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田嵜裕季子 「eight invisible stories」

アート・&・リバー・バンク
終了しました

アーティスト

田嵜裕季子
田嵜裕季子の個展「eight invisible stories」は、それぞれに異なるフィールドで活動する8人の人物のモノローグで構成されるビデオ・プロジェクトです。8人は、日本とイギリスと国籍も異なれば、性別や年齢、またその語る世界もそれぞれです。しかし、どこか共通する印象を残したまま、鑑賞者はやがて語られる世界にそのことを忘れ去ってしまいます。表情がわからないようなアングルで撮影された映像の中で語られる世界。しかし、映像のなかでときにしなやかに剥製を撫で、ときにいつくしむように花々を包み込む手つきが、どこかわたしたち自身のものよりも鋭敏な感覚器であることが伝わってきます。そして、気づくのです。彼女や彼は、視覚障害者なのだと。

田嵜は、このプロジェクトをイギリスで始めます。言語の壁を越えて、人々と共鳴できる何かを求めていたと語る田嵜。そんなとき偶然出会った盲人との会話を通して、言語と視覚というそれぞれのコミュニケーション回路に問題を抱える二人であるにもかかわらず、彼女の心の中には豊かなイメージが広がり、心が共振するのを覚えたと言います。言語でも視覚でもない何かを通して、あるいは充分ではないものの懸命に働こうとするその両者を通して、他者の感覚に寄り添うような感覚が生まれ出る。田嵜は、その感覚を基軸とした表現を模索し始めます。

田嵜の作品は、盲人へのインタビューという構図だけを見るとソフィ・カルの「The Blind」を想起させるかもしれません。確かに、ソフィのそれが視覚そのものに対する一般的な理解に疑義を差し向け、またそれだけにとどまらず、視覚に障害を持つ人たちと、紛れもない当の視覚についてのコミュニケーションが可能であるという指摘を孕んでいるという意味では共通する部分もあるでしょう。けれども、田嵜のプロジェクトはさらにそれさえを踏み越えて、他者という存在の深淵と、同時に豊かさに手を伸ばそうとするものでもあります。もちろんその構図を、異なる文化や社会の理解に応用してみることも無駄ではないかもしれません。けれども田嵜の控えめな手つきは、むしろそうしたことよりも、カルチュラル・スタディーズ的な他者が、結局安易な他者認識を前提とし、しかもそのことでむしろ相互理解の可能性を葬ろうとしていることに気づかせてくれます。田嵜が収集したささやかな物語が、ゆっくりと、力強く紡ぎ出そうとするものに、静かに注意を向けてみましょう。

スケジュール

2007年4月14日(土)〜2007年4月28日(土)

開館情報

時間
13:0019:00
休館日
月曜日、火曜日
入場料無料
会場アート・&・リバー・バンク
http://art-and-river-bank.net/
住所〒145-0071 東京都大田区田園調布1-55-20 浅間ビル 206
アクセス東急東横線多摩川駅より徒歩3分
電話番号03-3721-9421
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