「わたしたちが、いま文化庁長官と話してみたいこと」メディア芸術祭xDOMMUNEトークレポート

「青柳さん」とクリエイター4人が考える、メディア芸術のいまとこれから

poster for The 19th Japan Media Arts Festival

「第19回 文化庁メディア芸術祭」

六本木、乃木坂エリアにある
国立新美術館にて
このイベントは終了しました。 - (2016-02-03 - 2016-02-14)

poster for Yebisu International Festival for Art & Alternative Visions 2016 ― Garden in Movement

「第8回恵比寿映像祭 動いている庭」

恵比寿、代官山エリアにある
恵比寿ガーデンプレイスにて
このイベントは終了しました。 - (2016-02-11 - 2016-02-20)

In 特集記事 by sayo_tomita 2016-02-27


今年で第19回を迎えた文化庁メディア芸術祭の関連企画として、文化庁長官である青柳正規さんと4名のクリエイターによるトーク「わたしたちが、いま文化庁長官と話してみたいこと」がDOMMUNEで開催・中継配信された。同芸術祭の受賞クリエイターによる、メディア芸術や表現活動をめぐるリアルなトークのもようをレポートする。

美術史学を専門とする青柳正規さんは、独立行政法人国立美術館理事長、国立西洋美術館館長を経て、2013年に文化庁長官に就任した。昨年も「ぼくたちが生き抜くためにいま長官に聞いてみたいこと」をテーマとするトークに参加。自身の専門とする西洋美術史を軸に現代の芸術・文化のあり方やメディア芸術作品の面白さに切り込み、息子ほども年の離れたクリエイターらと軽妙なトークを展開した。DOMMUNEの中継やTwitterのタイムライン越しに、その人柄のファンになった人もいるのではないだろうか。
各クリエイターのユニークな活動や着想とともに、底のない引き出しからコメントを返す青柳長官の魅力もあわせてお届けしたい。(なお、青柳長官からトーク開始前に「『長官』と呼ばないでほしい。『青柳さん』で」とリクエストがあり、以下では当日の呼び方と同じ『青柳さん』と表記する。)

ドリタ(クリエイティブディレクター/ウェブディレクター/デザイナー/第18回 エンターテイメント部門新人賞、平成27年度メディア芸術クリエイター育成支援事業採択)

ウェブメディアでのクリエイティブディレクターとしても活動するドリタさんは、最新作であり「虫の足音を爆音で聴く」ために佐々木有美さんと共に制作中の《Bug’s Beat》を紹介。昨年度のメディア芸術祭新人賞受賞後、受賞者または審査委員会推薦作品となったクリエイターのみが対象となる「メディア芸術クリエイター育成支援事業」への応募を決めたと言う。進行中の複数の作品から本作を選び無事採択され、制作資金、アドバイザー2名からの助言などを得て恵比寿映像祭での発表にこぎつけた。
ドリタさん「普段は聞こえないはずの足音を聞きながら目の前で虫の動く姿を見ることで、生態がよりリアルに見えてくる。視覚と聴覚が拡張する体験をしてほしい」
青柳さん「五感が鈍くなりがちな現代ならではの作品。これを見た後は、音がなくても虫がどういう動きをするかわかるようになるでしょう?」
都市化が進み幼少の頃にザリガニ捕りなど自然の中で動植物と遊んだ経験がある人が相対的に少なくなる中、作品が観客の感覚を刺激することでイマジネーションが喚起されることの意味は大きそうだ。

吉開菜央(よしがい・なお、ダンサー/映像作家/第19回エンターテインメント部門新人賞)

2014年に制作した初めての中編映画《ほったまるびより》で、今回エンターテインメント部門新人賞を受賞。2015年は、パフォーマンスやサウンド、香りなどを加えた「自家製4DX」と呼ぶ上映形式を各地で行っていた。

身体の感覚を伝えるために、同性(女性)のみを被写体としてきたという吉開さんに対し、青柳さんは人間の身体美の基準の移り変わりを解説する。
「ギリシャ・ローマ時代は、美しい身体と言えば男性だった。当時の彫刻作品などに筋肉質な男性ばかりが残されているのもそのため。プラクシテレスの頃には15〜6歳の男性の中性性が最も美しいとされ、その後ようやく女性の美しさが認められるようになった。
《ほったまるびより》に出てくる女性は、親しみがもてる可愛らしさがあるが、それだけではなく異性から見ると恐さもある。長い黒髪に象徴される、女性の業、性(さが)といったものに加えて、少しけれん味も感じられる作品ですね」
体育大学からアートの世界に進んだ経歴から、過去にはより身体にクローズアップした作品《みづくろい》や《レオターズ!!レオターズ!!》のような身体の動きそのものを見せるパフォーマンスも制作・出演している。
青柳さん「これは出演してる人が一番楽しそうだね。群舞プラスαの要素を入れると見る人ももっと楽しめるかもしれない。例えば、3年前に三宅一生さんが青森大学の男子新体操部の公演をプロデュースしていたけれど、一人ひとりの身体の動きの面白さに加えて、大きな布を使った面的な動きの要素があった。」

鋤柄真希子(すきから・まきこ、アニメーション作家/第17回アニメーション部門新人賞、平成27年度メディア芸術クリエイター育成支援事業採択)

《WHILE THE CROW WEEPS ―カラスの涙―》は手描きの線画や切り絵をレイヤーにして少しずつずらして撮影された約8分の短編アニメーション作品。制作は松村康平さんと2人で行い、1年半ほどかかったという。

鋤柄さん「CGで同じような効果が出そうなときは実験としてやってみるが、カメラと絵の間に空気がある実写の方が、予期せぬものが映ったりして良いことが多い。カラスをモチーフにしたのは、震災や親しい人の死に際しての弔い、つまり記憶を引き継ぐ行為に関心を持ったのがきっかけ。動物は同じ行為をするのか、どう記憶を引き継ぐのかと調べたら、カラスは仲間の死がいの上で旋回して飛ぶことがわかった。」
青柳さん「今の人はカラスを嫌いすぎてる。けがをしたカラスを大学で世話していたことがあるが、コミュニケーションができる動物。それに近くでみると玉虫色に光って、いろんな色を含んですごくきれい。かわいがったほうが共生できるのでは」

安藤僚子(あんどう・りょうこ、空間デザイナー/第17回エンターテインメント部門優秀賞)

このトークのモデレーターとして各クリエイターや青柳さんのコメントを引き出した安藤さんの受賞作品《スポーツタイムマシン》は犬飼博士さんとの共作で、24mのコースに6台のカメラが設置され、過去に走ったデータと競走できるというもの。過去の自分とも対戦できる。2年前に山口市の商店街の空き店舗スペースを利用して開催して以来、6都市に巡回している。

安藤さん「地元のゆるキャラや、ばんえい競馬の競走馬が走ってくれたりもしました。あとは、学校帰りの女子高生のグループが馬跳びで参加したりと、住民の『今日の自分の記録』として機能する側面もある。巡回してきたデータは7TBぐらいあるのですが、タイムマシンとしてデータを保存して未来に届けることもやっていきたい」
今年再び山口市に戻り、YCAMのスポーツハッカソン内で実施された。2年前は一人で走れなかった小さい子が一人で走り、2年前の家族と対決するという成長の記録にもなった。展示場所や時期によって、安藤さん自身の中でも作品の解釈が変わってきたという。

助成や支援とマーケット-アーティストとして食べていく

ドリタさんと同じくクリエイター育成支援事業に採択された、アニメーション作家の鋤柄さん。「もともと時間をかけて制作するタイプなので(今年度採択されてから年度末までの)7ヶ月ではとても完成できず、プロトタイプなど成果物を出す必要はあるが作品自体は必ずしも完成しなくてもいいところがすごくいい制度だと思った」
鋤柄さんは、アーティストとして生きて行く過程で葛藤があったことも明かす。「短編アニメーション作品は日本ではマーケットがないので、アクセサリーを制作して販売している。大衆芸術の世界で作ったものが売れることが驚きだった。最初はアクセサリーを作っていることは隠していたが、売れるものを作れるなら、と思うようになった。結果として上映に来る人の層が広がったり、いいこともある」
青柳さん「多くのアーティストは、売れない時代を乗り越えて作品が売れるようになると、売れそうなものばかり作るようになる。つまり今の話でいうアクセサリーばかり作るようになる人が多い。逆に成功した例として、村上隆がいる。彼は日本でアートの市場が小さいことに早くから気づいて、海外に出ていった。100人単位で人を雇って制作するスタイルが国内では工場などと揶揄されるが、海外では当たり前。非常に戦略的に活動している」

肩書き-わたしたちはメディアアーティストなのか?

ドリタさん「肩書きはいろいろあるが、自分がやりたいことと、やったことがないことをやるようにしている。(メディア芸術祭で)受賞してクリエイター育成支援事業に応募したこともその一つ。他にも、海外で作品を売ると日本よりも高く売れたりメディアに取り上げられたり、新しいことをやると必ず発見や返ってくるものがある」
鋤柄さん「逆に小さくやっていく方法もあると感じる。アニメ単体とはまた違う表現ができるので人形劇とコラボしているが、人形劇は地元の人が見に来るような上演の積み重ねで食べていける。」
青柳さん「僕は文化庁長官と呼ばれるたびにむなしいんだよね、青柳正規という自分である必要がないみたいで。自分がやってきた研究などをわかった上で呼んでもらえるならいいんだけど」
安藤さんは、「ある程度戦略的に肩書きを持っておいたほうがいい。アーティストと名乗ることに最初は違和感があったが、自分の興味は一貫しているし、どんな肩書きでもやることは同じ、とある時覚悟した。青柳さんも肩書きにとらわれずに!」と青柳さんに力強いエールを送る一幕も。

メディア芸術は伝統文化になり得るか?

これまで紹介してきたように、文化庁ではメディア芸術への支援を行なっている。しかし予算やスタッフの配分で言えば伝統文化に大半を振り分けており、現代的な芸術へ割かれるのは一部となっている。(『文化立国論-日本のソフトパワーの底力』 (ちくま新書)に詳しい)
青柳さん「日本の文化は循環文化で、20年毎の式年遷宮など解体修理しないと本来の良さが保てない。ローマのパンテオンのように一度建てたら永劫に残るものとは違う。今年度のメディア芸術祭は4,400件超の作品応募があり、海外でもプレステージが高まっている。これは面での広がりと言えるが、これからは作品をストックすることで、時間軸による『幹』を成り立たせたい。ハードウェアもあわせて保存が必要といった特有の問題があるため、メディア芸術作品のコレクションは世界でもまだほとんどない。来年度メディア芸術祭が20回の節目を迎えることもあり、世界的なストックを作っていきたいと思っている。みんなで声を上げましょう。」

また、メディア芸術を専門とする批評の必要性についても、クリエイターから「評論家やキュレーターが少ない。広い視野で見て、作品を理解した上で批評してくれる存在が必要」という声が上がった。
青柳さん「世界に通用する批評ができる日本人はほとんどいなかった。そのうちの一人は岡本太郎。どういう言葉を使うとインパクトがあるか、よく理解していた。誰も批評をしないので、制作と2足のわらじでやっていた。
頭が良くて、文章が書けて、説得力があって。そんなアーティストがいたら、おまえ批評やれってどんどん言うといいよ。(会場笑)仲間内が一番、誰が何をやるべきかわかってるんだから」

それぞれの制作だけでなく、メディア芸術界の展望にも目を向けた一同。次の目標として何を考えているのだろう。
吉開さん「中編映画をまた撮りたい。人と会い、チャンスの種を蒔き続けて大きな波を逃さずに乗る!」
安藤さん「明確にこれをやりたいというよりも、目の前にきた波は絶対に逃さないと決めています。どんな波でも楽しみだと思えるので」
青柳さん「僕は大学の矮小化に警鐘を鳴らす本を書きたいです。テーマはもう決まっていて、「知の共和国と大学」。知の共和国というのは、研究者同士の国境を越えたネットワーク。専門家同士、お互いの興味や動向を知って交流することが知の安全保障になる。それを広く知ってほしい」

奇しくもこの日、会場であり配信元であるDOMMUNEからは「DOMMUNE・光」というメディア芸術史に類を見ないアーカイブを含むプロジェクトが発表された。これも今の時代やその表現を映像で伝える一つの大きなアーカイブと言えるだろう。
メディア芸術がこの国で伝統となるか否かは、今この時代を生きるわたしたちの行動にかかっている。表現活動を行うクリエイターも、それを見つめるまたは支援する側も、国や組織や個人、それぞれのレベルでの行動が時代を作っていくということを改めて意識させられた。クリエイターがもっと新しい世界を見せてくれるように、また彼らの活動を支援し後世に残していくために、枠組みを作る文化庁のような組織の動向に注目し声を上げていくことも一つの行動となるはずだ。

参加クリエイターの今後の活動:
ドリタ
・《Bug’s Beat》(佐々木有美との共作)を恵比寿映像祭で出展(会場: 恵比寿ガーデンホール)
・3月3日(木) ライブイベント【鳥の会議 #6】にHeavy Wood Band feat. KΣITOとして出演(会場: 西麻布 Bullet’s)
公式HP: http://doritab.com/

吉開菜央
・「かなり身体感覚に入ってくるヨガ動画」試作中
公式HP: http://naoyoshigai.com/

鋤柄真希子
・ダイオウイカとマッコウクジラの登場するアニメーション作品《深海の虹》制作中、今秋完成を目指す
・3月19日(土) 27thひらかた人形劇フェスティバル前夜祭(大阪府枚方市)にて、人形劇『バナナ裁判』上演予定
公式HP: http://www.sukimaki.com/

安藤僚子
・4月20日リニューアル予定の、日本科学未来館常設展「未来逆算思考」空間デザイン
・今夏の瀬戸内芸術祭にて、劇団ままごとの「港の劇場」に参加・小豆島で滞在制作
公式HP: http://designmusica.com/

Sayo Tomita

Sayo Tomita. 東京の西側で生まれ育ち、学生時代は美術館やギャラリーをはしごして過ごす。IT企業、大自然と大都会という環境の異なる二つのアートセンターなどを経て、Tokyo Art Beatの運営チームに加わる。アート、音楽、言葉、人、美味しいものなど、日々の新しい発見と驚きが原動力。 ≫ 他の記事

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