公開日:2020年9月3日

3名のアーティストが新作を発表:原美術館「メルセデス・ベンツ アート・スコープ」

久門剛史、ハリス・エパミノンダ、小泉明郎が原美術館で新作を発表

久門剛史、ハリス・エパミノンダ、小泉明郎の3名が、原美術館で9月6日まで開催中の展覧会「メルセデス・ベンツ アート・スコープ 2018-2020」にて新作を発表している。

「メルセデス・ベンツ アート・スコープ」とは、日本とドイツ間で、現代アートの作家を相互に派遣・招聘し、異文化での生活体験、創作活動を通して交流を図る文化・芸術支援活動のこと。メルセデス・ベンツ日本と原美術館が主催し、原美術館は滞在の成果を発表する展覧会を行ってきた。

コロナ禍という困難な状況下、各アーティストの熱意と新たなチャレンジのもとで実現した本展。各アーティストの作品を紹介していく。

 

久門剛史

身の回りの現象や特定の場所がもつ記憶、歴史的事象を採取し、音や光、立体を用いてインスタレーションをつくる久門剛史。2019年の第58回ヴェネチア・ビエンナーレではアピチャッポン・ウィーラセタクンとの共作を出品し、同年には初の劇場作品『らせんの練習』を手がけるなど活動の場を広げてきた。現在、豊田市美術館では大規模な個展「らせんの練習」を開催中(〜9月22日)だが、久門は「豊田市美の個展で総まとめをしたので、今回は新しいチャレンジをしたくなった」と話す。

久門剛史《Resume》(2020)ラワン材、ラワン合板、アクリル絵の具、自然光、航空機の音、虫の音、電車の音、サンルームから聞こえるあらゆる音、6000Hz 正弦波 サイズ可変 Photo by Keizo Kioku

原美術館の展示室内では、中庭を包みこむように緩やかな円弧を描いた空間が特徴的なギャラリーⅡを使用した新作のインスタレーションを発表。電気やモーター、コンピュータを使わず、蛍光色の絵画だけで作品が成立する自身初の試み。しかし特徴的なのは、鑑賞者に向けられるべき画面が背を向け、伏せられていることだ。

「伏せられた状態であっても心の火は消せない。消えない芸術の力を表現しました。今の世界は、かつてのベルリンのように何かを隠し、伏せなければならない状況へと変化しているように見える。そんな社会状況などを総合的に考え、作品が裏返しに置かれた状況をつくりました」。

展示室の光はほのかな自然光のみで、目が慣れると画面の色を鮮明に感知できる。目がしだいに色を取り戻そうとする感覚もユニークな体験だ。

久門剛史《Resume》(2020)ラワン材、ラワン合板、アクリル絵の具、自然光、航空機の音、虫の音、電車の音、サンルームから聞こえるあらゆる音、6000Hz 正弦波 サイズ可変 Photo by Keizo Kioku

 

ハリス・エパミノンダ

コラージュの技法を用いた映像やインスタレーションを制作するハリス・エパミノンダは、2019年の第58回ヴェネチア・ビエンナーレで企画参加アーティスト部門で銀獅子賞を受賞し、世界から注目を集めた。本展は、2009年に森美術館で行われた「万華鏡の視覚」展以来、エパミノンダにとって日本では約10年ぶりの作品発表機会となる。

小津安二郎の映画をきっかけに、長年日本に強い関心を抱いてきたエパミノンダは、昨年の夏にレジデンス・プログラムで初めて東京と京都に滞在。本展では、原美術館とも関係の深い音楽家の吉村弘を題材に、アーティスト、ダニエル・グスタフ・クラマーとの共作《Untitled #01 b/l》、そして日本滞在時に、スーパー8フィルムで撮影した映像をデジタル化した《日本日記》を出品している。

ハリス・エパミノンダ《Untitled #01 b/l》(2020)木に真鍮箔の球体、赤い絨毯、音、紙にテキスト(ダニエル・グスタフ・クラマー寄稿「Hiroshi」2020) サイズ可変 Photo by Keizo Kioku
ハリス・エパミノンダ《日本日記》(2020)スーパー8フィルムをデジタル化、カラー、サウンド 21分8秒 Photo by Keizo Kioku

 

小泉明郎

演劇的手法を取り入れた映像作品によって、人間と人間、人間と社会の関係、また言葉と身体の関係を浮かび上がらせる小泉明郎。近年はVR技術を使用した作品にも取り組み、「あいちトリエンナーレ2019」でVR技術を使った初の演劇作品『縛られたプロメテウス』を発表し、大きな反響を呼んだ。

本展では、2つの展示室内を行き来しながら音声を聞くサウンド・スカルプチャー《アンティ・ドリーム#1(彫刻のある部屋)》、各自のデバイスで音声をダウンロードして街中で聞く《アンティ・ドリーム#2(祝祭の彫刻)》を発表している。これまでスクリーン越しに鑑賞する作品を多く手がけてきた小泉にとっては初となる、主に音声で構成される2つの新作について次のように話す。

「コロナ禍で、言葉に抗えないフラストレーションがありました。例えば、日々ニュースは感染者数を伝えますが実際にはどうかわからないし、言葉がつくり出す虚構の世界に生きている感覚があった。言葉によって現実が切り取られるのであれば、違う言葉を当てはめようと思ったんです。自宅待機中に日々教科書の音読をする子どもの様子を見て、子どもの身体が言葉に縛られているようなフラストレーションも感じていました」。臨場感と緊張感のある本作は実際にヘッドフォンをつけ体験することをおすすめしたい。

小泉明郎《アンティ・ドリーム#1(彫刻のある部屋)》(2020)サウンド・スカルプチャー(サウンド・デバイス、ヘッドフォン、ムービングヘッド・ライト、コラージュ、空っぽの部屋) サイズ可変 Photo by Keizo Kioku

本展は日時指定の予約制。詳細は公式ウェブサイトで確認のうえ訪れてほしい。

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