art map 12-1月号でもご紹介しているTABライターによるブックレビューを2回に分けてお届けします!
(第2弾はこちらからご覧ください)

著:小山登美夫(アスキー・メディアワークス,2008)
数々の若手アーティストを発掘し、日本発の新しいマーケットを築いてきた小山登美夫が、複雑な現代アートの「価値」について分かりやすく解説している。プライマリーとセカンダリー、需要と供給によって異なる作品の「価格」の話など、広くは知られていない業界の仕組みになるほどと思わされる方は多いはず。トランクひとつで海外のアートフェアに乗り込んだなど、学生時代にアートに目覚めてから、苦労しながらも自らのスタイルでギャラリーを築きあげるまでのエピソード、奈良美智や村上隆といった日本を代表するようになったアーティストとの仕事についても、アートシーンの変遷と共に語られており興味深く読むことができる。タイトルから想像できる通り、商業的側面からのアートの価値について語られつつも、最終的には純粋にアートを思う心がシーンを支えるという信念には共感を覚えずにはいられない。アートに関わる職業に就いてみたい方、アートファンにとって必読の1冊。[橋本]

著:山口裕美(アスキー,2008)
「現代アートのチアリーダー」として、多様なアートプロデュース活動を行う山口裕美が、加藤泉、鴻池朋子、名和晃平、パラモデルなど注目する若手から中堅のアーティスト32組を豊富なビジュアルと共に紹介している、ボリューム感のある1冊。見開き2ページに渡って各アーティストの図版が大きく掲載された構成でページをめくっていくだけでも目に楽しいが、巻末では様々なかたちでそれぞれのアーティストと関わってきた彼女ならでの視点で作品、そしてアーティスト自身の魅力が語られており読みごたえも十分。これらは月刊雑誌『MACPOWER』に連載され好評を得たものをまとめたものだが、新たに天明屋尚へのインタビューや、山口による最先端のアートシーンを総覧した書き下ろしのテキストも収録。日本の現代アートが各国の展覧会やオークションを賑わせる中で、注目すべき本物のアーティストを知ることができる1冊だと言えるでしょう。しかも、全編、日英バイリンガル![橋本]

著:暮沢 剛巳(東京書籍,2008)
副題の「今日から使える入門書」とあるように、ここ数年の日本の現代美術の周辺環境に興味のある人たちへの広い入門書。これを読んだらすぐに作品の理解度が増す!とまでは言えないが、パーティー等での会話には困らないし、少し「通」ぶることができる。押えておきたい人物や美術館が一覧になっていてどのページからでも読めるのも特長。全体が読みやすい文体で書かれており、固有名詞には注釈も多くついているなど、アート業界に親しみのない人でもすぐに理解できるよう工夫されている。装丁面から見ても注釈が文章のすぐ下に記入されている、文字の大きさやページ番号の振り方、フォントの使い分けに細やかな配慮がされているなど手軽に読むサポートをしてくれる。ただ作品理解についての事柄は少なく、「ナナメ読み」より「ドーナツ読み」のようで、コーヒーとドーナツでサクッと読める手ごろな一冊。本文に「地方の美術館にも行ってみたい。」と思わせる良い内容が多かったのに「お勧め美術館」の半分以上が東京の美術館なのは、いただけない。[ユミソン]
著:福住廉(BankART1929, 2008)

著:アラン(光文社,2008)
フランスの哲学者アランによる「諸芸術の体系」の新訳が、「芸術の体系」として出版。「体系」といっても、年表や参考図書、作家や作品のデータベースのようなものは出てこない。そもそも全体に時系列がない。「芸術とはどういうモノやコトなのか」という著者の理論を、ダンス・音楽・彫刻・絵画・建築・散文などのカテゴリーごとに分けて思考を進め、それを「体系」としている。その中でも「雄弁」を芸術として取り扱っているのは、東洋人の私たちには理解しがたいと共に興味深い。決してスラスラと理解できる内容ではないが、文体の読みやすさと理解しやすいように工夫された翻訳は、この本に馴染む人たちの層を大きく広げている。そして著者の論の進め方はとても丁寧で真摯で、章ごとに完結しており、どの章からでも読み始められる容易さがある。これから芸術を目指す人や、鑑賞者として親しんでいる人にもオススメですが、すでに芸術に深く関わっている人も、今更と言わずにトライして欲しい一冊。[ユミソン]
Makoto Hashimoto
Makoto Hashimoto