《夜警》が復元へ、作品売買の不都合な真実、パリは欧州2番手として成長するか?など:週刊・世界のアートニュース

ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目ニュースをピックアップ

In Art Beat News by Kosuke Fujitaka 2021-06-29

いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は6月13〜26日に世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「レンブラントの『発見』と『復元』」「オバマの肖像画」「できごと」「アートマーケット」「おすすめの読み物、ロードトリップ、展覧会」の5項目で紹介する。

レンブラントの「発見」と「復元」

◎汚れの下で輝くレンブラントの色彩
失われたと考えられていたレンブラントの絵画《The Adoration of the Magi (マギの崇拝)》がローマで見つかったという。ある家族が知らずに所有していたが、壁から落ちたため修復に出した。修復家が数百年分の汚れなどを取り除いたところオリジナルの輝く色彩が出てきて、本物ではないかと考えられているという。家族は当面保有する意向だが、美術館などへの貸し出しはしていく。価値は約250億円にも上る可能性があるという。
https://news.artnet.com/art-world/rembrandt-painting-discovered-after-frame-breaks-1983504

◎《夜警》が復元へ
レンブラントの《夜警》は1715年に市庁舎に移された際に絵の上下左右を切り落とされたが、今回、17世紀ゲリット・ルンデンス(Gerrit Lundens)による約5分の1のサイズの模写とAIで全体を復元した。人の手で復元することもできたが、その人のくせが出るのを避けるためにAIを使うことにしたそう。アムステルダム国立美術館にて3ヶ月間展示される。
https://www.artnews.com/art-news/news/rembrandt-ai-restoration-1234596736/

オバマの肖像画

◎オバマ夫妻のポートレイト
オバマが大統領だったときの夫妻のポートレイト(ケヒンデ・ワイリーとエイミー・シェラルド作)がこれから全米の5つの美術館を11ヶ月に渡って巡回していく。こけら落としは夫妻が初デートしたらしいシカゴ美術館にて、チケットはすでに売り切れとのこと。ブルックリン美術館、LACMA、アトランタのHigh美術館、そしてヒューストン美術館の順に巡回。
https://news.artnet.com/art-world/obama-presidential-portraits-kick-off-11-month-tour-1980988

◎ホワイトハウスの伝統ふたたび
トランプが断ち切った伝統をバイデンが復活させるとのこと。過去40年に渡って、前大統領のポートレイトをコミッションしてホワイトハウス内に飾るのが慣習で、共和党、民主党を問わず前大統領への親善を示すものだった。トランプがその慣習を断ち切ったが、バイデンが新たにコミッションし、オバマの肖像画がこの秋にお披露目される。
https://news.artnet.com/art-world/v-biden-1981873

できごと

◎約3000億円を寄付
マッケンジー・スコット(ジェフ・ベゾスの元妻)が新しく約3000億円あまりを全米286施設に寄付。多くが文化、アートに関する施設で、MoMAなどのメジャーな美術館ではなく、ハーレム・スタジオ美術館などマイノリティにフォーカスした中小規模施設が中心。また、このような多額の寄付にありがちな大きなPRキャンペーンはされずに、スコットがひっそりと自身のMedium上に発表をしたのみというのも新しい。比較的大きな金額が紐付きでなく(=無条件で)寄付される。
https://news.artnet.com/art-world/mackenzie-scott-just-donated-2-74-billion-arts-organizations-1980520

◎アメリカ美術館のマスク事情
アメリカのほとんどでワクチン接種者はレストラン内部でもマスク強制がなくなってきているなか、美術館では、まだほとんどがマスク強制継続中。DCのナショナルギャラリーでは6月18日からワクチン接種者はマスクしなくてもよくなったとのこと。スミソニアン系列の美術館でも同月28日から同様の施策を予定している。
https://www.washingtonpost.com/entertainment/museums/national-gallery-masks-off/2021/06/16/fcaf2476-cea2-11eb-8014-2f3926ca24d9_story.html

◎NYの病院でのアート競争
NYの病院では施設内外にちゃんとしたアートを飾る風潮というかちょっとした競争がおきているという。大病院がパブリックアートをコミッションしたり、アートコレクションを拡充したりする例が増えている。一例として、NY最大系列の病院に、アムウェイで財をなした夫婦が女性作家による404点の絵画、彫刻を寄贈した話を紹介。夫婦の友人の歌手、ケイティ・ペリーがオーディオガイドを担当しているそう。
https://www.newyorker.com/magazine/2021/06/28/the-de-kooning-in-the-surgical-ward

◎ガウディ邸宅がエアビーに
アントニ・ガウディがデザインしたバルセロナの邸宅カサ・ビセンス(Casa Vicens)は現在美術館になっているが、今年の秋にたった一晩Airbnbとして貸し出されるそう。しかもそのお値段1ユーロ。早いもの勝ちで、7月12日NY時間午前10時に予約開始。
https://www.architecturaldigest.com/story/gaudi-casa-barcelona-airbnb

◎盛り上がりを見せるフィラデルフィアアートシーン
NYの6番目の区と揶揄されてきたフィラデルフィアだが、フィラデルフィア美術館が20年のリノベーションを経て再開し、またコマーシャルギャラリーが強いNYと違ってアーティストランのスペースに元気が出てきているそう。さらにコロナ禍に地元の6アート施設が、主に財政的な苦境について活発な議論をはじめたのがきっかけで、さらなる連携の動きもあり盛り上がりの機運をみせている。
https://www.artnews.com/art-news/news/philadelphia-pennsylvania-art-cities-to-watch-1234596334/

◎「米国救済計画」の一環
バイデンの「米国救済計画」の一環として全米芸術基金から約150億円が新たに助成されることになった。トランプ時代の約倍の金額とのこと。また、トランプ時代は直近4年の間に同基金から助成を受けた団体しか応募資格がなかったが、それでは新しい団体などを締め出しているとしてその条件は撤廃。ただ、法的に個人への助成はできず応募資格があるのは法人のみ。
https://www.npr.org/2021/06/23/1008946799/new-grants-are-available-for-arts-groups-sidelined-during-the-pandemic

◎LA初のギャラリーウィークエンド
7月28日から8月1日までLAではじめてギャラリーウィークエンドが開催される。今のところ74のギャラリーや非営利スペースが参加、トークやイベントを開催し、夜遅くまでギャラリーを開けたりしてアピールする。NYやヨーロッパの都市は夏休みでローシーズンだが、LAは観光客が多く盛り上がるという。
https://www.nytimes.com/2021/06/24/arts/design/los-angeles-gallery-weekend.html

アートマーケット

◎パリは欧州2番手として成長するか?
Brexitの影響や、ラグジュアリーブランドで財をなしたベルナール・アルノーやフランソワー・ピノーのような大コレクターの存在もあり、パリのアート市場が活況だという。海外からの画廊の出店も増えている。まだまだロンドンよりずっと小さいが欧州の2番手として伸ばしていけるか。ただ世界全体でみればアジアシフトが大きなトレンドでヨーロッパ内のこの変化はまだまだ小さいとの指摘も。
https://www.artnews.com/art-news/news/paris-art-cities-to-watch-1234595741/

◎新たなデータサービス
広告記事だが、Factureというアートマーケットデータのサービスがβローンチしたそう。市場で最も取引のある作家60人のほぼ全作品をカタログレゾネから取り出してきて、それぞれの作品を個人所有か、どの美術館が所有しているか、これまでいくらで取引されたかなどが複眼的にわかるサービスとのこと。
https://www.artnews.com/art-news/sponsored-content/facture-debuts-1234596476/

◎サザビーズの拠点がドイツに新オープン
サザビーズがドイツで初めてのセールス拠点をケルンにオープン。ヨーロッパではロンドン、パリ、ジュネーブ、チューリッヒ、ミラノに続いて6拠点目。ドイツだけでなく隣国のベルギー、オランダからの顧客獲得も期待しているとのこと。フィリップスもドイツ進出を計画中。
https://www.artnews.com/art-news/market/sothebys-germany-cologne-headquarters-1234596074/

おすすめの読み物、ロードトリップ、展覧会

◎作品売買の不都合な真実
フィラデルフィアのドラッグディーラーのガサ入れの際に、薬物と現金3億円弱だけでなく、なんとルノワール、ピカソ、ダリの作品が見つかって捜査官が驚いた話にはじまり、アートが資金洗浄、脱税の温床になっている可能性が高い、そしてオークションハウスやギャラリーに銀行に課せられているような売買の報告義務を課すべきではというアメリカ世論の紹介記事。すでに同様の規制(高額売買の報告、またエージェントの裏にいる真の売り手と買い手の特定)は欧州の画廊や、米国でもアンティーク業者には課せられている。米国でも広くオークションやギャラリーにも適用する立法を目指す政治家に対し、画廊連盟などは年間1億円程度をロビー活動に費やして、規制がかかった場合の手続き、法務的な大きなコストを理由にその動きに反対している。
https://www.nytimes.com/2021/06/19/arts/design/money-laundering-art-market.html

◎ランドアートでロードトリップ
スミッソンのスパイラル・ジェティや、ウォルター・デ・マリアのライトニングロッドなど米国のランドアートを巡るユタ、テキサス、カリフォルニア、NYの4コースのロードトリップの紹介。アメリカらしくどれも長いが、中でも一番長いのはテキサスの4作品を2000キロ走って見るコース。
https://news.artnet.com/art-world/4-land-art-road-trips-summer-2020-1879836

◎メディチ家はいかにアートを政治利用したか
メトロポリタン美術館で展覧会「The Medici: Portraits and Politics 1512–1570」が開催されるが、メディチ家がいかにアートを、特に肖像画を政治的な支配力を得るために使ったかというのを「政治的野心の顕示」「イメージ刷新」「神話との接続」「子孫繁栄」の4つに分けて解説する記事。
https://www.artnews.com/feature/medici-family-portraits-met-show-1234596767/

◎ドクメンタの政治性を振り返る
ベルリンのドイツ歴史博物館で、初期のドクメンタの政治性を振り返る展覧会「Documenta: Politics and Art」がはじまった。開催地として東西ドイツの国境近くが選ばれたこと、初期の運営者の3分の1がナチスやSSの元メンバーだったこと、2回目にMoMAの企画でポロックをはじめ多くの米国人作家が参加したがCIAの強い関与が伺えることなどなどとても興味深い。
https://news.artnet.com/art-world/politics-art-documenta-1982336

Kosuke Fujitaka

Kosuke Fujitaka. 1978年大阪生まれ。東京大学経済学部卒業。2004年、Tokyo Art Beatを共同設立。08年より拠点をニューヨークに移し、NY Art Beatを設立。アートに関する執筆、コーディネート、アドバイスなども行っている。 ≫ 他の記事

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