ギャラリー本城北浦は少女時代からトルストイなどの道徳的な短編小説に親しみ、17歳のときにキリスト教(プロテスタント)の洗礼を受けました。‘信仰’は彼女の生活の礎であるとともに、制作の上でも重要なテーマとなっています。作品には、宗教的な画題と、個人的な経験を主題にしたものがあります。北浦は聖書や文学作品のエピソードを、決して遠い時代や国の物語ではなく、自身の日常にも起きていることなのだと捉えています。よってキリストや聖人などの登場人物たちは、過去に描かれてきた私達の良く知っているイメージではなく、現代を生きる私たちの姿のように描かれています。私的経験に基づいた作品も、自らの弱さを見つめ、小さく弱いもの達に心を寄せ(参照作品「幼きもの」)、内省と他者への慈しみに基づいた視線が保たれており、信仰心がごく自然に、そして深く、制作に関わっているのが感じられます。
北浦の銅版画は、シンプルな線とフォルムで表されたモチーフが大きく余白をとって配置されており、すがすがしく軽やかな印象です。
物語の一場面や私的経験の核心を端的に表現するのが巧みなゆえに、画面は一見すると簡素な印象ですが、それがかえって余韻を感じさせます。優しく温かな詩情に満ちたもの、激しさを感じさせるものとさまざまで、どこか飄々としたおかしみと哀しみを感じさせるのも持ち味のひとつとなっています。
本展のタイトル「a fountain」は聖書の一遍から付けられました。渇きをいやす清冽な水が、絶えることなく湧き出る泉。枯れた心を潤す水を求めてさまよい、いつか自分自身と他者を潤すことができるような存在になれるのだろうかと自問する、北浦自身の希求と祈りの表れです。シンプルなイメージのうちに潜む多様なテーマ― 嫉妬、裏切り、憎しみ、傲慢といった人間のさまざまな罪。孤独。愛と祈りと希望― を描いた新作18点を展示致します。
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