エスパス ルイ・ヴィトン東京「IN SITU – 1」ソ・ミンジョン インタビュー第1回

常に質問を投げかけ、観客を「罠にはめる」というアートの形

poster for “In Situ - 1”

「IN SITU - 1」

表参道、青山エリアにある
エスパス ルイ・ヴィトン東京にて
このイベントは終了しました。 - (2014-09-13 - 2015-01-04)

In Main Article 1 インタビュー by Taichi Hanafusa 2014-10-08

エスパス ルイ・ヴィトン東京で9月13日から初のオープンアトリエ形式での展覧会「IN SITU – 1」が始まっている。会期中に3回に分けアーティストのソ・ミンジョンに話を聞き、レポートしていく。

■今回はエスパス ルイ・ヴィトン東京をアトリエのように使用して、制作のプロセスを見せる展示になっていますね。

これは私のアイディアではなくて、エスパス ルイ・ヴィトン(以下エスパス)の依頼です。パリ、東京、ミュンヘンの3ヶ所で女性アーティスト3名が公開制作を行いながら展示をするという企画です。9月13日から制作し、作品の完成日は11月28日の予定です。

■エスパスからの依頼があった際に、この発泡スチロールの作品を選択された理由を教えて下さい。

空間にインスピレーションを得て、この作品を選びました。

あいちトリエンナーレ2013では、名古屋市市政資料館の地下留置所をモチーフに、発泡スチロールで組み上げた建物が爆発した瞬間を作り上げた

■あいちトリエンナーレ 2013の前にも、日本で展示をしたことがあるのですか?

まだ版画をやっていた1999年に、横浜美術館のアートギャラリーで展示をしたのが日本での最後の展示です。

■ということは、日本の鑑賞者に一番身近な作品はあいちトリエンナーレでの作品になると思います。あいちトリエンナーレは美術館という閉鎖された空間の中での展示でした。一方で、エスパスはガラス張りの空間です。

閉ざされている空間には、作品だけが存在します。そのため、空間との対話よりは作品の力で見せます。今回は3面ガラス張りで外の風景も見えている。その関係性も見る方にとって関わってくるので、それをテーマにした見せ方を考えました。

■今回展示についての説明が少ないのですが、なぜそうされたのでしょうか?

それは特に私の意志ではありません。ただ、過程を見せているので、変化が前提になっています。作家は、制作していく中で考え方が変わっていくことが自然だと思います。自分のスタジオで制作していても、毎日の気分や経験によってテーマは変化していきます。自分のアトリエのように使って公開制作をしているので、テーマは決められないと思います。

作業備品が置かれている場所のすぐ近くまで寄って鑑賞できる

■それでも何らかの完成イメージはあると思うのですが、何を作られる予定なのですか?

あいちトリエンナーレ 2013の作品と今回の作品では、コンセプトがかなり違います。あいちトリエンナーレ 2013に出展した作品は、”Sum in a Point of Time”というシリーズの作品だったんですが、ストーリー性のある建物や場所性の強い建物をテーマにしていました。本当に存在する建物を実寸して、再現してきました。しかし今回は、実測していません。自分の頭の中にある建物の骨組みだけを作ります。「再現」という今までの作品のプロセスとは異なります。

エスパス ルイ・ヴィトン東京は、3面ガラス張りの空間なので、わざわざ私が外観を再現する必要もありません。エスパスから見える風景には、存在感が感じられません。逆に骨は存在するものの象徴です。だから私は骨組みだけを見せたいと思いました。骨組みの大きさなども圧迫されないことと、最終的な爆発的なビジュアルのことを考えて大きさも決めました。鉄骨の部分と骨組みを支えている足場を作ります。足場も建物が立つ前の足場は一時的なものです。そういう一瞬のものを作ります。

■脆い素材で作られていますが、作られた後どうやって保存されるんですか?

展覧会の後、捨てています。残るのは写真だけです。

■日本では例えばアニメーションなどいわゆるフラットな表現が流行していますが、それに対立するような意識はあるんですか?

それはないです。今回もう一つ旧作の死んだ鳥を使った陶芸作品を一緒に展示する予定です。その結びつきについては、考えています。陶芸の鳥の中に骨が残っていたりするんです。それにつながるイメージを持っています。
磁器を作る時に使うポーセリンを死んだ鳥にコーティングして、陶芸の釜で焼きます。ある種の葬式という感覚です。すると、中の鳥は焼かれて磁器だけが残ります。そして、骨壷のようなものが出来上がります。釜の中で何かが喪失していると同時に何か新しいものが生まれるという作品です。

■そうした存在論的なテーマを扱う作品を作られていますが、こうした作品を制作されるようになった背景について教えて下さい。

テーマというよりも二項対立しているものに興味がありました。何かが消えて、生まれるとか。explosion(爆発)のように見えるけれどもimplosion(内破)のようにも見えるようなものです。私たちは、日常の中で二項対立の考え方に押し込まれていると思います。なぜならコントロールしやすいからです。本当はそれだけではないはずで、崩れる瞬間、境界線が崩れる場所を作ることに興味があります。その瞬間を作るとみんな戸惑ってしまうんです。

■すごく政治的な面がある一方で、抽象的なこともテーマにされていますね。

韓国でも売春宿を再現しましたが、展覧会場では売春宿ということを表には出しませんでした。政治的、社会的なテーマを表に出しません。また、そういったテーマを作品のテーマとしても扱っていません。それは答えが出やすいからです。社会的な何かなのかなと思って作品の中に入ると抽象的なものがあって迷い始める。それは答えが出ない質問をされているような感じです。それを逆に利用しています。

■ミンジョンさんの作品に入っているときには、巨大な建築物が爆発する一瞬を捉えた劇的な表現でありながら、宙吊りにされている感じにされますね。

それは正しい感覚だと思います。一瞬社会性の強いものに見えて、中に入ると自然現象のようにも見えます。氷山が崩れ落ちているようなものにも見えますね。それが心の中の変化です。もしかしたら社会現象もある種の自然現象に近いかもしれない。

■通常の作品を見る経験とは違う経験ができるし、違う心構えで来たほうがいいですね。

この作品は一度組み上げて破壊するわけですが、「あの作家は壊すために作っているのか」、「ゼロに向かってあんなに細密に再現して何のためなんだろう」、そう思わせるのがコンセプトかもしれないですね。

■観客の方にコメントをいただきたいのですが、どういうところを見てほしいと思いますか?

みなさん展覧会に来るときには、出来上がった作品を見るために来ます。簡単に言えば過去です。でもここは現在です。しかも、完成作品も、いずれ壊されて、なくなる作品です。常にマイナスに向かい、保存するものではありません。展示空間に入っていただいいて、その時間に何が起こっているのか、それをただ単に見ればいいと思います。終わったものを見るのではなくて。

■今回の展示では、リピーターが多いという話を聞きました。そもそもすごく説明が少ないので、来ようとういう気になるまでが大変な展示ですよね。一回来た人も結果が欲しくなるので、安心するために何度も来ているんでしょうね。それでも不安な状況が続くのかもしれないですね。それでいいと思います。

■観客にやさしくないですね。

それもアートのあり方のひとつだと思います。常に質問を投げかける。コンセプトを考えるときもいつもどういう罠を仕掛けるかを考えているので優しくないと思います。どういう罠にはめようかなという。そういう罠に政治や社会を盛り込み、段階ごとに考えています。
エスパス ルイ・ヴィトン東京の壁に貼ってある写真を見て、「東日本大震災ですか?」という質問される方も多いですが、違います、と答えています。

■あいちトリエンナーレ 2013の時も、裏切られたと思いました。作品の中に入るとまさに原発事故の瞬間のような風景だと思う。また、芸術監督の五十嵐太郎さんは明らかに震災をテーマにしたキュレーションをされていた。ところが、キャプションを見ると全然違う。

よかったです。全部答えをもらってうちに帰ったらその作品について考えないでしょう。うちに帰って考える。それなんです。私は勝った!って気分になります。罠にはまりましたね。

ソ・ミンジョン (Min-Jeong Seo)
1972年、韓国釜山生まれ。現在はベルリンを拠点に創作活動を行っている。 版画や陶芸、ファインアートの分野における豊富な知識を活かし、多様な素材を用いて、ドローイング、映像、写真や彫刻から立体作品、インスタレーションにいたる様々な媒体の作品制作している。作家の母国である韓国に加え、日本、ドイツでの学びや経験を通して多文化的で普遍的な視点を併せ持つ。
あいちトリエンナーレ2013では、ポリスチレン製の巨大なインスタレーション作品《Sum in a Point of Time-III (ある時点の総体 III)》を発表。2010年、ドイツのベルヴューザール(Bellevue-Saal / ヴィースバーデン)にて発表された《Summe im Augenblick》の流れに位置づけられる本作は、吹き飛ばされた廃墟のような白い建物が、シンプルながらもドラマティックかつ詩的な雰囲気を醸し出し、作家の創作活動において最も重要なテーマである、時(瞬間、過去、あるいは未来)の概念 や、生の儚さと不確定性を詩的に表現した。

インタビューは次回に続きます。

エスパス ルイ・ヴィトン東京 ウェブサイト

Taichi Hanafusa

Taichi Hanafusa. 美術批評、キュレーター。1983年岡山県生まれ、慶応義塾大学総合政策学部卒業、東京大学大学院(文化資源学)修了。牛窓・亜細亜藝術交流祭・総合ディレクター、S-HOUSEミュージアム・アートディレクター。その他、108回の連続展示企画「失敗工房」、ネット番組「hanapusaTV」、飯盛希との批評家ユニット「東京不道徳批評」など、従来の美術批評家の枠にとどまらない多様な活動を展開。個人ウェブサイト:hanapusa.com ≫ 他の記事

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