公開日:2020年12月26日

ホックニーのiPadドローイングが話題、ドイツでもギャラリーが閉鎖へ、日本の作家におすすめハウツーなど:週刊・世界のアートニュース

ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目ニュースをピックアップ

いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は、12月12日〜18日のあいだに世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「コロナ禍の年末年始」「できごと」「アートマーケット」「アーティストへのキャリアアドバイス、オススメの本、ポッドキャスト」の4項目で紹介する。

ニューヨーク証券取引所の前で犬の散歩をする、マスクの老人(2020年4月) 出典:Wikimedia Commons(Anthony Quintano)

コロナ禍の年末年始

◎フランスの美術館は再開延期
12月15日の再開を予定していたフランスの美術館は、コロナ陽性者数がまだまだ高止まりしていることから再開が延期され、少なくとも1月7日まで閉館が決定。
https://www.artforum.com/news/french-museums-to-remain-closed-through-january-7-84628

◎ドイツでもついにギャラリーが閉鎖へ
ドイツでは、アートギャラリーは文化施設ではなく小売業のカテゴリーに入るためこれまで閉鎖の対象に入っていなかったが、コロナの勢いが収まらずドイツ全体がロックダウンに突入するのに合わせて12月16日から少なくとも1月7日まで閉鎖に。美術館も閉館。クリスマス休暇が近くそれほど実影響はないはず。
https://news.artnet.com/market/lockdown-germany-art-galleries-1931126

◎ボストンでも再閉鎖
ボストンもコロナの影響が収まらずフェーズ2に戻るため、ボストン美術館を含むすべての美術館や水族館などが12月16日から少なくとも3週間に渡って再閉館に。
https://www.boston.com/culture/arts/2020/12/14/boston-museums-close-coronavirus

◎ニューヨークのおすすめ展覧会
ニューヨーク市では12月14日からまたしても店内での飲食が禁止に。ただアメリカの他の大都市と違って美術館やギャラリーは今のところ変わらず最大25%のキャパシティで開館のまま。ということでNY Timesの、今ニューヨークで見られるおすすめの展覧会の記事。
https://www.nytimes.com/2020/12/10/arts/design/museums-new-york-open.html

◎データにもとづく閉鎖見送り
ニューヨーク州知事がこの秋のコロナ陽性者4万6000人がどこでコロナに感染したかのトラッキングデータを公表したところ、7割以上が家や私的な集まり、次が医療機関、レストランは1.43%、元々母数が少ないアート・エンタメは0.08%にとどまった。このデータから美術館などの閉鎖は見送られた模様。
https://ny.eater.com/2020/12/11/22169841/restaurants-and-bars-coronavirus-spread-data-new-york

できごと

◎ホックニーのiPadドローイングが話題に
デイヴィッド・ホックニーは、ここのところずっとiPadで絵を描いているが、iPadの作品「Hearth」(暖炉)が雑誌New Yorkerの表紙に。ネット上では「これならMS Paintで自分も描ける」というようなからかいが出て賛否両論に。個人的には大きくプリントしたiPad作品でいいと思ったことあるが、雑誌サイズだとどうだろうと感じたが、翌日にNew Yorkerが届いたのでさっそくホックニーの表紙を実物で眺めてみた。デジタルでみた画像よりずっと印象はいいし、大雪のニューヨークの状況にもぴったりで雑誌の表紙としてはとてもいいと思う。結果的としてホックニーのiPad作品シリーズの中でも重要なものになるのでは。
https://observer.com/2020/12/david-hockney-new-yorker-cover-hearth-ipad/

◎著名ギャラリストのギャビン・ブラウンを語る
ハーレムのスペースを閉めてグラッドストーンギャラリーにジョインした著名ギャラリストのギャビン・ブラウンについて、いろんな人に取材したドラマ溢れる物語。ウルス・フィッシャー、クリス・オフィーリ、エリザベス・ペイトン、ピーター・ドイグ、ジョー・ブラッドリーなど素晴らしいアーティスト達がここでキャリアをスタートさせたが、メガギャラリーに移っていった。ギャラリーを閉めるに至ってコロナが決定打になったようだが、そもそも2016年のハーレムへの引越しがかなりきつかったよう。これまでダウンタウンでギャラリー街の中心から外れた場所でやってきたが、魅力的な展覧会で人が集まった。だが、アップタウンのハーレムにはなかなか人がこなかったと。実はこの夏にPaceギャラリーに最初にスカウトされたが断ったなど逸話が豊富。
https://www.artnews.com/art-news/market/gavin-brown-gladstone-gallery-profile-1234579713/

◎池田龍雄逝去
池田龍雄が亡くなったことが英語でもニュースに。ちょうど12月20日まで開催のチェルシーのファーガス・マカフリーギャラリーで池田龍雄とフィリップ・パレーノの2人展を見たばかりだった。
https://www.artnews.com/art-news/news/tatsuo-ikeda-artist-dead-1234579130/

◎コンドがアメリカ絵画で「最新のヒーロー」である理由
個人的にジョージ・コンドになんとなく感じていた浅さみたいなものをうまく言語化してくれたなと感じた批判的な評。ただ逆にそういう部分も含めたポップさやリミックスが現代的だとも言える気もしていて、最終的な評価はOnly time will tell(時が経てばわかる)というところか。
https://hyperallergic.com/606067/george-condos-cutism/

◎身近にあったバロック期の真作
ブリュッセル市役所が所有するアート作品の棚卸しをしていた際に、60年間近く都市計画の部署にかかっていた絵がヤーコブ・ヨルダーンスの400年前の真作だと判明したそう。職員はコピーだと思い込んでいた。絵は修復されて21年末にベルギー王立美術館で展示される予定。
https://news.artnet.com/art-world/jacob-jordaens-brussels-1929924

◎ハリーポッターの貴重な初版本
「ハリーポッターと賢者の石」の初版本がイギリスのオークションでなんと約950万円で落札。別の初版本も約700万円で落札、母親が不用品として100円で売ろうとしていたのを見つけた娘がオークションに持ち込んだ。全世界的な人気が出る前で500部しか刷られなかった上にそのうちの300部は図書館や学校に寄贈され、通常に出回っているのが200部のみと貴重なため。
https://www.abc.net.au/news/2020-12-13/harry-potter-first-edition-sells-for-68000-pounds/12979246

◎ゴミ箱から無事救出
旅行者が誤ってドイツのデュッセルドルフ空港に置き忘れた3500万円相当のイヴ・タンギーの絵画が掃除係によって捨てられていたが、持ち主が警察に連絡して無事にリサイクルのゴミ箱の底から見つかったとのこと。
https://hyperallergic.com/608604/a-surrealist-yves-tanguy-painting-was-tossed-in-trash-at-a-german-airport/

◎ニューヨークと移民アーティスト
ニューヨークで新しく出た調査結果によると、コロナの経済的ダメージは外国生まれの移民アーティスト、移民向けのアート施設にとってより深いことがわかった。ニューヨークの移民作家は1990年に比べて約7割増えて、現在全米の12%を占め最大。ただ近年ロサンゼルス、オースティン、ヒューストンなどの街の方が移民アーティストの増加率は高くこのままではニューヨークの地位が低下すると警告する内容。
https://hyperallergic.com/607491/immigrant-serving-arts-organizations-hit-hardest-during-pandemic-study-says/

アートマーケット

◎オークションレコードを更新
アメリカの巨匠写真家アンセル・アダムスの1942年の作品《The Grand Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming》が約1億円で落札され、作家のオークションレコードを更新。これまでは、2010年のオークションでの約7500万円が最高額だった。
https://www.artsy.net/news/artsy-editorial-ansel-adams-photograph-achieved-new-auction-record-artist-sothebys

◎プライベートセールは好調
クリスティーズは、今年の売上が去年に比べて25%減ると発表。コロナ禍入りした初夏からの想定通りとのこと。ただ、競売ではないプライベートセールは去年より56%増。オンラインでの売上は全体の8%になり去年(1〜2%)から大幅に増加。またアジア人購入者数がアメリカ人を初めて上回った。
https://www.artnews.com/art-news/market/christies-2020-sales-drop-forceasts-1234579528/

◎クリストとジャンヌ=クロードがコレクションした作品
クリストとジャンヌ=クロードのアートコレクション約400点が来年2月のパリのオークションにかかる見込み。プレゼントとしてもらったものや他の作家と作品交換したものだという。デュシャン、フォンタナ、イヴ・クライン、ウォーホル、オルデンバーグなど、総額約4億円の想定。
https://news.artnet.com/market/sothebys-sell-collection-christo-jeanne-claude-1932386

◎とある契約と、驚きの交換条件
ヘリー・ナーマドギャラリーがルドルフ・スティンゲルの作品を今年5月のフィリップスのオークションに出すにあたって、フィリップスと約5億円の最低保証額の契約を2019年に結んでいたがコロナでオークションがキャンセルされたことで契約が反故にされたと訴訟に。だが、ニューヨーク地裁に契約書内の例外規定の天変地異に該当と却下された。ただ、個人的な見解としては、これは別の事件などでスティンゲルの相場自体が急激に悪化したことが原因であるのは間違いなく、フィリップスとしてはうまくコロナのせいにできたというのが真相だろう。そうでなければ、最低保証額の契約をしてまで出してもらいたかった作品を次のオークションに継続して出品するはず。驚きはこの契約の交換条件として別のフィリップスのオークションでバスキアの作品に300万ポンドのビッドを入れるというのがあり、2019年の契約締結と同日にヘリー・ナーマドギャラリーが実行していたこと。そのオークションではバスキアは他の購買者が競り落とした。
https://www.artnews.com/art-news/news/phillips-joseph-nahmad-lawsuit-stingel-painting-dismissed-1234579820/

アーティストへのキャリアアドバイス、オススメの本、ポッドキャスト

◎日本のアーティストにもおすすめハウツー
アメリカでのアーティストのキャリア構築のためのアドバイスを、作家自身の情報整理、助成金、レジデンス、コンペへの応募の仕方、そしてソーシャルメディアでのプロモーションに分けて丁寧に説明する記事。原則は日本のアーティストにもとても参考になるはず。
https://hyperallergic.com/606836/a-brief-guide-on-how-to-get-your-creative-work-seen-funded-and-supported/

◎大コレクターはかく語りき
エスティ・ローダーの2代目で大コレクターのレオナルド・ローダーの回顧録が出版され、その中から一部抜粋した記事。8歳から絵葉書を集めはじめ、最終的には12万5000点のビンテージ絵葉書のコレクションになりボストン美術館に寄贈された。その後ポスター、最終的にアートに行きつく。1990年からこれまでARTnewsのトップコレクター200人に入っている。キュビズムに傾倒し、ピカソ33作品、ブラック17品を含む78の作品コレクションがメトロポリタン美術館に寄贈されることが約束されている。
https://www.artnews.com/art-news/market/leonard-lauder-collector-memoir-excerpt-1234579828/

◎Futuraインタビュー
ハイパーアラージックの編集長がグラフィティアーティストのFuturaをポッドキャストインタビュー。現在ダウンタウンで個展開催中のFuturaだが、なんとNYでの個展は32年ぶりだという。70年代のシーンからの自身のキャリア、同世代のバスキアやキース・ヘリングとの関係などを語っている。1988年にスタジオがなくて作品がつくれないときに、作品を気に入ってくれたアニエスベーが2年分スタジオ代を払ってくれたのは真のパトロンのあり方だと感動したとの逸話も。
https://hyperallergic.com/609754/from-graffiti-to-the-gallery-futura-talks-about-art/

Kosuke Fujitaka

Kosuke Fujitaka

1978年大阪生まれ。東京大学経済学部卒業。2004年、Tokyo Art Beatを共同設立。08年より拠点をニューヨークに移し、NY Art Beatを設立。アートに関する執筆、コーディネート、アドバイスなども行っている。