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ロバート・モリスは、ミニマル彫刻、プロセス・アート、アースワークといった芸術運動の推進や定義において中心的役割を果たしてきました。1960年代半ば頃には硬い素材や構築的フォルムを集中的に追求していたモリスでしたが、その後はフェルトなどといった柔らかい素材を折り重ね、積み上げ、壁に固定して垂れ下げるなど、日常的な素材における重力や張力を模索するような作品制作へと移行して行きました。また、モリスは泥や廃棄糸をはじめとした工業素材を作品に用いましたが、作品そのものを展示空間に点在させることによって、素材の実際の重みとは裏腹に軽やかな印象を紡ぎ出しました。この時期のモリスの主な関心の1つに「不確定性」の概念があり、例えば、1969年発表の「Scatter Piece <スキャッター・ピース>」では、およそ200点にもおよぶ、鋼、鉛、亜鉛、銅、アルミニウム、真鍮といった素材をその都度様々に配置することで作品を構成しています。
菅木志雄もまた、自然物や人工素材を空間の中に巧みに共存させることで、ワックスを用いた囲いのような作品「並列層」(1969年) をはじめとした、これまでになかったインスタレーション作品を数々生み出してきました。作品を制作するにあたり、菅の思想の根底にあるのが「放置」という概念であり、しばしばその言葉を用いて自身の考えを述べています。「状況律」(1971年) では10個の平らな石を20mの長さのプラスチック板の上に配置し、それを池に浮かべるなど、菅は素材そのものとその周りを取り巻く様々な要素との相互依存に焦点を当てることにより、自身の行為を「状況」の探求と「存在のアクティベーション」と称しています。
本展ではロバート・モリスの作品「Lead and Felt <鉛とフェルト>」(1969年)と、菅木志雄の作品「辺界」(1978年) の2つのインスタレーション作品を用いて対話を提示しています。
「Lead and Felt」は「Scatter Piece」を含め、1969年にニューヨークのカステッリ・ギャラリーとカステッリ・ウェアハウスにて同時開催された展覧会にて発表された4作品の内の1つです。L字型にカットされた鉛やフェルトを無造作に床に配置したこの作品は、モリスの不確定性への追求における代表的な作品と言えるでしょう。本作は1970年にフィラデルフィア大学現代美術研究所にて開催された「Against Order: Chance and Art」展以後「Scatter Piece」とともに倉庫にて保管され、最終的には廃棄されました。今回展示される同名の作品は、2010年に再制作されたものになります。
菅の「辺界」も似た様な経緯を辿った作品です。1978年に盛岡のギャラリー彩園子にて開催された個展に際し初めて制作された本作は、床に置かれた5つの石を基準にいくつもの木の板が規則的かつ、半ば折り重なるような形で配置されています。この作品を通じて菅は「境界」「辺」「限界」といったある種の定義付けをしますが、それらはまた解体される運命にもあります。菅による多くの初期サイトスペシフィック作品同様、「辺界」もまた、展覧会終了後に廃棄されることとなりました。菅は1980年代半ば以降その都度作品を作り直してきましたが、主となるコンセプトの基、完全なるレプリカではなく環境に応じてフレキシブルにサイズや配置を試みながら繰り返し発表してきました。 2013年にロンドンにて再制作された同作品は、今回東京では初公開となります。
本展では作品を通じて、2人の作家による素材、アンチ・フォルム、抑制、不確定性、偶然性、意図、一時性、空間といった要素への探求が対比されています。かねてより欧米を中心として展開されてきたモダニズム理論は、近年様々な美術館やギャラリーの試みによって再検証され、より解釈の幅を広める機会が提供されるようになりました。モリスの作品は1966年にニューヨークのユダヤ博物館にて初めてミニマリズムを紹介した「Primary Structures」展に出展され、この歴史的な展覧会の現代版ともいえる、同館にて2013年に開催された「Other Primary Structures」展では、非アメリカ人アーティストによるミニマリズムとして、菅をはじめとした「もの派」作家の作品が発表されました。また、菅の作品は近年「Prima Materia」(Punta della Dogana、ベネチア、2013年) 、「Parallel Views: 1950、60、70年代のイタリアと日本の美術」(The Warehouse、テキサス州ダラス、2013年)、および「Tokyo 1955-1970: A New Avant-Garde」(ニューヨーク近代美術館、2012年) などをはじめとした大規模な展覧会で旗手となる役割を果たしています。
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