「東京インプログレス——隅田川からの眺め」

川俣正インタビュー 変わりゆく隅田川の景観と東京の公共の場

In Main Article 3 特集記事 by 東京文化発信プロジェクト 2012-03-28

隅田川河川敷に完成した佃テラスからの眺め
現在フランス・パリを拠点に活動する川俣正さんは、80年代から国内外で発表を続けているアーティストです。
これまで街や建築物をつかって、廃材や木を組み合わせて空間を変容させる大型のインスタレーション作品を数多く手掛けて来ました。
また、ヴェネツィア・ビエンナーレやドクメンタといった海外の大型展や、豊田市美術館や東京都現代美術館などの美術館でも作品を発表しています。こうした彼の作品の多くは、プロジェクトとして周辺住民と一緒に作り上げることが多く、また制作のプロセスも作品として見せる「ワークインプログレス」という形態をとっています。

2010年より、東京で取り組むプロジェクト「東京インプログレス」は、隅田川沿いというエリアが舞台です。
川俣さんを始めとするアーティストらと地域の人たちが一緒になってワークショップやトーク、共同制作をするプロジェクトとしてスタートしました。2010年度には荒川区にある都立汐入公園内に「汐入タワー」を、今回2011年度は中央区佃地区にあるパリ広場に「佃テラス」を、周辺住民の皆さんと川俣さんが意見を交換し、一緒につくっていきました。

今回は3月20日に竣工した「佃テラス」について、川俣さんにうかがいます。

川俣正さん

―――2011年度の「東京インプログレス」では、中央区佃地区に変わりゆく東京を眺めるための物見台(ウッドテラス)がつくられ、「佃テラス」と命名されました。どのように始められたのでしょうか。

川俣正(以下、川俣):昨年度の「東京インプログレス」で作業をしているときに、私も震災を経験しました。最初の私のアイデアは、この場所に被災地から持ってきた瓦礫を使いたい、というものでした。しかしあまりにも唐突すぎるからなるべくこの場所にあったものを制作してほしいという景観の問題、地震が来たときに備えた防災についての問題、あるいは子供たちが楽しめるようなものがいいという要望など、住民からさまざまな意見・アイデアが挙がりました。私は住民の人たちと共同で作業をするということで(プロジェクトを提案して)はじめていたので、住民の意見も反映しながらいまのプランにまとめました。
 

―――この場所を選んだのは、なぜでしょうか。

川俣:佃テラスを設置した「パリ広場」は、中央区と私が住むフランス・パリ市の友好関係によって1999年に設けられたエリアです。パリには「東京広場」もあり、交流を図るにはベストです。そしてこの「パリ広場」がある場所は、隅田川がふたつに分かれる突端で、非常に良いと思いました。パリのセーヌ川は、人が歩ける歩道があったり、市民がくつろいだり、と街の中に身近に川が存在しています。しかし、東京の一級河川隅田川は、埋め立てや道路建設、コンクリートの防波堤があったり、水辺の景観があまり生かされておらず、あまり人が親しめる場所にはなっていません。だから隅田川沿いにアートスポットをつくり、隅田川や水辺を見てもらうきっかけをつくりたいと思いました。そして今回、風景を改めて見るための物見台として「佃テラス」をつくり、水や川岸を感じ取ることができたらと考えました。ただ震災の影響もあり、地域住民の方たちとの交渉にはずいぶん時間がかかりました。


―――タワーあるいはテラスという形は、どうやって決められたのでしょうか。また、作品が木造なのは特別な理由がありますか。

川俣:「汐入タワー」をつくった荒川区汐入地区は、川を挟んだ向かいにスカイツリーがあったのでタワーにしました。今回は防災や景観などの観点から、なるべくこの場所に沿うもの、合うようなものと考えました。ここにある木の中からスロープが出て来て、木を取り囲むように作品をつくることにしたのです。木造は、曲げるなどの加工がしやすく、多くの人たちに手伝ってもらうことができます。アトリエでつくったものを持ってくるアーティストとは異なり、私の作品はその場所に毎日少しずつできていくプロセスも見せているので、作品制作に興味を持ってもらったり、参加してもらうこともできます。例えば今回も、近所に住んでいた女性が参加してくれたのですが、彼女は「生まれて初めて電動ドリルをつかった」と言っていましたね。

―――住民の人たちとの交流も大切なのですね。

川俣:重要ですね。出来てしまったら、住民のみなさんが一番身近で見る人たちですから。私が出したテーマとプランではなく、意見を出しながらみんなで一緒に作りましょう、と進めてきました。12月までいろいろな意見をいただいて、ようやく皆さんから了解をもらいました。
 

―――これまでも公共の場で数々の作品を制作されてきました。川俣さんにとって美術は公共(パブリック)なものなのでしょうか。震災があった日本では、これからアートがどうなるとお考えですか。

川俣:美術館のように何を置いてもアートになってしまう場ではなく、パブリックアートが置かれるような公共の場で、作品と人が出会うことがすごく面白い、と私は思っています。何が面白いかというと、全くアートに関係ない人がアートに出会ってしまったとき、そのアートがどんな意味を起こすのかをアート自体が試されるからです。
いま世界から日本を見ると、3.11以降のアートとかパブリックアートは難しいのではないか、不可能なのではないか、という意見が多いです。確かに、耐震や防災に関する法律によってつくれるものが制限されたり、今回も住民の人たちが「もし地震が起きたら」という反応や意見がありました。でも私は「だからこそやってみたい」と思いました。
震災以降のこれから、河川敷や川の近く、水辺の景観がどんどん変わっていくでしょう。ネガティブにもポジティブにも、それはいろんな意味での新しい出会いだと思うのです。「東京インプログレス」も、前回のプロジェクト2010では汐入タワーを、今回のプロジェクト2011では佃テラスを、と違うエリアで違う形態の作品をつくっていきました。こうした作品を一緒につくったり体験することで、多くの人たちにとって公共の(パブリックな)場が変わっていくだろうし、新しい公共の場が見えてくることもあるのではないか。そう私は思いながら、このプロジェクト「東京インプログレス」を進めています。

■ 佃テラス
場所:中央区立石川島公園 パリ広場 (東京都中央区佃2-1-2)

■ 汐入タワー
公開時間:夏期(4~9月)9:00 – 17:00、冬期(10~3月)9:00 – 16:00
※季節によって公開時間が異なりますのでご注意ください
場所:都立汐入公園(東京都荒川区南千住8丁目 水神大橋そば)

二つの作品は、どなたでもご自由にご覧いただけます。
※「汐入タワー」および「佃テラス」は2013年度に解体予定。
http://www.interlocalization.net/tokyoinprogress/

川俣正・東京インプログレス——隅田川からの眺め (2011年度)
主催:東京都、東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化財団)、一般社団法人CIAN
 

インタビュー聞き手: TABlogライター レベッカ・ミルナー
記事構成: 藤田千彩(アートライター)

東京文化発信プロジェクト

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