3章「異国情緒」では、バリエーションに富む南蛮屏風と初期洋風画の名品を通して南蛮美術の粋を楽しめる。本章でフィーチャーされる現代作家は、古今東西のモチーフ、ユーモアと批評精神が細密に共存する作品を手がける山口晃だ。

展示風景より、重要文化財の《泰西王候騎馬図屏風》
展示風景より、山口晃《今様遊楽図》の一部

華やかな優品の堂々たる歴史とともに今昔が融合するユーモアも感じられる本展。今後続く2つのリニューアルオープン記念展「知って楽しい日本美術(仮称)」「美を結ぶ。美をひらく。(仮称)」の展示と切り口にも期待が高まる。

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