海と山とアート – 南総金谷藝術特区ART EXHIBITION レビュー

東京湾フェリーで40分、千葉・金谷で新しいアーティスト・イン・レジデンス始動!

In Main Article 1 レビュー by oboko 2017-05-08

南総金谷藝術特区

芸術に託す町の発展 ー 南総金谷藝術特区

今回は東京湾フェリーの発着点である千葉県南房総金谷地区で3月10日から20日まで開催されていた「南総金谷藝術特区」を訪れた。“芸術家と、芸術に親しむ人が、徐々に根付いてくれることを目指す地元民の願い”から今年はじまったレジデンスプロジェクトだ。今回は初回ということで、金谷美術館を中心に町中の数ヶ所に10人のアーティストが滞在制作した作品が展示されていた。小さな芸術祭というような賑わいであった。
「石と芸術の街」というスローガンが掲げられた時期もあったという金谷は、房州石(凝灰岩)の採石場で栄えた歴史と、小林一茶から夏目漱石まで多くの文人墨客が訪れ、作品を残した地としても有名である。2012年から2015年までは、永らく廃墟となっていた金谷港沿いのホテルを若手クリエイターやまちづくりを志す20代の数人がリノベーションした「KANAYA BASE」というオルタナティブスペースが盛り上がり、週末を中心に多様なイベントが開催され、町の人と首都圏の人が多く集まった。建物の老巧化により同スペースは閉鎖されてしまったが、ITの開発誘致を行う拠点「まるも」として生まれ変わって新しく再スタートしたようだ。確かに、金谷に着いて驚いたのは、フェリーの駅からレストラン、金谷美術館まで、あらゆるところにフリーWi-FiIが完備されていることであった。人口1500人ほどの小さな金谷地区は高齢化も進んでいる、いわゆる日本の「地方」なのだが、未来へのエネルギーを感じる地でもあった。

奥にみえるのが鋸山

荒木美由のインスタレーション作品

小さな港町に寄り添う作家の作品

今回参加している10人の作家は金谷地区を訪れてそれぞれの金谷のイメージを形にしたという地域に寄り添った作品であった。最も印象的だったのは彫刻・パフォーマンスを軸に制作する荒木美由の作品だ。電動機器が導入される以前、石柱を運んだ人々は“車力”と呼ばれた。1度に3本の石柱を、1日3往復する車力には女性が多かったと言われている。荒木はそのような史実をもとに、石切り場の鋸山から切り出された石柱を運ぶ引き車を、鋸山を対岸に見据える海辺に展示していた。漁業も石材産業も盛んだった金谷地区の全盛期には、“女性は家を守り、男性が外で働く”というような考え方があまりない、男性も女性も関係なく、みんなそれぞれの仕事に従事できる平等で自由な街だったのかもしれない。私は、その作品をとおして彼女たちの姿に想いを馳せた。

斎藤英理のインスタレーション作品

鋸山に安置されている石像

金谷美術館屋根に設置された投光器(星田大輔の作品)

鋸山は採石場という産業の要であると同時に信仰の山でもあった。金谷美術館の別館に展示されていた斎藤英理の作品は、鋸山に安置されている多数の石像地蔵や仏像の顔が破壊されていることに注目したという。地蔵や仏像の頭が壊された理由は諸説あり、はっきりはしていない。しかし、石像の頭を切って持ち帰り、供養すると願いが叶うという迷信が江戸時代ごろに流行したから、という言い伝えがあるということを聞いて制作された映像とインスタレーション作品だ。自然の中に残された時代と共に変化した信仰心や願望の痕跡が描きだされていた。2人の作品は、作品を巡った後、実際に鋸山を自分で訪れてみる事を誘導しているようであった。帰りにフェリーに乗ると、参加作家の星田大輔のインスタレーションに見送られた。金谷美術館屋根に設置された投光器である光の2つの点である。金谷湾は毎日行き帰る多くの人々を見守ってきた。星田の作品はそのまなざしを形にしていた。

帰りのフェリーから見える星田大輔の作品―明るい投光器がふたつの目のようにこちらを見つめている

カフェえどもんずのコレクションと今回の参加作家小林雅子の作品

立ち寄る際には訪れたい地元に愛されているカフェ

地方の芸術祭やアートイベントでのもう1つの楽しみは、地元のおいしいお店である。金谷地区では、今回作品の展示場所にもなっていた昭和中期に飛騨山から移築された合掌づくりの古民家を利用した「カフェえどもんず」だ。店内や屋根裏空間には膨大な絵画と骨董のコレクションが置かれているのもアート好きには見どころだ。カフェマスターのご両親がコレクターだったとか、アーティストだったとか…。

また、ちょうど訪れた際、2人ほど車いすのお客さんが店内でくつろいでいるのを見かけた。古民家なので、構造的にはバリアフリーな空間とはいえないかもしれないが、さまざまなお客さまへの配慮が行き届いているように感じた。それこそ、東京都心のおしゃれで狭いカフェより入りやすいかもしれない。上質でゆったりとした時間が流れていて、とても心に残る場所であった。

鋸山の上から見た金谷湾

今年の展示会期は終わってしまったが、今後の展開を期待して待ちたい。次回以降どのような形で続けていくのかは、まだ模索中ということであるが、私は、10人の作品を通して、金谷地区の歴史的な移り変わりを感じ、もっと金谷について知りたくなった。作品を見た鑑賞者が、その地域・土地のことをもっと知りたくなった時、アーティストと地域の共同プロジェクトはひとつ成功したと考えられるのではないだろうか。
東京湾フェリーで行くちょっとした週末の旅にもぴったりな金谷地区。アートを楽しんで、鋸山の展望台を楽しんで、おいしいコーヒーでも飲みに多くの人が訪れますように。

■展示概要
南総金谷藝術特区 ART EXHIBITION
会期: 2017年3月10日(金)〜3月20日(月)
アーティスト: 荒木美由、笠原光咲子、小林雅子、斎藤英理、佐々木たくめい、野呂あかね、半澤友美、星田大輔、矢部裕輔、渡邊万莉奈(NARAMIX)
展示場所: 金谷美術館敷地内、金谷美術館別館、青い空家(旧民家)、カフェえどもんず、旧観光案内所、まるはま、金泉館
ウェブサイト: http://www.kanayagt.com/

All photos by oboko.

oboko

oboko. 1988年生まれ。「いま・ここ」に生まれてくるサイト・スペシフィックな作品に特に興味がある。アートコレクター初心者。展示企画・翻訳などもします。 ≫ 他の記事

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