生活のための「戯曲」とは? 劇作家・岸井大輔インタビュー

暮らしをデザインする戯曲をインスタレーションで提示・上演。前代未聞の試みに挑む51日間

poster for Shimatsu wo Kaku Exhibition

始末をかくエキシビション 「生活はふるさとのように上演されている」

世田谷、川崎エリアにある
世田谷文化生活情報センター生活工房にて
このイベントは終了しました。 - (2017-02-04 - 2017-03-26)

In Main Article 1 インタビュー by Sayuri Kobayashi 2017-02-24

劇作家の岸井大輔。入口のガラスに描かれたイラストは、岩波文庫のパロディ

東京23区で最も人口が多い世田谷区。なかでも三軒茶屋は「住みたい町」ランキング常連の人気のエリアだ。その駅前キャロットタワー内にある(公財)せたがや文化財団 生活工房では現在、劇作家・岸井大輔を中心としたアーティスト集団「始末をかく」による展覧会『生活はふるさとのように上演されている』が開催されている。アーティストや俳優、パフォーマーといった多彩な面々が、生活を愉快にデザインする戯曲を展示、さらにそれを上演するという。

岸井いわく、今時めずらしい高潔なアーティスト集団「始末をかく」

まず本展は、「私たちは、学校や職場、家庭といった毎日の生活のなかで、それぞれの役を演じながら過ごしているのかもしれない―」という前置きから始まる。

「誰しも社会において役割があって、その場その場を踏まえた行動をしていると思います。例えば会社員の場合、僕も経験があるので分かるんですが、上司への不満の愚痴が多いですよね。『課長なんだからちゃんとやってよ』というのは、言い方を変えると『課長役が下手』ということではないでしょうか。そこには、例えば決済が早いかどうかといった効率よく仕事ができることだけでなく、上司として愛されるキャラクターをやれているかどうかも含まれている。人間関係について考えるとき、実は演技のよしあしについて考えてるんじゃないかと」

今回の舞台である生活工房は「暮らしのデザインミュージアム」と掲げているが、では、ここで生活を演劇と見た上で、何を提案しようというのだろうか。

「暮らしの戯曲を提示することにしました。デザインって設計や設定を示すことなんですよね。設定って演劇においては戯曲。戯曲の役割って分かりやすくいうと、かっこいいや美しい、あるいはおもしろいなど、みんなで共有できる目標の提示なんです。人間が集団で何かをするときには目標があったほうがいい。そしてその目標は、事細かに書いていないほうが余地があって遊べる。細部や具体的なことは演出とか俳優が考えたほうが上演がイキイキしてくる。そんな、よい戯曲のあり方を暮らしのデザインとして提示します」

1幕の展示風景。「生活長者展」についての受付窓口がある。

一昨年には、2500年前に古代ギリシャでアリストファネスが書いた喜劇『女の平和』が現代のシカゴを舞台に映画化され(スパイク・リー監督『Chi-Raq』。日本未公開)、400年前にイギリスでシェイクスピアが書いた『ロミオとジュリエット』は剣を銃に持ち替え、さまざまな演出で描き直された(バズ・ラーマン監督『ロミオ+ジュリエット』。1997年日本公開など)。人間同士の争いを扱ったこれらの戯曲は未だ私たちの目の前にある難題に向き合うために提示され続けている。
また、お経も戯曲の提示の仕方として優れている、と岸井は言う。

幕間(2月25日〜)では、遠藤麻衣がフランスパンの精となって子供向けイベントを開催。オリジナル絵本の読み聞かせなどを行う

「孫の受験合格を願うおばあさんが般若心経を唱える。ぎゃーてーぎゃーてーと毎日やるんだけど、孫が落ちてしまった。なんでだと般若心経の意味をよくよく調べると『執着するな』とある。そうか、執着していたから不幸な気持ちになったのだ、と執着してきたからこそわかる。それで、孫が幸せに生きてくれればいい、と人生観が変わって演技が変わる。いまの世のなかに必要なものって、わかりやすいことで集客をしたり盛り上げたりすることより、難しいことにも向き合って考えるきっかけだと思うんです。例えば子どものころに意味不明の絵本とか岩波文庫の学術書なんかを読んで意味はよくわからないけど興味を引かれた。それって後から思えば、アートとか世のなかを考える入口になっていたはず。そして、わからないことと時間を掛けて向き合うからこそ、行動や思考に現実的な影響を与える。というのが戯曲のやり方なんです」

皆藤 将によるインスタレーション。1幕すべての作品が2幕へのプロローグ

今回の展覧会は岸井個人でなく、彼が率いるアーティスト集団「始末をかく」で企画制作している。

「現代日本で演劇をやるとはどういうことかを作品にしたくて、一緒にやりたい人に声をかけて2013年に結成したチームです。『日本人の振る舞い』をテーマにリサーチを続けてきて、ちょうど今回の『生活』をテーマにした展覧会にあうので、このチームでやることにしました」

今回のリサーチでは、あるキーワードが浮上した。世田谷で毎年行われている「ふるさと区民まつり」やローカル紙のタイトル「ふるさと世田谷を語る」など頻出する「ふるさと」という言葉だ。

「世田谷は簡単にいうと新興住宅地ですよね。昔から人が住んでるエリアもあるんだけど、世田谷区民の多くは新住民。彼らにとって『ふるさと』が戯曲としてあるように見えた。で、それをどう提示するかということを考えました。批評的な視点も含めて。『ふるさとのように』というのは、保守的になることともとれて、自由にやっていこうという意志と矛盾することもありますから」

そして開けた第1幕。会場には、絵画、映像、小屋のような造形物、自転車、QRコード、意味深なテキストなどが散在している。岸井を含む計13名が参加しているわけだが、このインスタレーション全体がひとつの戯曲であって、「グループ展ではない」という。

KOURYOUによる平面作品も戯曲・上演の一部

「戯曲の形式は通常テキストですが、テキストでなくてもいい。絵でも彫刻でも、みんなの目標となり、おもしろい上演を生み出せば戯曲といえる。メンバーを劇団員のようにみなして、アイデアを出し、影響し合いながらそれぞれ作るという方法をとっています。絵画もあれで完成ではなく、2幕ではインスタレーションになります。戯曲はさまざまに上演ができるものですが、例えば僕らなりに上演するとこうなります、というのが2幕です」

生活工房のキッチン

2幕(3月10日〜)では、1幕で提示された戯曲がもとになり、あるメンバーは生活工房ギャラリーで実際に生活をする(観客はキッチンで作られる料理を一緒に食べることもできる)。
また、木村玲奈によるダンスや飯島剛哉・立蔵葉子によるパフォーマンスも行われる。

「上演なので何回か見に来て変化を楽しんでいただけるといいですね。そうしたら、この展示が、あなたの生活の戯曲となるでしょう」

キャロットタワー26階の展望台からの眺め。ここで鑑賞する作品も

■展覧会詳細
始末をかくエキシビション『生活はふるさとのように上演されている』
会期:2017年2月4日(土)~3月26日(日)
1幕「生活は上演されている」 2月4日(土)~24日(金) 
幕間 キッズイベント・パンと遊ぼう「フランス・パンさんの部屋」 2月25日(土)~3月9日(木)
2幕「生活工房で生活する」 3月10日(金)~26日(日)
会場:生活工房ギャラリー(東京都世田谷区太子堂4-1-1 キャロットタワー3F)他
時間:9:00~20:00
ウェブサイト:http://www.setagaya-ldc.net/program/355/

2幕の最初の3日間はスーパーライブ「バウワウハウス」として橋本匠がパフォーマンスを予定。2幕のプロローグとして舞台の転換を公開する。

その他、キャロットタワー26階の展望台で鑑賞する作品や、街なかで開催する「生活長者展」などのプログラムを多数開催。詳細はウェブサイトへ。

Editor, Photo: Xin Tahara(2、4、5枚目を除く)

Sayuri Kobayashi

Sayuri Kobayashi. 雑食系編集/ライター。ヴェネチア・ビエンナーレ、恐山、釜ヶ崎のドヤ街、おもしろいものがあるところならどこへでも。 ≫ 他の記事

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