宮島達男|Art in You

人間は宇宙であると衒いなく表現することの優しさ

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「宮島達男|Art in You」展

関東:その他エリアにある
水戸芸術館現代美術センターにて
このイベントは終了しました。 - (2008-02-16 - 2008-05-11)

In Main Article 2 レビュー by Hana Ikehata 2008-03-21

宮島達男《HOTO》(部分)
ここは懐かしくて優しい。そう感じた。水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催されている「宮島達男|Art in You」にて、新作《HOTO》のスペースに足を踏み入れたときの第一印象である。もっと暗い中にLEDの光が瞬いているような予想を抱きながら部屋に入ったのだが、そこは、柔らかに明るかった。それは遠く優しい思い出の中の光の色だ。幼かった頃、夕食を食べ終わった後、洗濯物をたたむ母の横で兄弟で無心に紙工作をしていた時の薄い光の色に似ている。そんな第一印象だった。

《HOTO》は高さ5.5メートル、直径2.2メートルという巨大な作品だ。鏡のように見る者を映し出す素材で出来たパーツが何段にも重なりあっているようなフォルムをしている。圧倒的な存在感をもつ物体の表面には色とりどりの無数のLEDのカウンターが付けられている。《HOTO》とは「宝塔」であり、その作品はまさに巨大な宝の塔であった。宮島自身の言葉をして「異例な大きさ、過剰な装飾、異常な形で作られる作品」であるとして、「そこまでしなければ伝えられないもの」、「人間一人の『命』のことを表している」という。展示スペースを満たす柔らかい光は頭上はるか高くに位置する、ベースが白く発光するカウンターから発せられている。その光と作品が持つ静謐な存在感に満たされた空間で、私と《HOTO》は向き合った。

宮島達男《HOTO》(部分)《HOTO》で用いられているカウンターのカウントスピードは意外とゆっくりである。カウントダウンするものもあればカウントアップするものもある。「このカウンター、動いているのかな。」そんなことを考え、1つのカウンターを凝視していても数字が変わる瞬間をなかなか目にすることが出来ない。しかしそうしているうちにも視野の片隅にぽつり、またぽつり、と、他のカウンターが変化する様子が見え、あわててそちらに視線を移すこと、しばしば、といったところである。それはまるで、小さかったと思っていた従弟が学校に進学したという話を聞いた時、友達に子供が生まれたとの知らせを受けた時、そして、母の白髪が目立つようになっているのに気付いた時に似ているのではないだろうか。身近な愛する者達の変化にはっとさせられる瞬間。いつまでもこのまま、変わらず共に時間を過ごしていくのだろうという漫然とした考えに、果たしてそうなのだろうかと、穏やかに疑問符を投げかけるカウンターは、ゆっくり、しかし止まることなく数字を刻み続けていた。

そして大小さまざまのLEDカウンターはそれぞれの色を放っている。《HOTO》を構成しているそれぞれの段の持つ個性により、上へ上へと伸びていく絵巻物が出来上がっている。一番目の段は緑芽吹く大地に水、ちょうど目の高さにくる二段目には人間が、そしてその上に重なる三段目には白い雲が流れる青空が広がっており、その上の、青空よりはるか遠く高いところには、星がこぼれんばかりに光っている。これは宇宙なのだ。宇宙といってもロケットに乗った宇宙飛行士だけが行ける場所としての宇宙ではない。足下に踏みしめる大地、吹く風、晴れた大空、そして星。生きている一人の人間と、その人間を取り巻く全ての事象を総合した名称としての宇宙だ。

話す順番が前後するが、この「Art in You」展は、暗闇の中に真っ赤なカウンターが一列に並んだ作品《Death of Time》から始まっている。連綿と続くそのカウンターの列には見る者を釘付けにするパワーがあるのだが、それは赤という色が人間の中にある原初の感情を揺さぶるからであろう。なぜなら赤は血の色であるからだ。人間の体内を流れる血潮の色だ。人間の内なる火であり、マグマの色だ。赤は人間なのである。《Death of Time》から始まったというこの展示のコンテクストの中では、《HOTO》で使われている赤いカウンターもそれ自体が人間であると考えられる。赤い色をしたカウンターは他の色のカウンターと、そしてそれだけではなく、他の赤いカウンターと共に様々な文様を織り成し、調和を示す。宇宙の秩序の中に存在する人間が表現されている。しかしこの作品の人間観はそこで終わってはいない。見る者の姿を映し出すボディーは作品と人間を一体化させるものであり、眼前に広がる作品―宇宙―と自分が一(いつ)であるということを知るのである。それに気付いた時、見る者は永遠の宇宙であるところの自分の存在の大きさに思わず息をのみ、そして深い温かさに包まれるのである。

Hana Ikehata

Hana Ikehata. 物心ついて一番最初に経験した「美術に触れて息が止まるほど感動した瞬間」は、中学生の時、パリのルーブルでサモトラケのニケを見た時。若かりし頃、失恋の奈落の底で見た雪舟の天橋立図は周りの誰の慰め言葉よりも心に清々しい風を吹かせてくれた。東京大学卒業後、数年ほど、しがないサラリーマンをする。美術は趣味と割り切って生きるつもりだったが、自分の持てる時間は有限であるということに気付き、限りある人生をめいいっぱい使って大好きなことで奮闘したいと思い、突如「美術ライター」を志す。「美術と人をつなぐ仕事」なら何でも挑戦してみたい。「いわゆる日本画」「日本美術」「ちょっと古いもの」とカテゴライズされる作品群に好きなものが多いと感じている。 ブログのんびり更新中 ≫ 他の記事

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