【SWITCH × TAB特別企画】ヒリヒリするアート:DIALOGUE 卯城竜太(Chim↑Pom)× 窪田研二(キュレーター) Don’t Follow The Wind

SWITCH誌面を特別掲載! 福島の帰還困難区域ではじまった「みることのできない展覧会」

poster for Don’t Follow the Wind ― Non-Visitor Center

「Don’t Follow the Wind ― Non-Visitor Center 展」

表参道、青山エリアにある
ワタリウム美術館にて
このイベントは終了しました。 - (2015-09-19 - 2015-11-03)

In 特集記事 by SWITCH-TAB 2015-09-29

Don’t Follow The Wind

東日本大震災から4年が経った2015年3月11日にスタートした同展は、東京電力福島第一原子力発電所の帰還困難区域内にアイ・ウェイウェイ、宮永愛子、竹内公太、グランギニョル未来(椹木野衣、飴屋法水、赤城修司、山川冬樹)、Chim↑Pomら国内外12組のアーティストが作品を設置。同区域内にある民家を借りるかたちで展覧会を行っている。キュレーターは窪田研二を含めた3組。同展は帰還困難区域の封鎖が解除された時に初めて見ることができるというもの。
公式ウェブサイトでは真っ白な画面から音声のみが発信されており、「見ることができないという現実は強い力を持っている。帰還困難区域の封鎖がいつ解除されるかは明らかではなく、3年後になるか10年後になるかわからない。その期間は現在を生きる私たちの生涯を越えてまたがり、私たちにアートと時間の関係性、時間と環境の関係性を再び問いかける」とメッセージを送っている。

展覧会「DFW」のロゴが印刷された旗

——「Don’t Follow the Wind」展(以下DFW)の発端を教えてください。Chim↑Pomは3.11後、その年の5月には岡本太郎の壁画に原発の風景を添えるゲリラ行為や、個展「REAL TIMES」で反応しましたね。これとの関係性も含め、震災4年後の今年にDFWをスタートさせた背景とはどんなものですか?
卯城:震災直後の自分たちの動きは、あの瞬間にできることとして確信を持ってやりました。とにかく福島第一原発の近くまで自力で行って、その風景をもとに制作したという点ではジャーナリスト的な動きでもあったと思う。でも1年経ち、2年経ち、問題は解決されないまま世間の関心が薄らいできている今効果的なことは、ジャーナリスティックなことよりももっとアブストラクトなことな気がしています。

——そこから、原発付近の帰還困難区域に作品群を展示する「みに行くことができない展覧会」の発想が生まれた?
卯城:はい。予想できないほど時間がかかる問題になった今、瞬発的ではなく、立場の異なる多くの人がずっと関わり続けられる何かが要ると思った。封鎖解除の時期も見えないなか、家を追われた人たちが、帰るか帰らないかは別としていつか「ふるさと」ってものを取り戻せるまでの「時間」を、何らかの形で共有できないかと考えました。

——今回、窪田さんがDFWにおいてキュレーターのひとりとしての役割を引き受けたのは、どんな理由からでしょう。
窪田:まず何より、人々の想像力で成立する美術展であるのが、チャレンジングだと思いました。また、展覧会なのに終了日も決まっていないから、まさに関わり続けることになる。僕自身、3.11以降は自分なりに震災に関わってきましたが、どうしても一過性になってしまう活動が多く、いま卯城君が話したような想いにも共感できました。今回の「観客」にもそういうことを提示できたらと思った。

——それはChim↑Pomがこれまでも重視してきた「当事者性」にも直結しますか?
卯城:はい。当然、問題との距離や事情で生じる当事者性のギャップはどんなことにも必ずある。その上で、社会的事象と自分たちの関係を考えたい気持ちが常にあります。作家12組も、キュレーター陣(窪田研二、Jason Waite、アーティストでもある Eva and Franco Mattes)も、日本人だけにせず国際性を求めたのは同じ理由です。

——当事者性の重視は《ヒロシマの空をピカッとさせる》のような作品とも通じる部分でしょうか? あのときは賛否が吹き荒れた一方、議論もなされましたね。
卯城:特に結びつけて考えてはいませんが、例えばあのときの批判に、僕らが被爆者ではない「のに」原爆問題を扱ったことがありました。一方で僕らにとっては、被爆者ではない「けど」、自分ごとだと思う、その距離感への想いがありました。その点はどこかで今回ともつながっているかもしれません。

会場提供者によるドローイング

——2011年、Chim↑Pomは原発事故現場が見える高台での《REAL TIMES》撮影後、着ていた防護服も使って無人となった耕作地にカカシを立て、《Without Say Good Bye》という作品にしました。話を聞いていて、これは後のDFWにつながっているとも思いました。
卯城:たしかに、かなり直結しています。

——ただ「そっとしておく優しさ」がときに風化や断絶にもなり得る一方、それを繋ぎ直して共有しようという意思が「余計な介入」と批判されることもあります。これは事例ごとの難しさも孕みますね。
卯城:たとえば今、僕らはこうして東京の大きな喫茶店にいるけど、ここにいる300人近くのお客さんのなかで、この瞬間に福島の話をしてる人ってどれくらいいるのかな?ってのもありますよね。けど避難を余儀なくされた人たちは違う。そうした内と外の温度差があり過ぎて始まる問題はもう福島でも生じていて、これが確立しちゃう前にいろんな距離感で世界の人々がその人なりのリアルなリアリティで関わることが必要だと思いました。

——窪田さんはこれまで、赤瀬川原平や中村政人による展覧会や、グラフィティライターたちを美術館に招いた「X-Color]展(水戸芸術館)を企画するなど、やはり表現を通した社会への積極的介入には強い関心があるのかなと感じます。
窪田:今回のことは、アートの世界でしばしば行われる「与えられた制限の中で行う知的ゲーム」のようなものではありません。不幸にも起きてしまった制御不能の現実に、多くの人が反応し、関わり続ける形を探るものだと考えています。

——帰還困難区域内にある4カ所の「会場」は、元住民に主旨を説明し、少しずつ協力者を得て実現したと聞いています。
卯城:これについては、かつてアーティストユニットOOOOのリーダーだった緑川雄太郎君が頑張ってくれています。彼は福島出身で、震災後に地元に戻ったんですね。帰還困難区域の元住民の方々は今それぞれ住む場所も違い、もうあまり関わりたくないと思う方も当然いる。でもその中にも、何ていうか、突き抜けた人たちに出会えたことが突破口になりました。彼らにとっても、今の状況に自分たちが「どれだけ関われるか」が切実なのだと感じました。そういうことも含めて、DFWは個人のつながりで実現した有機的なものになっています。
窪田:各アーティストについては、実際に設置場所を訪れた人もいれば、その選択はとらずにこのコンセプトを自国の状況などと照らしながら作品を構想した人などもいて、さまざまです。そのかかわり方の多様さも重要だと思っています。
卯城:少し話が逸れるけど、僕の中では今のアートの世界に対するある種のフラストレーションへの反応という一面もありました。いま、コンセプチュアルな表現の純度をひたすら追求するような作家と、ポリティカルな要素を扱う作家たちの間にも、すごく分断や距離を感じます。だから今回、双方の流れを両軸にして進むようなものができたらとも思っていて。

——その点では、北京からの艾未未(アイ・ウェイウェイ)の参加も興味深いです。近年は政治的理由から国外に「動くことができない」制限を受けながらも活動してきた彼と、「みに行くことができない展覧会」の関係性も示唆的ですね。
卯城:参加してほしい作家として、ごく早期に彼の名は挙がりました。彼のように政治的活動とコンセプチュアルな作品制作を実現している人はいま世界を見渡してもあまりいない。ヨゼフ・ボイスみたいな系統で考えこの企画にマストだと思いました。

——展覧会の終了日は決まっていないわけですが、誰もが観に行ける日が実現する、というのがひとつのゴールですか?
窪田:僕はそうは考えていません。今年の3.11から展示は「オープン」しているわけで、すでに想像力を使って「観客」になっている人々がいると思っています。
卯城:僕もほぼ同じ考えです。個人的には、帰還困難区域の解除がどんな状況で行われるか次第で、それがポジティブなことかどうかも変わり得るとも思っていて。ただ、展覧会である以上DFWはすでに帰還困難区域から外の世界にむけて何かを発信し始めています。だからその開催を知った人たちはすでに観客となり得る。発信されている何かを「受信」できるか、それが僕たちに問われていると思います。

「その人が見た未来は僕らの現在」2015 © Fuyuki Yamakawa

——今後の展開予定を教えてください。
卯城:秋に東京のワタリウム美術館で、サテライト展を開催します。これはDFWの「ビジターセンター」という位置づけ。あわせて図録も製作中で、最初は日本語版ですが、海外でのサテライト展も計画しているので、そこで英語版なども出していきたいと話しています。

——Chim↑Pomは著書『芸術実行犯』で、想像力の広がりと、ときにそれに併走しきれない物質や身体のもどかしさ、にも言及していました。それは必ずしも否定的なニュアンスではないと感じましたが、今回それに関しては思うことは?
卯城:いま観客は展覧会場に物理的には入れません。でもモノとしての作品はそこにあって、人々がそれを思い浮かべるとき、それが置いてある場所、土地についても必ず想像の対象になると思う。それも季節や時間とともに、つまり環境が変わっていく中で、です。そこはかなり重要だと思っていて、究極のサイト/タイムスペシフィックな展示だとも考えています。だから作品にもよりますが、ある瞬間を切り取った作品イメージだけでこの展覧会を語るのは不可能だと思っています。
窪田:福島の帰還困難区域というのは自然災害とそれに伴う原発事故をきっかけに生まれたものですが、突き詰めれば物質主義、大量消費の問題にも関わってくる。そこに、美術作品が物質/非物質の両面を考えさせる形でインストールされることの意味もあると感じています。
卯城:アートの世界も、モノとしての作品が美術館で生命をつなぐ、ということばかりではないでしょう。もちろんモノとしての作品が持つエネルギーも強いけれど、オーディエンスの想像力でも「作品」の可能性はまだ広がり得ると思う。

Eva and Franco Mattes “Plan C” - 2010  Plastic interversion,Chernobyl,Manchester  Photo by Tod Seelie

——「いつかみに行きたい」ではなく、いま想像力で「みる」こと、それを個々のやり方で持続することが期待される?
卯城:さっきも少し話したけど、いろんな距離や主義主張の違いで生じる個々人間のギャップというのは、僕らがコントロールできるものではないし、しても仕方ないと思います。誤解や齟齬も必然的に生まれてくる。議論が続いていけばいい。先日、イギリスでもDFWを話題にしてくれた新聞記者のブログがあって、おおまかにいうと「彼らのやってることはジェスチャーに過ぎない」というものでした。そしたらたった一日でコメントが100件以上ついてて「なに言ってんだ?」という怒りの意見から「その通り!」という賛成意見まで色々だったのが興味深かった。あの真っ白なウェブサイト(DFWの現ウェブサイトは何も表示されず、音声によるメッセージのみが聞ける)から、いろんなレスポンスが生まれてきている。

——タイトルの「Don’t Follow the Wind」には、原発事故発生当時に発せられた「風の吹く方向に逃げてはだめだ」との言葉がヒントなのと同時に、「風化」「風評」を安易に受け入れない態度にもつながる、と窪田さんは言っていましたね。
窪田:参加アーティストたちは展覧会のコンセプトを受け止めて、次の世代の「観客」をも想定した創作をしてくれたと感じます。その意味で、未来にもつながるものになればと願っています。

■プロフィール
卯城竜太
Chim↑Pomリーダー。Chim↑Pomは2005年結成の6人組アーティスト集団。時代のリアルに反射神経で反応し、現代社会に全力で介入した強い社会的メッセージを持つ作品を次々と発表している。

窪田研二
1965年生まれ。キュレーター/筑波大学芸術系准教授。上野の森美術館、水戸芸術館現代美術センター学芸員を経て現在に至る。「六本木クロッシング」森美術館(2010年)ほか、多くの展覧会を企画。

■サテライト展示情報
「Don’t Follow the Wind」のサテライト展示を、ワタリウム美術館にて開催
「Don’t Follow the WindーNon-Visitor Center」展
2015年9月19日(土) 〜 10月18日(日)
主催:DFW実行委員会 / ワタリウム美術館
会場:ワタリウム美術館
休館日:月曜日(9/21、10/12は開館) 開館時間:11時 〜 19時(毎週水曜日は21時まで延長)
入館料:大人 1000円 / 学生(25歳以下) 800円 / 小・中学生 500円 / 70歳以上の方 700円
ペア券:大人 2人 1600円 / 学生 2人 1200円

取材・構成:内田伸一

SWITCH-TAB

SWITCH-TAB. 2015年8月20日発売のカルチャー誌「SWITCH9月号」はモダンアートからメディアアートまで、現代美術の最前線を大特集。10月末に森美術館で「五百羅漢図展」を控える村上隆や、東京都現代美術館で展示中の会田家(会田誠、岡田裕子、会田寅次郎)による檄文「文部科学省に物申す」の作品とその全文掲載、福島第一原発付近の帰還困難区域で展示中の「Don’t Follow the Wind」のChim↑Pomなど、今をときめくアーティストが集結! SWITCHがおくる『2015年秋に向けた誌上展覧会』、TABlogでも限定公開中です! http://www.switch-store.net/SHOP/SW3309.html ≫ 他の記事

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