公開日:2021年10月15日

ドクメンタ参加作家発表、アート業界スタートアップ初のユニコーン、《サムソンとデリラ》は誰が描いた?など:今週の注目ニュース

ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目ニュースをピックアップ。

いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は、9月25日〜10月11日のあいだに世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「オンラインの新たなアートサービス」「ドクメンタとパフォーマ」「できごと」「アートマーケット」「おすすめの読み物」の5項目で紹介する。

ピーテル・パウル・ルーベンス《サムソンとデリラ》(1608)ナショナル・ギャラリー蔵

オンラインの新たなアートサービス

◎ギャラリー独自のNFTプラットフォームに光明が
OpenSeaなどNFTプラットフォームでの作品売買では、二次販売含め複雑な売上金シェアのやり取りがあるうえ、基本的には作家がプラットフォームを介して購買者と直接やり取りするスタイルであり、作家と所属ギャラリーのビジネス関係に落とし込むのが難しかった。そこでNYベースのMonegraph社がギャラリー独自のNFTプラットフォームを簡単に安価に作るソフトウェアライセンスを発表。ビットフォームスやポストマスターズなどNYのデジタルに強い3ギャラリーがすでに使っている。金銭のやりとり以外にも、アート業界からの改善要望が強かったのは、NFTプラットフォームのビジュアルコントロール。このMonographのサービスでは、WordPressなどのプラグインも提供し、自社サイトとNFTプラットフォームのビジュアルコントロールをしやすくしているという。
https://news.artnet.com/art-world/monegraph-nft-ecommerce-platform-2015338

◎アート業界スタートアップで初のユニコーン企業
NYベースのアート作品分割所有プラットフォームのMasterworksが約120億円のシリーズA資金調達をしてアート業界のスタートアップ企業としてはじめて評価額が1100億円のユニコーンに。これまで、資産としてのアートは超富裕層だけのものだったが、株式のように簡単にデジタル管理でき普通の人の資産ポートフォリオに入れられるという触れ込み。Masterworksとして今年中に400億円分、来年には1200億円分のアートを購入する予定で、世界一の購入プレーヤーになると宣言。ただ、通常の金融資産よりずっと高い手数料構造や、そもそもそれらの巨額のアートを安定的に、フェアな価格で買い入れるのは難しいのではといった批判が出ている。今回のシリーズAに入っている投資会社のひとつのTru Arrow Partnersのパートナーのひとりがグレン・ファーマン(Glenn Fuhrman)。有名なコレクターでもあり、コレクションはチェルシーにあるアートスペース、Flag Art Foundationで企画展のかたちで見ることができる。
https://news.artnet.com/market/masterworks-company-offering-fractional-shares-major-artworks-now-valued-worth-1-billion-2017723

ドクメンタとパフォーマ

◎ドクメンタの参加作家発表
2022年6月に開催予定のドクメンタの参加作家が発表された。インドネシアのアーティストコレクティヴ、「ルアンルパ」がキュレーションを担当し、作家の顔ぶれはこれまでの国際展とはまったく違うものに。かなり思い切った方向転換で、アートシーンを変えることになるか。日本からはCinema Caravanと栗林隆が参加。
https://www.artnews.com/art-news/news/documenta-15-artist-list-ruangrupa-1234605508/

◎パフォーマンスアートのビエンナーレ
NYのパフォーマンスアートのビエンナーレ、パフォーマ(Performa)が10月12日からスタート。コロナの影響で規模はかなり小さくなり、ほぼアメリカのみからの作家8組にコミッション。すべて屋外でのパフォーマンスになる。今年は9回目だが、2005年の初回でマリーナ・アブラモビッチが大きな話題をさらい、アートシーンにパフォーマンスアートが大きく躍り出たきっかけになった。初回からの歴史を振り返る記事。
https://news.artnet.com/art-world/performa-returns-highlights-first-two-decades-2017655

できごと

◎ルーベンス《サムソンとデリラ》は誰が描いた?
ロンドンのナショナルギャラリーのハイライトのひとつ、ルーベンスの《サムソンとデリラ》は、何度もルーベンスの作かどうか疑義が唱えられてきた。今回、AIを使って真作証明をするスイスの新興企業が判定したところ、同社のAIによると91%以上の確率でルーベンスではないという結論が出たという。
https://www.artnews.com/art-news/news/national-gallery-london-rubens-samson-and-delilah-ai-authentication-1234604957/

◎ルベル美術館の2館目がオープン
マイアミの有名アートコレクターのルベルファミリーは、ルベル美術館を2019年にマイアミにオープンしたが、今回さらにワシントンDCにも2館目をオープンすることがわかった。元中学校の建物を再開発し、コンドミニアムと美術館の複合施設に。2022年末オープン予定。
https://news.artnet.com/art-world/rubell-museum-washington-dc-2013315

◎香港で作家として生きるには
香港の小規模フェアUnscheduledは地元のコレクターが地元作家を買い集めて、マーケットはとても好調だという。だが、国家安全維持法が施行されてから香港からの人の脱出は続いており、1.2%の人口減。そのなかには作家も多いという。香港に留まって作家活動をしていくためには政治性を排除して、装飾的作品作りが必要になるという指摘。
https://news.artnet.com/market/hong-kongs-local-art-market-flourishing-national-security-law-many-fear-artist-exodus-2014185

◎主要ロースクール初のアーティスト・イン・レジデンス
NYコロンビア大学の法科大学院が、全米の主なロースクールとしては初めてアーティスト・イン・レジデンスを開設。法科大学院に多様性と活気を持ち込むのが目的。ハーレムを拠点とする写真家Bayeté Ross Smithが400人の応募のなかから選ばれた。1年間で約170万円の助成金と50万円の材料費が支給され、学校内にスタジオを構え、法務コミュニティと「Art of Justice」プロジェクトを進める予定。
https://www.reuters.com/legal/legalindustry/harlem-photographer-heads-columbia-law-first-artist-in-residence-2021-10-01/

◎ダビデ像の性器も検閲対象に?
ドバイ万博のイタリア館ではミケランジェロのダビデ像の精巧なレプリカが展示されているが、イスラム教徒の観衆に配慮して性器部分が隠れて見えないように像を上下2フロアで分割して見るような設置に。イタリア館ディレクターは検閲ではないと主張しているとのこと。
https://news.artnet.com/art-world/exhibitors-at-expo-dubai-covered-private-parts-michelangelos-david-2017165

◎ブリティッシュ・カウンシルの危機にNO
国際文化交流機関のブリティッシュ・カウンシルがなんと20カ国で活動停止か大幅に削減されるとしてアニッシュ・カプーアなどが批判の声をあげている。コロナによる予算削減が大きな理由とされているが、縮小の流れはコロナ禍以前から起きていたとのこと。
https://www.theartnewspaper.com/2021/10/05/the-slow-gradual-decline-of-the-british-council

アートマーケット

◎世界有数のギャラリーが北京でポップアップ展
リッソン・ギャラリーやリーマン・モーピンなどの14の世界有数のギャラリーが、北京の自由貿易エリア(入出国関税がかからない)にできたギャラリービルにおいて3ヶ月のポップアップ展を開催していくとのこと。ビルはロジスティクスの会社が運営している。
https://news.artnet.com/market/blue-chip-galleries-beijing-pop-up-2018247

◎落札者データベースの正確性はいかに?
オークションの落札者は誰だったとかその他オークションにまつわるゴシップなどを90年代のFAXサービスから今はe-newsで届けているNYベースのベア・ファクストというサービスがあるが、なんと過去20年以上のオークションの落札者とアンダービッダー(最後に競り負けた人)のデータベース提供を始めるそう。オークション会場での視認と人づての情報を頼りにしているため正確性を問う声を大きいが、1996年のニュース配信以来1万800名の名前の配信のうち10以下の訂正しか受けていないと反論。月200ドルの使用料から。
https://www.theartnewspaper.com/2021/10/07/baer-faxt-launches-database-of-buyers-and-underbidders-names

◎Modern、Contemporary、Now
年間で最も重要なセールのひとつである11月のNYサザビーズのオークションのイブニングセールはこれまでModernとContemporaryという2つの区分けだったが、今年から、さらにNowを加えて3つの区分に。Nowは過去20年の作品を扱い、今回、奈良美智やマーク・ブラッドフォードなどの作品が出品予定。
https://www.artnews.com/art-news/market/sothebys-contemporary-art-evening-sale-reformat-the-now-emerging-artists-1234605615/

おすすめの読み物

◎ミケランジェロ、470年ぶりの大幅修復
ミケランジェロが自分の死後の墓のために作ろうとした未完のピエタ像が初めて(制作後470年ぶりに)大規模に修復された。大理石の質が悪く、制作が困難を極め、8年もの月日をかけたが未完に終わったもの。修復の過程で、大理石が通常ミケランジェロが使っていたカララ産ではないことなども判明。
https://www.nytimes.com/2021/09/27/arts/design/michelangelo-bandini-pieta.html

Kosuke Fujitaka

Kosuke Fujitaka

1978年大阪生まれ。東京大学経済学部卒業。2004年、Tokyo Art Beatを共同設立。08年より拠点をニューヨークに移し、NY Art Beatを設立。アートに関する執筆、コーディネート、アドバイスなども行っている。