公開日:2021年2月23日

美術館デジタル施策の成功例、閉店したIKEAをアートセンターに、完全デジタル作品が初のオークションなど:週刊・世界のアートニュース

ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目ニュースをピックアップ

いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は、2月13日〜19日のあいだに世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「新しいマネタイズ、新規事業」「変わるアメリカの美術館」「コロナへの対応」「できごと」「アートマーケット」「おすすめの読み物、カタログレゾネ」の6項目で紹介する。

ルーブル美術館にあるサイ・トゥオンブリーの天井画。現在、展示室はリノベーションされ壁が赤く塗られているという 出典:Wikimedia Commons(Jean-Pierre Dalbéra, Cy Twombly)

新しいマネタイズ、新規事業

◎美術館デジタル施策の成功例
コロナ禍に入って約1年、世界の美術館が試みたデジタルでのマネタイズについてまとめた記事。美術館の良さはやはり実際に作品を間近で見られることであり、やはりバーチャルでは魅力が減るし、そこでお金を取ろうとするのはハードルが高いという前提ながら、大美術館でのいくつかの成功例を紹介。ロンドンのデザインミュージアムがオンライン展示の7ポンド(約千円)チケットを5000枚以上販売した例。NYのメトロポリタン美術館が40人上限の$300のバーチャルグループツアーを116組に提供し約300万円の売上があった例。フィラデルフィアのバーンズ財団が美術史のオンラインクラスで、コロナ前の対面のクラスのなんと倍の60万ドル(約6000万円)の収入があった例など。
https://news.artnet.com/art-world/museums-digital-content-revenue-1944362

◎Friezeがギャラリーをオープン
長らく実際の会場でのアートフェアが開催できていないFriezeが、新規事業としてNo.9 Cork Streetというギャラリーを10月にオープン予定。世界のギャラリーがロンドンでポップアップ展覧会を開催するための「貸し画廊」。10月のハイシーズンは大きい方のギャラリーが1か月約800万円、閑散期の冬の小さいギャラリーが約400万円。
https://www.theartnewspaper.com/news/house-of-frieze-fair-company-reveals-plans-for-new-london-gallery-space

◎輸送に着目したスタートアップ
梱包や税関など何かと面倒なアート輸送業界に打って出たスタートアップThePackengersのCEOへのインタビュー。ギャラリーやオークションハウス向けのサービスで、すべてデジタルで完結するのが売り。コロナによるアート業界のデジタルシフトで業績をのばしている。フランスの企業で、ヨーロッパ全域と米国東海岸にも進出。
https://news.artnet.com/partner-content/thepackengers-ceo-amaury-chaumet-interview

変わるアメリカの美術館

◎グッゲンハイム美術館、ついに労働組合と契約締結
1年以上にもおよぶ交渉の末、グッゲンハイム美術館が、従業員が所属する労働組合と合意、契約締結にいたったという。22人のフルタイム職員、145人の不定期のインストーラーなどが所属。10%の給与増、健康保険の拡充、労働環境の透明化などが含まれている。
https://hyperallergic.com/622396/guggenheim-signs-union-contract-local-30/

◎不適切な要項で辞職へ
インディアナポリス美術館の館長が、同館のディレクターの募集に「美術館の伝統的でコアな白人来客者を維持すること」という不適切な要項を入れていたことで大きな非難があがっていたが、2月17日に辞職することを発表。美術館があるエリアの住民の55%が黒人だという。また、無料だった入場料を$18にして美術館をよりエクスクルーシブなものにしたとこれまでも批判されていた。
https://hyperallergic.com/622740/indianapolis-museum-of-art-president-resigns/

コロナへの対応

◎混雑する美術館に批判
2月1日に再開されたバチカン美術館が、館内で撮影されたかなり混雑した様子の写真から、コロナ禍でのソーシャルディスタンスがしっかりとられていないのではないかと批判を浴びている。
https://news.artnet.com/art-world/vatican-museum-visitors-complain-crowding-1944563

◎フェアの参加ギャラリー半減
実際の会場で開催予定のアートフェア Art Dubaiは、約1ヶ月前の今、開催を12日間遅らせ3月29日からに、会場も当初のホテルから特設会場に変更。参加ギャラリー数も85から45に半減。
https://www.artnews.com/art-news/market/art-dubai-march-2021-delay-1234583992/

◎開館から一転、閉館へ
フランス全国で美術館が閉鎖中にも関わらず南仏ペルピニャンの市長(極右政党国民連合の副党首の一人)が市内の4つの美術館を開館させたことに関し、裁判所が閉館を命ずる判決。大統領令を市長が無視することはできないとする。そのうちの一つの美術館は先週の再開後約2000人の来館者があったという。
https://news.artnet.com/art-world/court-ordered-french-mayor-reclose-local-museums-1944313

できごと

◎アートとテクノロジー助成に選ばれた5組
ナイト財団が、アートとテクノロジー助成としてそれぞれ約500万円の助成金を出す5組のアーティストを発表。AI、デジタル加工技術、ソフトウェア、プログラミング、没入型アートなどの分野での活動への助成。
https://news.artnet.com/art-world/knight-arts-tech-fellowship-1944289

◎コレクション分析専門のキュレーター
大英博物館が自身のコレクションの歴史を研究、分析する専門のキュレーターのポジションをつくった。あくまでコレクション全体の分析だが、当然、奴隷商売や植民地支配に関わるコレクションの調査も仕事の範囲に入ってくるとのこと。
https://www.theartnewspaper.com/news/collection-curator-joins-british-museum

◎閉店したIKEAをアートセンターに
イギリスのコヴェントリー市にある7階建てのIKEAが昨年閉店したことにともなって空いたビルを市が買い上げてアートセンターにする案が来週にも投票にかけられるという。コヴェントリーはイギリスの2021年文化都市に指定されていることも後押ししている。似た例として、日本でもアーツ前橋は西友が廃業したあとのビルをリノベーションして再活用したもの。
https://www.bbc.com/news/uk-england-coventry-warwickshire-56071792

◎リノベーションにNO
ルーブル美術館のギリシャ彫刻などの展示室にサイ・トゥオンブリーの巨大天井画があるが、部屋のリノベによって白い壁が赤く塗られ、大理石の床が寄木細工に変更されたことで、天井画の魅力が大きく損なわれるとして、トゥオンブリー財団がルーブルに展示室を元に戻すよう訴えている。
https://www.artnews.com/art-news/news/cy-twombly-foundation-louvre-renovation-ceiling-1234583812/

アートマーケット

◎完全デジタルなアート作品が初のオークションへ
クリスティーズが初めて完全にデジタルなアート作品をオークションにかける。Beepleが13年間かけて1日1枚制作してきた5000枚の作品をコラージュしたNFT(Non-Fungible Token=代替不可能でユニークなトークン)作品。これまでビットコインに関連した物理的な作品の競売などはあったが、完全にデジタル作品の競売は初。オンラインオークションで2/25〜3/11まで。
https://www.artnews.com/art-news/market/christies-beeple-blockchain-art-sale-1234583847/

◎クリストとジャンヌ=クロードの落札新記録
クリストとジャンヌ=クロードが友人作家達との作品交換などで保有していたコレクションのオークションが約10億円の売り上げ。なかでも彼ら自身の作品である日米のアンブレラプロジェクトの習作が2億円を超える落札額でアーティストレコードを記録。
https://www.artnews.com/art-news/market/christo-jeanne-claude-collection-sale-sothebys-part-1-1234583973/

おすすめの読み物、カタログレゾネ

◎黒人アーティストによる抽象絵画の歴史
正当に評価されてこなかった黒人アーティストによる抽象絵画の歴史を、40年代のノーマン・ルイスにはじまり、ハワードナ・ピンデル、サム・ギリアム、チャールズ・ゲインズを経て、マーク・ブラッドフォードやラシード・ジョンソンに至る縦糸をしっかり繋いでくれる長文記事。
https://www.nytimes.com/2021/02/12/t-magazine/black-abstract-painters.html

◎ナチス迫害を逃れたシャガールの足跡
シャガールは、米ユダヤ系コレクター達の助けもありナチスの迫害から逃れて1941年にNYにたどり着くことができた。だが、作品が収められた木箱はスペインで停められており、また娘夫婦が逃げる手配まではできなかった。いかに娘夫婦が作品と共にNYまで辿り着くことができたかの話。
https://www.artsy.net/article/artsy-editorial-chagalls-daughter-smuggled-work-nazi-occupied-europe

◎個展を機に人気に、ヒルマ・アフ・クリント
いわゆる抽象絵画がはじまったとされるより前から抽象絵画を描いていたにも関わらず、これまで知名度があまりなかったスウェーデン人女性抽象画家ヒルマ・アフ・クリント。2018年のグッゲンハイム美術館での個展で一気に知名度が上がり、やっとカタログレゾネ全7巻の、まずは最初の3巻が今月に出版。1巻$50で全巻$350。ちなみにグッゲンハイムの個展は60万人が入って美術館最多だったそう。
https://news.artnet.com/art-world/hilma-af-klint-catalogue-raisonne-1944365

*来週の「週間・世界のニュース」は休載します。次回は3月9日(火)更新予定です。

Kosuke Fujitaka

Kosuke Fujitaka

1978年大阪生まれ。東京大学経済学部卒業。2004年、Tokyo Art Beatを共同設立。08年より拠点をニューヨークに移し、NY Art Beatを設立。アートに関する執筆、コーディネート、アドバイスなども行っている。