東京都現代美術館空に浮かぶ蒸気機関車、セーラー服姿の一つ目少女、高速で流れる車窓の風景‥。戦後、一貫して具象にこだわり、独自の絵画の可能性を追求してきた中村宏(1932年-)の作品は、観る者に強烈な印象を残します。
1950年代、政治的・社会的な事件や事象に取材して描かれた作品群は「ルポルタージュ絵画」として注目を集めました。それ以降も、時々の社会情況と深く関わりながら描かれてきた作品は広く支持され、戦後日本美術史において高く評価されています。
本展は、そのような中村作品を包括的に捉え、油彩画約100点に、装丁・挿画・イラストレーションや資料など約200点を加えた総数300点を通して、制作の全貌を明らかにするものです。
さまざまな事件や事象を記録し伝えるところからスタートした中村の作品は、現在にいたるまで、常に実際の観賞者を念頭において構想され、描かれてきました。絵画の中に、観賞者に対してコミュニケーションを積極的に促すような“記号”や“図”、“絵言葉”など、線描をベースにした独自の「図画」的な要素をもりこんだ幅の広い仕事が展開され、観る者の視線を捕らえるための独自の探求が続けられています。それゆえ、中村宏の作品は、何よりもまず、ひとりの観賞者が事件に遭遇するかのように出会う画面として現れてくるのです。常に個々の観賞者をまきこみ続ける「図画事件」の連鎖、あるひとつの異系の絵画の全貌をご紹介します。
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