ゲルハルト・リヒター展

千葉県の川村記念美術館で開催されている本展は、ドイツの画家ゲルハルト・リヒター(1932-)の日本初の本格的な回顧展である。リヒター自身については改めて紹介するまでもないと思うので、ここでは本回顧展の持つ意義について述べておきたい。

poster for Gerhard Richter

ゲルハルト・リヒター展

関東:その他エリアにある
DIC川村記念美術館にて
このイベントは終了しました。 - (2005-11-03 - 2006-01-22)

In レビュー by Futoshi Hoshino 2005-11-04

すでに終了した金沢21世紀美術館、およびここ川村記念美術館での回顧展は、ドイツのノルトライン=ヴェストハーレン美術館とレンバッハハウス・ミュンヘン市立美術館で行われた展覧会を母体とし、同美術館およびリヒター自身の協力のもとに開催されている。その結果として本展は、1000を超えるリヒターの作品群の中でも特に重要な作品が集められた、極めて密度の濃い展覧会となっている。
その構成についてであるが、回顧展とはいえ50点余りの作品はその制作年代順に並べられているわけでもなければ、特徴的な幾つかの手法ごとにまとめられているわけでもない。つまりアブストラクト・ペインティングとグレイ・ペインティング、フォト・ペインティングと鏡が、ごく自然に並置されているのである。そのような展示形態が成立するにいたった経緯については、11月3日のギャラリー・トークの場でアネッテ・クルシンスキ氏(ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館学芸員)によって詳らかにされた。すなわち当初はグレイ・ペインティングと『鏡』を中心に構成される予定であったところを、回顧展という性格を考慮した結果このような形態になったのだという。そして、その際リヒター自身の発言としてクルシンスキ氏が引いた「それら(の作品)はすべて同じものである」という言葉は極めて重要なものであるように感じられた。
具体的に見ていこう。第一室は『ルディ叔父さん』(1965)、『モーターボート』(1965)といった初期の代表的なフォト・ペインティングのほか、数枚のアブストラクト・ペインティング、そして『鏡』(1986)といった作風にも年代にもばらつきのある作品群から構成されている。カタログには収録されていないが、壁面のガラスケースには写真に直接ペイントが施された作品(「オイル・オン・フォト」)も数点見られる。したがってこの第一室の時点で、リヒターの作品の大まかなヴァリエーションは提示されているといってよい。引き続き二階に上がると、そこではSonic Youth『Daydream Nation』のジャケットを喚起する『二本の蝋燭』(1882)や、カラーチャート作品である『4096の色彩』(1974)、そして『森3』(1990)、『岩壁』(1989)などのアブストラクト・ペインティングが共存している。しかしそれぞれの作品が互いに斥力を持っているようには感じられない。ここでさきほどのリヒターの言葉を思い出そう。鏡やガラスをリヒターが「絵画」とよぶ事実からも窺えるように、彼にとってこれらはすべて「同じこと」の実践、すなわち「絵画」とは、「見る」とは何かという問いへの応答にほかならないのである。ゆえにそれらは形態的な相似性を持たずとも、内的な連続性によって結ばれている(なお本展カタログにおいて川村美術館学芸員の林寿美氏はリヒターの制作活動を「多面的展開」と評しているが、これには全面的に同意する)。さらにそれらの作品は布置によってさまざまな表情を見せるという点で、かの星座(Konstellation)を思わせなくもない。
冒頭に述べた本展の意義とはおおむね以上のような点に集約される。ここ数年にかぎっても、リヒターの作品はワコウ・ワークス・オブ・アートやトーキョー・ワンダー・サイト、そしてここ川村記念美術館での「ATLAS」などで数多く見ることが出来た。私自身それらにはほぼすべて足を運んできたのだが、今回の展覧会は上記のような展示形態が実現したことも含めて過去の日本での展覧会の集大成的な位置にあるといえよう。なお、11月5日からは初台のワコウ・ワークス・オブ・アートでリヒターの新作を目にすることができる。ぜひそちらにも足を運んでいただきたい。

Futoshi Hoshino

Futoshi Hoshino. 1983年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍。専攻は美学、表象文化論。哲学/美学における美、崇高、表象といった概念をめぐる問題の研究に従事するかたわら、写真家として過去に「反映と生成」(2006)「複製/複製 ’」(2007)などのグループ展に参加。Personal Page ≫ 他の記事

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