中平卓馬 展

この人を知る。中平卓馬の視線を追うことは、彼を知ることでもある。彼は何を見たのか、彼の網膜に焼き付いたものは何だったのか。中平卓馬個展「なぜ、他ならぬ横浜図鑑か!!」がシュウゴアーツで開催された。作家は1938年に東京で生まれ、編集者を経て写真家として活動を開始した。

poster for Takuma Nakahira Exhibition

中平卓馬 展

六本木、乃木坂エリアにある
シュウゴアーツにて
このイベントは終了しました。 - (2007-04-07 - 2007-05-12)

In レビュー by Yukiko Ishii 2007-06-13

その後横浜に居を移してから30年にわたって自宅のある横浜を中心に撮影し続けている。そして、今回の展示では2005年から2007年に撮影した写真のなかから厳選した写真群がプリントとスライドショーで構成された。

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“伝説の人”とも呼ばれる中平卓馬の今回の展示での作品は、身の回りのものを丹念に写しとっている印象を受けた。それでも、中平の作品の前に立ち、自分の眼で実際の事物(人、もの、風景)を見るのとは違う視点で作品として彼の写した写真を「見る」とき、彼が執筆し残した言葉を辿ることで写真に写った事物をより鮮明に理解し、受け止めることができるように思った。

写真家、中平卓馬は1960年代末から70年代初頭にかけて「ブレボケ写真」と呼ばれた作品を多く発表し、森山大道や高梨豊と共に写真のラディカリズムを追求していった。しかし、写真論「なぜ、植物図鑑か」で、かれは自ら築きあげたポエジーやイメージの世界を、個によるさらにいえば人間による世界の歪曲、世界の人間化に過ぎないと全否定し、人間とは関わりのない「事物(もの)そのもの」のあり方を明確にする「植物図鑑」としての写真をめざすと宣言している。彼が世界と対峙する時、彼はそれをあるがままに受け入れようとする。そして、1977年に急性アルコール中毒で倒れ、記憶の大半を失って以降は彼の批評活動は停止し、武器であった言葉の回転を失った。失ったと表現したがそのことは、写真家として評論家として映像と言葉の狭間で闘い続けた中平を“世界の歪曲”から解放したのではないだろうか。

中平は著書『決闘写真論』(朝日新聞社/1977年)のなかでウジェーヌ・アジェの老いた背中に畏怖と敬意をこめて語りかけている。アジェは画家やイラストレーターが絵に使用する資料用写真としてひたすら都市を、そこにある事物を撮り続け“職業的写真師”でありつづけた。

――それはアッジェが、私的なイメージを捨てて、職人として写真を撮り続けたという事実、そのことによって逆にひきずり出されたあらゆる<人間的意味>を超えた世界にわれわれが戸惑いを感じ、そこに事物の敵意ある裸の視線を感じることと密接な関連があるように思える。―― と中平は『決闘写真論』のなかで記述している。

自らがアジェへ向けた写真家とは何かという問いは、自分では見ることのできない自身の背中への問いかけにもなる。そして、彼の歩んだ写真家としての時間は、アジェのレンズにもうつることのなかった他でもない彼が出した答えだ。

今回の展示では、横浜を中心に撮影したという。中平が撮影した植物や滝、横たわる老人や、タヌキの置き物など様々な対象を見るとき、彼の衒いのないまなざしを感じることができる。記憶のなかに沈む言葉とイメージを結び付けること、ただ今あることをそのままにうつし撮ること。その両極を行き来した作者の今の息遣いが感じられた。現実の世界にあって、これほどの誠実さをもって生きているということのシンプルさが色鮮やかに心に残る。

会期中に中平氏が会場に足を運び、その場で選んだ小型のプリントで白い壁面を埋めていくというインスタレーションも行われていた。壁面には撮り続けた写真が2枚組、3枚組といったようにピンで貼られていて、その中で片隅に貼ってあった中平本人が映った写真に目が止まった。そして、その見るものをさすように見つめる視線からシャッターの音が聞こえてきそうな気がした。

――さしあたってぼくは「風景」を凝視し続ける以外に方法はない。だが見続ける涯に火が、ほんとうのぼくの火が燃え上がるだろうか。それはやってみなければわかるまい。―― 『来たるべき言葉のために』(風土社/1970年)より

Yukiko Ishii

Yukiko Ishii. 神奈川県生まれ 日本大学芸術学部美術学科卒 アートとおいしいものが好きです アートで深呼吸 Let's respire together. ≫ 他の記事

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