パフォーマンス・アートのイベント『小東亜共栄軒08』の東京公演が、GALLERY mestalla、美学校の二会場にて四日間にわたり開催されました。 4月26日から始まった東京公演を皮切りに名古屋、富山を巡回。
日本を始め、東アジア・東南アジア諸国からパフォーマンス・アーティストが総勢11名出演。
参加アーティストの出身国は、日本、中国、韓国、ビルマ、タイ、シンガポール。
『小東亜共栄軒』とは、大東亜共栄圏をもじった造語であり、「軒」の文字には、アーティストと観客との交感、交流の場としての「小さな屋台」となるようにという願いが込められています。参加アーティストらも観客に混じり、客席と舞台との間で意見が交わされる様子はまさに賑やかであたたかい屋台を思わせました。
ビルマ出身のチョーエイ (Chaw Ei Thein) は、ビルマ問題をテーマに、故郷で人権問題をめぐって戦う友人に向けたメッセージを作品に込めました。
薄暗い中、観客の輪の中にそっと置かれたずっしりとした大きな黒い袋包みが鼓動する心臓のように動きだし、くしゃくしゃに丸められた紙くずを吐き出します。客席に投げ込まれた紙くずに手を伸ばし広げてみるとそれらには記憶に新しい、反政府デモに巻き込まれた日本人記者の新聞記事を始め、ビルマに関するもの。
チョーエイは海外に亡命しており、この緊張情勢のため長い間母国に戻っていないということでした。実際、今回の来日もビザの取得申請がなかなか進まず、直前まで出演できるかどうかわからない状況下に。
これに関して、会場では、日本人は海外渡航の際、他のアジア人に比べて優遇されているという話題がでました。日本人は特別であると。
つづいて、シンガポール出身のリー・ウェン (Lee Wen) は、中国系シンガポール人(彼は中国語は話さない)。
チベット問題のため警戒体制がしかれる中国で先日アーティスト・イン・レジデンスを終えた彼は、滞在を通じて感じたことを作品で表現。中国政府の掲げるスローガンが書かれた紙を体に纏い、頭にはチベットの国旗やオリンピックの聖火が描かれたお面が。
リー・ウェンは丸いキャベツを地面に転がしながら、チベット仏教の五体倒地礼のしぐさを繰り返しギャラリーから次の会場となる美学校を目指しました。
たどり着くと、観客とキャベツをキャッチボールしながら紙に書かれたスローガンをひとつずつ静かに燃やしました。炎は攻撃的でもあります。
しかしチベット問題の友好的な和解を期待するリー・ウェンの願いが伺えました。
今回のイベントの共同企画者の一人である荒井真一は、ジェンダーとコンシューマリズムをテーマに、《グローバリゼーション万歳! 田中美津さんに捧ぐ》を熱演。
ジェンダー、フェミニズムの原点のウーマンリブの旗手、田中美津氏の著書を女性が朗読する中、ディズニーとポルノをモチーフに、パステルピンクのペンキの色と独特のにおいが客席に迫りくる、生々しいパフォーマンスをみせました。
ディズニーやポルノといった快楽にうつつを抜かし、お金を払って貴重な時間を潰す―そんなコンシュマリズムにどっぷりと浸った日々の生活。荒井が「viva globalization」と叫ぶ声に朗読の声はかき消され、そしてステージの前の大きな白いキャンバスはピンクに激しく塗られていきます。
快楽の象徴のAV雑誌のグラビア写真をむさぼりつくがままに口に放りこんでいくと、荒井の発する声はまるでラッパの音のように部屋中に響き、やがて苦しさがピークに達すると声は小さく埋もれていきました。
“ピンクは「カワイイ」、ピンクは「女の子」、ピンクは「ポルノ」”
荒井は、田中美津氏らが70年代に声を上げたウーマンリブの問題の真価はまだ十分に認識されていないと語ります。彼女の細い声は、グローバリズムによってピンクに塗り替えられてしまったのだ、と。
今回の『小東亜共栄軒08』のあと、どれくらいの日本人が日常のすぐ傍らにある社会問題に関心を持ち、自己を取り巻く世界に対して意見をもっているだろうかと考えさせられました。めまぐるしく日夜発展を遂げるアジアの交差点にひとりたたされる思いがしました。