美術館コレクション売却の賛否両論、草間彌生の屋外展覧会が開催へ、黒人のコレクターにインタビューなど:週刊・世界のアートニュース

ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目ニュースをピックアップ

In Art Beat News by Kosuke Fujitaka 2021-02-16

いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は、2月6日〜12日のあいだに世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「米国美術館でのコレクション売却」「コロナ禍のヨーロッパ」「Black History Month」「できごと」「おすすめのポッドキャスト」の5項目で紹介する。

米国美術館でのコレクション売却

◎美術館コレクション売却の賛否両論
コロナ禍を受けて、アメリカの美術館長協会が、協会に属する美術館がコレクションを売却した際に、その売却益を一般運営費に流用することを2年間の時限付きで認めることを去年4月に発表した。期限は2022年4月10日まで。それまでは、売却益は美術館の新たなコレクション購入費にあてなければならず、それをやぶった場合には、他の美術館から作品を借りることができなくなるという懲罰措置が課せられることになっていた。この緩和によって、ボルチモア美術館やブルックリン美術館など全米の多くの美術館が売却を行ってきている。それによってリストラを避け、低賃金な給与改善ができ、開館時間の拡大など美術館運営をさらに充実させることができる。だが一方で、その作品を美術館に寄贈した人、多額の寄付をしてきた人々の信頼を裏切ることにもつながり、ひいては将来的に寄贈が躊躇される結果になるのではという批判も。

この記事では賛否併記で様々な事例を紹介。ブルックリン美術館の場合は、オールドマスターやモネなどやや古いもので美術館のメインの作品ではなかったことで大きな反対運動にはならずに売却にこぎつけた。また、全米の美術館では、平均して収益の22%が基金からの運用益から得ているのに対しブルックリンは11.5%と基金増強の必要もあったという事情も紹介。ボルチモア美術館はウォーホル、クリフォード・スティル、ブライス・マーデンの有名作品ということもあり、前理事達から大きな反対運動を受け、中止に追い込まれた。今の美術館の運営の拡充をはかると同時に、白人男性作家のコレクションを売却して新たにマイノリティ作家の作品を購入することで、白人男性中心作家のコレクションの見直しをはかるという美術館根本のあり方に触れる議題を実現するのは容易ではなかった。
https://www.artnews.com/art-news/market/museum-deaccessioning-coronavirus-pandemic-1234583143/

◎メトロポリタン美術館でもコレクション売却か
NYのメトロポリタン美術館までもがコレクションの売却を検討しているという。コロナの影響で約150億円の赤字を見込んでおり、また美術館長協会による規制緩和を適用できるため。売却益は膨大なコレクション管理を拡充するために使う予定とのこと。
https://www.nytimes.com/2021/02/05/arts/design/met-museum-considers-selling-art.html

コロナ禍のヨーロッパ

◎ドイツでは追加の文化予算
2月14日までロックダウンが続くドイツでは約1250億円の追加的な文化予算を発表。去年7月にも同額を計上していた。映画、美術館、劇場や他のクリエイティブ産業を助成する目的。
https://news.artnet.com/art-world/german-government-1-billion-culture-1941617

◎コロナ禍で捗るメンテナンス
世界で一番の来館者数を誇るルーブル美術館も残念ながらコロナで閉館中。ただ悪いことばかりではなく、展示絵画のホコリを払ったり、彫刻の清掃をしたりというメンテナンスはこれを機に一気にすすんでいるそう。通常は閉館日の火曜にしかできなかったのが毎日できることで、4週間かかっていた作業が5日間で終わるそう。
https://news.artnet.com/art-world/louvre-under-lockdown-1941706

◎極右政党の市長の決断
フランスでは全国で美術館が閉鎖中だが、南仏ペルピニャンの市長(極右政党国民連合の副党首の一人)が市の4つの美術館を開館させた。フランスの多くの館長達が再開を要請している状況もありこれを支援する声もあるようだが、極右政党の市長が文化支援をするジェスチャーを見せるのはなんとも皮肉な状況。
https://news.artnet.com/art-world/perpignan-museums-defy-france-lockdown-1942583

Black History Month

◎黒人のコレクターにインタビュー
アメリカでは毎年2月がBlack History Month。黒人アーティストの作品を集める15人の黒人コレクターに、どういう作品をコレクションしていて、どういうきっかけでコレクターになったかをインタビューして豊富な画像で紹介する記事。元NBA選手やアントレプレナー、金融など幅広いコレクター達。この一年で黒人作家の作品がマーケットでも一気にホットになった印象。
https://www.artsy.net/article/artsy-editorial-black-collectors-shaping-future-art

◎基金の名称を変更へ
マイアミのペレス美術館が、African American Art基金の名称をBlack Art基金に変更。アメリカ人だけでなく、黒人ルーツのよりグローバルな黒人アーティストの作品を集めるコレクションの実情を正確に反映するため。
https://www.theartnewspaper.com/news/perez-art-museum-miami-replaces-african-american-with-its-endowment-fund-for-black-art-to-revise-restrictive-definition

◎ダイバーシティへの道のりは長い
BLMをうけて、昨年多くのアメリカの美術館が組織のダイバーシティを拡大させる約束をしたが、現状では、コロナ禍の財政難を理由にほとんどが掛け声倒れになっているという残念なレポート。
https://news.artnet.com/art-world/dei-initiatives-museums-1941407

できごと

◎2年間限定のスペース
NYを代表する美しいクラシカルな邸宅を使った美術館フリック・コレクションは現在リノベーション中。その間に、Frick Madisonとして元ホイットニー美術館で、去年までメトロポリタン美術館の別館として使われていたマディソン通り沿いのビルを間借りする形で3月18日にオープン。リノベーションが終わるまでの2年間限定。これまでフリック氏のクラシカルな邸宅そのままの形で飾られていたホルバイン、ベラスケス、ゴヤ、レンブラント、フェルメールなどの名画をホワイトキューブで見るのも楽しみ。
https://www.nytimes.com/2021/02/09/arts/design/frick-breuer-move-opening.html

◎OMAがブラックカードをデザイン
レム・コールハース率いるOMAが新しいアメックスのブラックカードのデザインを手掛けた。そのデザインの原案がBoompjesというOMAとしてオランダでのはじめてのコミッションワーク(未実現)だということで、BoompjesなどOMAの初期の様子を紹介する記事。
https://www.wallpaper.com/architecture/rem-koolhaas-oma-amex-card-design

◎草間彌生の屋外展覧会がついに開催へ
ブロンクスのニューヨークボタニカルガーデンで去年の開催予定が延期されていた草間彌生の屋外展覧会が、今年の4月10日から10月30日まで開催されることが発表された。展示には新しいインフィニティルームも含まれている。
https://www.theartnewspaper.com/news/new-york-botanical-garden-to-open-postponed-kusama-exhibition-in-april

◎アート施設自体に助成金を
マイク・ケリー財団はこれまで地元のアート施設にプロジェクトごとの助成金を出してきた。2021年はコロナの影響を受けて資金難にあえぐロサンゼルスの中小規模の18のアート施設の運営費用として計4000万円の助成金を出すことに変更。
https://www.latimes.com/entertainment-arts/story/2021-02-04/mike-kelley-foundation-awards-covid-relief

◎キース・ヘリングの壁画付きロフト
キース・ヘリングの壁画付きのNYトライベッカのロフトが約8億円で売りにでた。ヘリングが学生だった1979年の作品。彼が通っていた美大School of Visual Artsに当時学生用のスタジオとして使われていたビルで、後に住居用にリノベされていた。20年ほど前にその歴史を知った建築家が調べたところクローゼットの後ろから壁画が発見された。壁画はコンクリートに直接描かれており持ち出し不可、今回のロフトの購入者が将来売る際には壁画とともに売る必要があるそう。
https://news.artnet.com/art-world/tribeca-loft-keith-haring-mural-1942947

◎空き店頭にアート展示義務、その後
先日紹介したNY郊外の別荘地での空き店頭にアート展示を義務付ける法律ができたとする記事のその後。今月末までは猶予期間だが、今のところ3店舗しかアート展示をしていないそう。猶予期間を過ぎると10万円から25万円程度の罰金が課せられるが、どうなるか。
https://therealdeal.com/tristate/2021/02/11/show-stopper-southampton-landlords-refuse-to-fill-vacant-storefronts-with-art/

◎元教会を住居兼スタジオに
プエルトリコ出身でNY在住の画家エンジェル・オテロが、NY市から北に車で2〜3時間の街の古い元教会を買い取って住居兼スタジオに。まだ弾くことができるパイプオルガンはそのままに置かれた美しいインテリアの写真の数々。教会の外面は変更しないで保存されることで地元からも歓迎されているそう。彼はブルックリンのブッシュウィックから引っ越したが、彼の他にもNY市の地価高騰を受けてアップステートとよばれる市の北側のハドソン川沿いの郊外に拠点を移す中堅アーティストが増えている。
https://www.nytimes.com/2021/02/11/t-magazine/church-studio-angel-otero.html

◎オークションアーカイブが外部からアクセス禁止に
クリスティーズのロンドンにあったオークションアーカイブが外部からのアクセスの受付を停止。1766年の同社の初のオークションからの記録を閲覧できる研究者にとっても貴重なアーカイブだった。多くの情報がオンラインで見られるようになったこととリストラが原因だという。
https://news.artnet.com/market/christies-auction-archive-closed-1943266

おすすめのポッドキャスト

◎マイクロソフトのポッドキャスト
ソル・ルウィットのアプリを出しているマイクロソフトがポッドキャストもリリース。NYでミシュラン三つ星レストランEleven Madison Parkのオーナーシェフのダニエル・フム、ファッションブランドのプロエンザスクーラーの2人、作曲家のジュリアナ・バーウィック、アーティストのチャールズ・ゲインズがルウィットの影響についてホストのキュレーターDessane Lopez Cassellと話すもの。
https://www.microsoft.com/inculture/podcast/

Kosuke Fujitaka

Kosuke Fujitaka. 1978年大阪生まれ。東京大学経済学部卒業。2004年、Tokyo Art Beatを共同設立。08年より拠点をニューヨークに移し、NY Art Beatを設立。アートに関する執筆、コーディネート、アドバイスなども行っている。 ≫ 他の記事

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