公開日:2009年8月4日

Zine’s Mate -Tokyo Art Book Fair-

本のお祭り!—日本初・アーティストブックフェア

日本初の大規模アーティストブックフェア『ZINE’ S MATE, TOKYO ART BOOK FAIR』が7月10日から12日まで開催されました。アート本に関わるユトレヒトの江口宏志氏とPAPERBACKのオリバー・ワトソン氏がディレクターをつとめた今回のフェアは、表参道エリアの2つの会場を舞台に展開されました。大盛況のイベントで3日間で8,000人以上もの来場者がありました。

本は買うものから作るものになったとよく聞くけれど、実体はどうなのだろう?と、ぼんやり思いながら会場に到着し、小回りの利く少部数の手づくり本の味わいと、本屋に流通している雑誌の違いを再認識して、高校生の頃に作った手づくりフリーペーパーの淡い記憶と、インターネットが普及していなかった当時、雑誌がボロボロになるまで読んで情報を仕入れていた、本への想いを初心に巻き戻して挑んだフェアでした。

本屋でなかなか手にとれない少部数のアーティストブックや、流通に乗っていない手づくりのzine、作ったアーティストがその場で手売りする贅沢な写真集やマンガ本まで…、たくさん立ち読みしてたくさん買って、友達とも知らない人ともたくさん話して、そしてたくさん売りました!実は私も出品作家としてこっそり参加した、ぎゅっと詰まった3日間を写真多めでレビューします。

■ EYE OF GYRE 会場

もう一つの会場、VACANTと比べるとちょっと落ち着いた雰囲気のEYE OF GYRE。タカイシイギャラリーや、FOIL、ギャラリー360°などのアートギャラリーも出展していました。
もう一つの会場、VACANTと比べるとちょっと落ち着いた雰囲気のEYE OF GYRE。タカイシイギャラリーや、FOIL、ギャラリー360°などのアートギャラリーも出展していました。

hiromiyoshii ブースの前で、アーティストの遠藤一郎くんが「フレーフレー本屋!」と応援して幕を開けたブックフェア。声は聴こえたけれど、混雑しすぎて本人が見えなくて残念。会場のEYE OF GYREはシャネルが1階に入っているオシャレなビルの3階で、フラッとお買い物に来た人も立ち寄りそうなことへの期待と、いつも来ない場所への興奮で落ち着かずにオープニングを終了しました。
hiromiyoshii ブースの前で、アーティストの遠藤一郎くんが「フレーフレー本屋!」と応援して幕を開けたブックフェア。声は聴こえたけれど、混雑しすぎて本人が見えなくて残念。会場のEYE OF GYREはシャネルが1階に入っているオシャレなビルの3階で、フラッとお買い物に来た人も立ち寄りそうなことへの期待と、いつも来ない場所への興奮で落ち着かずにオープニングを終了しました。

DAIWA PRESSのコーナー。高松次郎のレゾネで迷いました。
DAIWA PRESSのコーナー。高松次郎のレゾネで迷いました。

paperbackのコーナー。スイスのアーティストブック出版社Nievesの100冊シリーズを片っ端からチェックしました。
paperbackのコーナー。スイスのアーティストブック出版社Nievesの100冊シリーズを片っ端からチェックしました。

■ VACANT

VACANTの会場へ移動します。どの時間帯に遊びに行ってもすれ違うのが困難なほどの会場でしたが、ブースの前でゆっくり話せた出品者のブースを中心にご報告します。
VACANTの会場へ移動します。どの時間帯に遊びに行ってもすれ違うのが困難なほどの会場でしたが、ブースの前でゆっくり話せた出品者のブースを中心にご報告します。

写真左は宮城県塩釜でbirdo flugasというギャラリースペースを運営している高田彩さん。カナダ人のアーティスト紹介に力を注いでいて、彼らのzineやポストカードなどを販売しています。私もMarc Bellの繊細な線描と土地が擬人化されている絵にやられて作品集を購入しました。やっぱり彼女もたくさんの人と話をすることで、自身の塩釜のギャラリーの告知にもなったり、お隣さんとも仲良くなったりしたそうで、楽しそうに私に話してくれました。私も久しぶりの再会でうれしかったです。

そのお隣さんは、Jon Chandlerというアーティスト。写真を撮っていいかと確認すると「机の上を整頓したほうがいいかな?」とのことでしたが、あえてごちゃごちゃのまま撮影させてもらいました。私が欲しかった彼の描いたマンガは売り切れだったので後日送ってくれるとのこと。もらったDMをよく見たら、人の胴体が魚の切り身のように描かれていてヤバい感じでした。マンガ本を受け取るのが楽しみです。

写真家の山中慎太郎くんはparaperaという自主出版のアーティストブックのためのプラットフォームをオンラインで展開していて、今回も知り合いの作家を集めてたくさんのzineを販売していました。スペースも工夫していて見やすかったです。山中くんの作品は、日常の何気ない一瞬に価値を見出している作品が多くて、藁半紙にホチキス止めの製本が似合う小さい作品集を購入しました。話せなかったけど大山光平さんの写真集も気に入って購入。

paraperaブースの向かいに出展していた川村麻純さんと加藤友美子さんのブースも凝視してきました。川村さんの写真集 minglrのクオリティが高すぎて、その割に値段が安いように感じました。木に色とりどりの紙テープが絡まっている写真がとても美しく、家でものんびり眺めています。

someone’s gardenのブースにはたくさんのアーティストのzineからCDまでストリート系?あり、文学っぽい作風ありで、目移りするほどたくさんの作品があって、ブース前で迷っている人もいました。私もどれにするかなかなか決まらず、山本周さんの作品を購入。


■ 最後に…、私も参加しました!
木版画アーティストのekkoと「かおかたち」という絵本を作ってgaleria de muerteのブースで販売しました。民話や昔話を元にお話をアレンジして私がお話を書き、ekkoに絵を描いてもらって、表紙はシルクスクリーンで印刷した豪華本です。ギリギリに我が家で刷って、家中の椅子と机が原稿でいっぱいに埋め尽くされた様子は、高野文子のマンガ「美しき町」のガリ版刷りみたいに美しかったはず。購入してくださった皆さんありがとうございました。EYE OF GYREに出展していたgaleria de muerteは東上野にあるギャラリー&デスメタルレコードショップです。7月20日まで、ekkoによるmexikkoというメキシコ旅行展示も行っていました。
3日間の店番、相当楽しかったです。デスメタル好きや、メキシコに興味のある人も集まって、普段あまりお話する機会のない若い学生さんともお話しました。普段、制作する方々をサポートすることが多いとうっかり抜けてしまう、「相手に作品が今、伝わってる!」という瞬間がたくさん目の前に出現して、気を引き締めなくては、と再認識しました。

写真のお家はekkoの木版による立体作品。

■ おつかれさまでした。

最後にちょっとだけ思った勝手な事を。普段足繁く見て回っている彫刻や絵画の若い作家の作品集がもっとあったらな、なんて思いました。作品は高かったり保存するには自宅が狭かったりして買えない事もあるけど、資料としてポートフォリオを売って欲しいことはとても多いのです。(稀に無理を言って売ってもらうこともあったりしますが。)

それからデザイン系や写真系のギャラリーやアーティストが多かったように思うので来年は是非、もっと多くのジャンルのアーティストや多くの分野の出版社の方に参加して欲しいなと個人的には思った次第です。それから、「これ、自分で作ったフリーペーパーですよろしく!」という手渡し型zineを頂いたのはたった一人の作家さんのみでした。もっと多いかと思っていたので、残念。迷惑を顧みず、じゃんじゃん配って歩くなんていうのも面白い。忙しかったら邪険にされるかもしれないけど、出展者も見に来ているお客さん全員に買ってもらおうとまでは思っていないし、私はそういう場所で会った作家さんのことを意外と覚えています。

本という形式が多様化し、インターネットで様々な情報を得る時代に、ものの持っている力や手づくりの味わいのある本がどのように広がっていくのか見るのはとても楽しいです。来年のZINE’S MATEも楽しみにしています!

Sayako Mizuta

Sayako Mizuta

1981年東京は大森生まれ、今も在住。武蔵野美術大学大学院を難波田史男とドローイングについての研究で修了。若手アーティスト支援の仕事を経てインディペンデント・キュレーター。ART遊覧(http://www.art-yuran.jp/)でもレビューを掲載。展覧会企画として、あいちトリエンナーレ入選企画「皮膚と地図」(http://skinandmap.blogspot.com/)、共同企画「柔らかな器」(http://yawarakanautsuwa.blogspot.com/)がある。のんびりした猫と同居。 e-mail: mizuta[at]gmail.com