給与から見る白人優位のアート界、2万年前の洞窟壁画が危機、パレスチナに連帯の声:週刊・世界のアートニュース

ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目ニュースをピックアップ

In Art Beat News by Kosuke Fujitaka 2021-05-25

いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は、5月15日〜21日のあいだに世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「アートワーカーの厳しい現状」「コロナの影響」「できごと」「アートマーケット」「おすすめの展覧会・読み物」の5項目で紹介する。

アートワーカーの厳しい現状

◎給与から見る、白人優位のアート界
LAのアート関連職につく人々を調査した結果、平均して有色人種は白人より35%低い給料を得ていること、さらにエントリーレベルの仕事では全人種の平均額(約400万円)が、最低限度の生活可能な賃金(約440万円)を下回っていることがわかった。足りない部分を補う方策としては、家族の仕送りが一番で、次にアート以外のバイト、そして奨学金などが続く。
https://news.artnet.com/art-world/bipoc-arts-workers-1970177

◎ホイットニー美術館で労働組合結成
アメリカの美術館で組合化の動きが加速しているが、NYのホイットニー美術館でも185人の職員が労働組合を組成した。コロナ禍で2度に渡り合計約20%の職員のリストラが断行されたことが大きなきっかけになったという。職員とマネジメント層の賃金格差がひらくばかりな状況も原因の一つ。
https://hyperallergic.com/646835/whitney-museum-workers-are-unionizing/

コロナの影響

◎イギリスの美術館はついに再開
イギリスの美術館はついに5月17日から再開可能になった。まだまだ海外からの旅行者が少ないなか、美術館はイギリス人だけでゆったり展覧会が見られるチャンスだと、日頃美術館に行かない人にもよびかけている。テートは去年の3月以来の開館だという。
https://www.theguardian.com/culture/2021/may/16/were-ready-for-you-english-galleries-and-museums-throw-open-their-doors

◎シャルジャ・ビエンナーレは23年に開催へ
アラブ首長国連邦の第15回シャルジャ・ビエンナーレは、当初2021年開催予定だったがすでに22年に延期されていたのを再延期し23年に。国によってワクチンが行き渡るのに当分時間がかかること、まだ国際的に渡航制限が続くことなどが理由。今回はキュレーターの故オクウィ・エンヴェゾーによる構想がベースになっている。
https://www.artnews.com/art-news/news/sharjah-biennial-15-delayed-2023-1234593235/

◎TEFAFがキャンセルに
オランダ、マーストリヒトの大手アートフェアTEFAFがキャンセルに。通常は3月開催のところ、今年は9月に延期されていたが。同様にアート・バーゼルは6月から9月に延期されているが、開催できるかが注目されている。
https://news.artnet.com/market/tefaf-2021-cancelled-1970699

できごと

◎若者にカルチャーパス
フランスではテスト期間を経て、若者向けのカルチャーパスプログラムを本格開始する。約80万人の18歳の若者に美術館や映画館、画材などに使える300ユーロがスマホアプリで支給される。使用期限は2年間。今後、高校生にも200ユーロ分が支給される予定。
https://news.artnet.com/art-world/macron-launches-culture-pass-1971615

◎黒人オーナーが運営しているアートスペース
黒人オーナーが運営している新しいアートスペースをロンドン、LA、フィラデルフィア、デトロイト、NYから5つ紹介する記事。小さな図書館を併設して展覧会に関連する文脈も一緒に伝えようとしている場所がいくつかあるのが興味深い。また、その一つのフィラデルフィアのConceptual Fadeは日本のマイクロジャズバーの親密さにインスピレーションを受けたという。
https://www.artnews.com/list/art-in-america/features/five-new-black-run-art-spaces-to-watch-1234593015/storage-in-new-york/

◎シアスター・ゲイツが担当
来年のサーペンタイン・パビリオンがシアスター・ゲイツにコミッションされることになった。建築家ではないアーティストが単体で担当するのは初。これまでには、アイ・ウェイウェイやオラファー・エリアソンが建築家と組んで担当したことはあったが、単体はなかった。
https://news.artnet.com/art-world/theaster-gates-will-design-2022-serpentine-pavilion-first-non-architect-solely-receive-prestigious-commission-1970600

◎2万年前の洞窟壁画が危機
インドネシアのスラウェシ島にある2万年以上前の洞窟壁画が地球温暖化の影響で激しい損傷を受けているとのこと。洞窟内の塩分の結晶化は温度や湿度で大きくなったり小さくなったりするが、昨今の温暖化で大きくなっており、壁画が剥がれてしまうことにつながっている。
https://news.artnet.com/art-world/climate-change-is-destroying-the-worlds-oldest-art-1970475

◎パレスチナに連帯の声
停戦が伝えられるパレスチナ情勢だが、スタジオやアート施設が破壊されたりなどパレスチナ側のアート業界への影響をまとめた記事。また、パレスチナ情勢に対してこれまで世界のアート業界から声があがることはあまりなかったが、今回は西側でのBLMや、LGBTQ、脱植民地化のうねりを経て、パレスチナへの連帯の声が上がり始めているという。
https://news.artnet.com/art-world/israel-conflict-artists-1970668

◎川に浮かぶ公園がオープン
NYダウンタウンのハドソン川沿いに川に浮かぶLittle Islandという公園がオープンした。起伏にとむ形状に植物が植えられ、日没を背景にした屋外円形劇場もある。近くにデイビッド・ハモンズのパブリックアートも完成し、ハイライン、ハドソンヤードまで再開発がつながる。
https://www.nytimes.com/2021/05/20/arts/little-island-barry-diller.html

◎ウォーホルのデジタルアートを復元、批判
アンディ・ウォーホルが80年代にAmiga 1000というパソコンで作ったデジタルアートをコーリー・アーケンジェル(Cory Arcangel)とカーネギーメロン大のコンピュータークラブがフロッピーからの取り出しに成功。それらがNFTとしてクリスティーズの競売にかかっている。ただ当時と今のモニターの仕様の違いなどに起因して、復元過程で修正が入っているのだが、その恣意性などに大きな批判があがっている。
https://news.artnet.com/market/andy-warhol-nft-christies-1971474

アートマーケット

◎Friezeが韓国で初開催へ
Friezeアートフェアが2022年9月にアジア初のフェアをソウルで開催することを決定。100程度のギャラリー規模で現代アートがメイン。香港の情勢不安によりアジアの新たなハブを探す動きの中、アート関連の税制の有利さ、税関手続きの免除などが勘案されソウルに決まったとのこと。
https://news.artnet.com/market/frieze-seoul-september-2022-1969953

◎パンデミック後初のアート・バーゼル
パンデミック後、オンラインではなく実際の会場でのアート・バーゼルとしては初のアート・バーゼル香港が5月23日まで開催されている。規模は前回の半分以下で、香港の厳しい隔離制限により、他国だけでなく、中国本土からも来にくく、来場者は主に地元のコレクターだけだが、入場チケットは売り切れ、高額作品も売れているとのレポート。
https://www.artnews.com/art-news/market/at-art-basel-hong-kong-2021-report-1234593643/

◎NFTの売り上げ鈍化
ビットコインなど暗号通貨の下落がニュースになっているが、NFTも売り上げが年初の半分程度に落ちているという記事。売買数、価格、マーケットへの参加者数がともに落ちているという。著名暗号通貨投資家のマーク・キューバンが売りに出しているNFTも1ヶ月以上売れ残っている。
https://markets.businessinsider.com/currencies/news/nft-market-prices-declining-mark-cuban-art-crypto-2021-5-1030441511

◎デイビッド・ツヴィルナーがオンラインモールを開設
デイビッド・ツヴィルナーが若手・中堅ギャラリーを集めたオンラインモール「Platform」をローンチ。Bridget DonahueやBortolamiなど11の画廊が約500万円までの作品を販売。ツヴィルナーの息子が率いる10人のチームが運営し、20%の手数料を取る。ライバルのガゴシアンは、若いギャラリーが自らのアーティストやクライアントリストを明け渡してまで参加するのは長期的にすすめないとして批判のコメント。5月20日オープンで、ご祝儀相場か、当日にすでにかなりの作品が売れた模様。オンラインのアート販売のペインポイントのロジスティクスだが、アート輸送会社と提携することで解決。輸送費は購入時に確定し、購入者が負担。輸送会社がパッキングから配達まで担当し、輸送会社がギャラリーに取りにきた時点でギャラリーに入金される仕組み。
https://www.nytimes.com/2021/05/19/arts/design/zwirner-gallery-platform-online-sales.html

おすすめの展覧会・読み物

◎ピノーの美術館がついにオープン
大コレクターのフランソワ・ピノーの美術館The Bourse de Commerceがついに開館。2000年にセーヌ川セガン島に美術館を建設する計画が市議会に妨害されて以来パリでの美術館開館は悲願であった。安藤忠雄による美しいリノベーション。昨今注目されるデイビット・ハモンズ(David Hammons)、ケリー・ジェームズ・マーシャル(Kerry James Marshall)などの米黒人作家も長年コレクションしてきたそうで、開館展にかなり入っている。美しい写真をどうぞ。
https://news.artnet.com/art-world/bourse-de-commerce-paris-opening-1970450

◎ルイーズ・ブルジョワ個展レビュー
ルイーズ・ブルジョワの個展が「フロイドの娘」というタイトルでNYのジューイッシュミュージアムではじまった。1952年から1985年の間に、精神科医との精神分析へのメモとして彼女が書いた80ページのテキストが初めて公開され、作品とともに展示されている。そのレビュー記事。
https://www.nytimes.com/2021/05/19/arts/louise-bourgeois-jewish-museum.html

◎新人コレクターへのアドバイス
人気アーティストが売り切れていて、ウェイティングリストがある場合に、どういうメカニズムでリストが作られ、新人コレクターは何ができるかという記事。結局近道はないが、画廊との信頼を作る、信頼のあるアドバイザーに頼む、我慢強く待って他の作家も見てみるなど。
https://www.artsy.net/article/artsy-editorial-collectors-artist-waiting-list

*来週の「週刊・世界のニュース」は休載します。次回は6月8日(火)更新予定です。

Kosuke Fujitaka

Kosuke Fujitaka. 1978年大阪生まれ。東京大学経済学部卒業。2004年、Tokyo Art Beatを共同設立。08年より拠点をニューヨークに移し、NY Art Beatを設立。アートに関する執筆、コーディネート、アドバイスなども行っている。 ≫ 他の記事

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