いわさきちひろ生誕100年「Life展」 まなざしのゆくえ 大巻伸嗣 レビュー

現代作家とのコラボ第一弾の大巻伸嗣展は、美術館を体感するインスタレーション。参加作家の書籍もお出かけの参考に

poster for Shinji Ohmaki “Where the Gaze Falls”

いわさきちひろ生誕100年「Life展」 まなざしのゆくえ 大巻伸嗣

武蔵野、多摩エリアにある
ちひろ美術館・東京にて
17日後終了

In Main Article 2 レビュー by Xin Tahara 2018-04-09

戦後を代表する絵本画家、いわさきちひろ。2018年は彼女の生誕100周年にあたり、東京と安曇野のちひろ美術館は「Life展」と題し、1年を通して大規模な企画展を展開する。いわさきちひろと響き合う7組の作家たちとのコラボレーションになっている。東京館の第一弾に選ばれたのが現代美術家、大巻伸嗣だ。
タイトル「まなざしのゆくえ」は、ちひろが最後に完成させた絵本『戦火のなかの子どもたち』からインスピレーションを受け、大巻がつけた。展示室で鑑賞者が最初に目にするのは、同作に登場する母親の鋭い眼差しだ。ちひろと大巻、そして鑑賞者のまなざしが交錯し、会場はアートを鑑賞する美術館であると同時に、パフォーマンスが行われている舞台であるような、巨大なインスタレーションに仕上がっている。

展覧会に寄せて、大巻は次のように述べている。
「これまで私のインスタレーションでは、日常とはことなる時間性や空間性をつくりあげて、私個人の痕跡は見えないようにしていたのですが(中略)自分自身のこれまでの歩みや思いとも向き合うことになり、私自身が残してきた軌跡を見つめるように展示しています」
その最たる例が、館内に再現されたちひろのアトリエの横の第3展示室だろう。大巻が選んだちひろの自画像4点と向き合うかたちで、大巻が学生時代に描いた自画像のドローイングが50枚展示されている。二人の作家が己と向き合って描いた作品が、鑑賞者に視線を投げかけてくる対話の空間だ。自身の原点だという美術予備校時代に描かれた植物のデッサンも飾られている。

展示室を進むと、大巻が今回の展覧会のために製作した「Echoes-Crystallization」シリーズの最新作「ひかりの風景 ちの記憶」がある。巨大な白いパネルに真っ白な修正液で描かれた花々は、咲き誇った瞬間に固められてしまったように見える。大巻が制作中に繰り返し見たという『わたしがちいさかったときに』は、原爆で被爆した子ども達が書いた文章にちひろが絵を描いた作品だ。展示室入口にあるので、ぜひ手に取ってみてほしい。

複数の視線が入り乱れる1階と打って変わり、2階はちひろの絵本に登場する子どもたちの無垢なまなざしが迎えてくれる。「想像の海へーGrand Voyage」と名付けられた部屋には、子どもが2人乗り込めるほどのサイズの舟が4隻設置されている。舟が誘うのは夢の世界か、大人の国か。舟には『おやゆび姫』や『ぽちのきたうみ』など、ちひろの絵本が1冊おいてあり、読み聞かせをする親子や窮屈そうに座りながら本を読む大人の姿も見られた。
大巻は「私たちの視点、まなざし、その向かう先を考えながら体験して」ほしいという。「鑑賞」という言葉を選ばなかった意味を考えつつ、二人の作家の世界を体験したい。

そんないわさきちひろ生誕100年「Life展」。谷川俊太郎やトラフ建築設計事務所など、この特集に集った現代の作家たちとちひろの関係を、改めてちひろの作品、そして各作家たちの本から読み直すための6冊を選んだ。

戦後最大のベストセラー、ちひろの絵に住んでいるトットちゃんを再読


絵本 窓ぎわのトットちゃん 黒柳徹子 いわさきちひろ

戦後最大のベストセラーでもある、黒柳徹子自身による自伝的小説。いわさきちひろ没後に、著者たっての希望で遺作の中から選ばれた子どもたちの絵で構成される。個性的でどこにでもいる「子どもたち」のあるべき姿が「トットちゃん」とちひろの絵で見事に描かれた名作。

違う時代を強く生き抜いたふたりの女性が、絵と言葉で初めて繋がる

らいてうの姿、ちひろの想い 飯島ユキ いわさきちひろ

いわさきちひろの絵と平塚らいてうの俳句。女性として母として、強い情熱の元に生き抜いたふたりが、本の上で初めて出会った一冊。らいてうとちひろ、それぞれに深い関わりを持つ選者による、鮮やかに紡がれた句画集。

平和の願いを子どもたちに伝えたい。井上ひさしの言葉とちひろの絵

井上ひさしの 子どもにつたえる日本国憲法 井上ひさし いわさきちひろ

井上ひさしが実際に小学生に語った「憲法ってつまりこういうこと」という、講演を収録し、いわさきちひろの絵による子どもたちの姿がそこに寄り添う。わかりやすい言葉と、健やかな子どもたちの姿で日本国憲法が美しい絵本になった。

世界的女性写真家・石内都が「ひろしま」を交点にちひろと共鳴する

写真の孤独 「死」と「記憶」のはざまに 伊勢功治

写真が描く「生と死」そして「記憶」を読み解く写真叢書シリーズ。今回展覧会でのコラボレーション作家、石内都の作品に濃厚に現れる傷、残されたシミのような記憶を読み解く。「ひろしま」を交点にちひろの世界へと繋がる石内の世界を覗く。

Life展コラボ作家トラフは「ちひろの帽子」に着目した「部屋」をつくる

トラフの小さな都市計画

人気建築家ユニット「トラフ」が生み出すデザイン発想のユニークさをイラストで伝える一冊。展覧会では、ちひろがしばしば取り上げたモチーフとして子どものかぶる帽子に着目し、「帽子は子どもにとって一番身近で安心できる家や部屋」なのでは? というアイデアから、ちひろの帽子を元にした部屋をつくる。

コラボ作家・谷川俊太郎の詩の世界を懐かしい選集であじわう一冊

地球へのピクニック 谷川俊太郎 長新太

国語教科書にも採用された、子どもにわかることばの詩の選集。絵本作家、長新太のイラストで改めて懐かしい詩と出会い直したい。コラボレーション作家として谷川は「ちひろさんの描く子どもたち」に言葉を寄せ、その絵の小宇宙と自らのひろがりの個性を組み合わせ、いのちや世界の変化へと耳を寄せる。

■概要
いわさきちひろ生誕100年「Life展」
まなざしのゆくえ 大巻伸嗣
会期: 2018年3月1日(木)〜5月12日(土)
会場: ちひろ美術館・東京

同時開催:
plaplax 「あそぶ」
会期: 2018年3月1日(木)〜5月7日(月)
会場: 安曇野ちひろ美術館
https://chihiro.jp/azumino/

Text: 猿渡さとみ

Xin Tahara

Xin Tahara. 北海道函館市生まれ。Tokyo Art Beat PR・セールス、ソーシャルメディア、ニュースの編集も。都内を中心に自転車でアートスペース巡りが日課。料理と植物も。 ≫ 他の記事

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