公開日:2007年6月18日

「都市に生きるアール・デコ」

アール・デコは、1920~30年代の機械化、量産化の流れに乗りながら世界に伝播したデザイン様式で、直線と円弧を組み合わせた幾何学的な形態が特徴である。「都市に生きるアール・デコ」展は、ハウス オブ シセイドウと資生堂ギャラリーの2会場で展開し、アール・デコの特長が最も顕著に表れる建築物やインテリアに着目している展覧会だ。

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第1会場ハウス オブ シセイドウ1階の展示では、銀座で始めてアール・デコを建築に取り入れた資生堂竹川町店(1928年新築)に関連する資料、建物に設置されたステンドグラスの窓、モザイクタイルのレリーフなどが展示されている。またアール・デコの精神を取り入れた資生堂のプロダクトやグラフィックも展示されており、資生堂スタイルの中に、アール・デコがどのように浸透してきたのかを見てとることができる。

2階では、同時期以降に中国の上海で制作されたアール・デコの家具や調度品が展示されている。これらは西洋のアール・デコとは異なり、控えめな装飾と機能美の中に、中国の伝統性も見出すことができるものだ。解説のひとつには、16世紀に中国から西洋へ多く輸出された、簡素で幾何学的なデザインの家具が、20世紀フランスでのアール・デコの源流となった説がある、などといった内容が記されており、これをひとつの事実だと仮定すると、上海で再解釈されたアール・デコの展開は非常に興味深い。

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また、一級建築士であり、写真家、紀行作家でもある稲葉なおとが、アール・デコ様式を取り入れた上海の4つのホテルを撮った写真作品も見ることができる。このシリーズ作品は、第2会場である資生堂ギャラリーでも展開され、パリ(フランス)、ロンドン(イギリス)、ルツェルン(スイス)など計11都市での作品が全4回に分けて展示されるそうだ。

アール・デコをテーマとした展覧会はしばしば見ることができるが、このような「都市」という切り口は意外に少なく、違った視点で楽しむことができる貴重な機会だと言えるだろう。

写真(上)-資生堂竹川店(化粧品部) ステンドグラス(20世紀初頭)
写真(下)-和平飯店 上海(中国) 撮影:稲葉なおと

Makoto Hashimoto

Makoto Hashimoto

1981年東京都生まれ。横浜国立大学教育人間科学部マルチメディア文化課程卒業。 ギャラリー勤務を経て、2005年よりフリーのアートプロデューサーとして活動をはじめる。2009〜2012年、東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化財団)にて「<a href="http://www.bh-project.jp/artpoint/">東京アートポイント計画</a>」の立ち上げを担当。都内のまちなかを舞台にした官民恊働型文化事業の推進や、アートプロジェクトの担い手育成に努める。 2012年より再びフリーのアートプロデューサーとして、様々なプロジェクトのプロデュースや企画制作、ツール(ウェブサイト、印刷物等)のディレクションを手がけている。「<a href="http://tarl.jp">Tokyo Art Research Lab</a>」事務局長/コーディネーター。 主な企画に<a href="http://diacity.net/">都市との対話</a>(BankART Studio NYK/2007)、<a href="http://thehouse.exblog.jp/">The House「気配の部屋」</a>(日本ホームズ住宅展示場/2008)、<a href="http://creativeaction.jp/">KOTOBUKIクリエイティブアクション</a>(横浜・寿町エリア/2008~)など。 共著に「キュレーターになる!」(フィルムアート/2009)、「アートプラットフォーム」(美学出版/2010)、「これからのアートマネジメント」(フィルムアート/2011)など。 TABやポータルサイト 「REALTOKYO」「ARTiT」、雑誌「BT/美術手帖」「美術の窓」などでの執筆経験もあり。 展覧会のお知らせや業務依頼はhashimon0413[AT]gmail.comまでお気軽にどうぞ。 <a href="http://www.art-it.asia/u/hashimon/">[ブログ]</a>