公開日:2009年12月11日

ヨコハマ国際映像祭2009 CREAM – Creativity for Arts and Media –

自宅で様々な映像が観れるのに、出かけても観たい”映像”とは…

「ヨコハマ国際映像祭2009 CREAM - Creativity for Arts and Media -」は、映画祭ではなくて、映像祭。映像って映画よりもさらに言葉の幅が広すぎて、実際は何を見せてるんじゃろ? それに最近はTVやDVDだけでなく、YouTubeやニコニコ動画などで今までは一部の人と一部の場所しか持てなかった映像が時間軸も無視して気軽に家で楽しめちゃう時代なのに、場所と時間を限定したエキシビジョンを開催するなんてなんでだろ? と気になったので、何はともあれ実際に見に行ってきました!

《I'm a minute.》細谷宏昌(東京芸大佐藤研)+うえ田みお(ユーフラテス) 監修・佐藤雅彦

会場は横浜トリエンナーレでも使用された新港ピア、BankART StudioNYKの他、東京藝術大学大学院 映像研究科馬車道校舎、野毛山動物園、黄金町バザール 1の1スタジオと点在された会場で開催されています。なんてもりだくさん!一日ではとっても回りきれなかったので、今回はそのうちの一部、新港ピアをご紹介したいと思います。
メイン会場の新港ピアの入り口には、細谷宏昌(東京芸大佐藤研)+うえ田みお(ユーフラテス) 監修・佐藤雅彦の《I’m a minute.》が。これは、時計の数字の一部が自分の影に変化する作品。一生懸命に動く子どもが微笑ましいです。

移動式プラネタリウム「メガスターII」

その横では、エアドームの中で寝っころがりながら観れる「CREAM×プラネタリウム」。谷川俊太郎の詩を麻生久美子が朗読。音響はサウンドバムの川崎義博。世界各国の夜空を、地図と共に見せてくれるプラネタリウム。少しテンポが速すぎたのとエンターテイメント色が強かったのでテレビのダイジェスト番組を観ている気分にもなりましたが、寝っころがりながら星を観るのは有無を言わせず気持ちいいし、ロマンチックな詩と音楽でリラックスできて恋人と来るにはおススメです。

会場風景

会場内には、階段状の設置台がランダムに並べられていてその上に複数のテレビモニターが配置されています。観たい映像の前に座ってヘッドフォンをつけて鑑賞。階段状の設置台には「異なる世界に近づく」「旅と共に撮る」など様々なタイトルがつけられています。たくさん映像がありすぎて、何を観ていいのか迷ってしまうほど!その周りの壁面には、八谷 和彦《見ることは信じること》や中ザワヒデキ《二九字二九行の動的文字座標型絵画第七番》、「ニコニコ動画」などが投影されています。

八谷 和彦《見ることは信じること》

《見ることは信じること》は、星のように点滅する画面を特殊なボックスで覗くことにより、その星が文字となって日記が読める作品。1995年の作品ですが、今回はツィッターで集めた文章を使ったバージョンだそうです。その他にも時代を反映してか「ニコニコ動画」の展示もありましたが、なぜか映像は省いて文字だけを流していました。ニコニコ動画を作品として展示したコンセプトを明確にするために文字だけにしたのだと思いますが、まるで”子ども向け成人映画”を観ているようなヘンテコ気分になりました。

「ご近所映画クラブ」

そんなこんなで、普通のシアターで短編映画や世界中から選りすぐった映画が観れるようにもなっていたり、参加者が予約して映画を作れるワークショップ「ご近所映画クラブ」があったり。様々な”映像”コンテンツがこの映像祭では提供されているんだなーと思いながら、会場の一番奥のに進むと…

「アクティヴィズム3.0(仮称)」〜リーマン・ショック以後の世界の「新しい反資本主義の表現者」たち〜

あれー。クラウン・アーミーとブラック・ブロックの格好をした人形の間に挟まれているのは、チビコモンズ。その周りにはイルコモンズさんがデモ中に不当に捕まった時の映像や美術批評を小バカにして楽しむ可愛らしい美術批評カルタなどなどが。WEBをうまく活用して自分達の活動をアピールしてきているNPO法人remoですが、この展示はインスタレーション。

Graffiti Research Lab《The L.A.S.E.R. Stencil》

横ではグラフィティ作品を手がけるGraffiti Research Labが様々な自作の武器(のような作品)を使って公共物を侵食していくさまが作品と映像で展示してあります。展示風景はremoとも似ていますが、Graffiti Research Labの作品の注釈には「レーザーステンシルは高出力で、射程が長く、地面から空まで2kmまでの距離を汚染することができる能力を秘めた武器だ。(中略)レーザーステンシルは政治的な意味を含ませて用いられることはほとんどない、なぜならブタ箱に放りこまれちゃうからね。」との文字が。内容はだいぶ違うようです。

伊佐治雄悟《ブリコラージュ》

その周辺のブースも、コジマラジオTVがネットラジオ局を開設していたり、都市のミームプロジェクトでは伊佐治雄悟さんの公開制作《ブリコラージュ》として手持ちの何かを提供するとその場で工作して作品にしてくれたりと、”映像”という言葉にかなり挑戦している会場構成になっています。びっくり。

ART LAB OVA《霊能者ヒロムが見た!あなたの背後霊…》

で、極めつけがART LAB OVA《霊能者ヒロムが見た! あなたの背後霊…》。2年前に見える人から見えるようにしてもらったというヒロムさんが、希望者の霊視をしてくれます。これって、ヒロムさんはみんなの霊を見れるけど、私たちは誰の霊も見れないから、ヒロムさん独り映像祭では? と思いましたが、誰の霊も見たくないので訴えるのはやめて素直に霊視していただきました。

クリエイティブ・コモンズを使ったインタビュー

逆インタビューも受けました。背景画像をCG処理でインタビュー内容に沿った映像と差し替えてYouTubeにアップするようです。そしてポイントは背景画像や映像はクリエイティブ・コモンズのものを使用するというところ。簡単に書くとクリエイティブ・コモンズというのは、著作権を放棄しなくても著作物を共有できるというもの。仕組みは「CODE―インターネットの合法・違法・プライバシー」という著書で知ってる方も多いと思いますが、ローレンス・レッシグが設立した非営利団体が発行するライセンスをウェブ上で使用することで、著作の使用範囲を提示します。映像に関わるなら触れておくべきポイントを、インタビューを観ることを通して提示しているんだなと思いました。

カフェの風景

という感じで新港ピアの会場は映画や実験的な映像と共に、”映像”という言葉に挑戦しているような混沌とした様相も呈していましたが、楽しい会場づくりになっていました。一番突き当たりにはカフェもあるので、大量の映像に疲れたら一息つけます。そして、もう一つの会場BankART StudioNYKは映像祭を正面からとらえる内容になっていて、こちらも見ごたえ十分です。ゆっくり観ると一つの会場に一日以上かかってしまいそうですが、好きなものだけをかいつまんで観る分には、一日あればすべてまわれてしまうかもしれません。

yumisong

ふにゃこふにゃお。現代芸術家、ディレクター、ライター。 自分が育った地域へ影響を返すパフォーマンス《うまれっぱなし!》から活動を開始し、2004年頃からは表現形式をインスタレーションへと変えていく。 インスタレーションとしては、誰にでもどこにでも起こる抽象的な物語として父と自身の記憶を交差させたインスタレーション《It Can’t Happen Here》(2013,ユミソン展,中京大学アートギャラリーC・スクエア,愛知県)や、人々の記憶のズレを追った街中を使ったバスツアー《哲学者の部屋》(2011,中之条ビエンナーレ,群馬県)、思い出をきっかけに物質から立ち現れる「存在」を扱ったお茶会《かみさまをつくる》(2012,信楽アクト,滋賀県)などがある。 企画としては、英国領北アイルランドにて《When The Wind Blows 風が吹くとき》展の共同キュレータ、福島県福島市にて《土湯アラフドアートアニュアル2013》《アラフドアートアニュアル2014》の総合ディレクタ、東海道の宿場町を中心とした《富士の山ビエンナーレ2014》キュレータ、宮城県栗駒市に位置する《風の沢ミュージアム》のディレクタ等を務める。 → <a href="http://yumisong.net">http://yumisong.net</a>