公開日:2023年7月29日

「ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室」(DIC川村記念美術館)レポート。教育者の側面にも焦点を当てる日本初回顧展

会期は7月29日〜11月5日。画家・デザイナー、そしてバウハウスやブラックマウンテン・カレッジで教鞭をとった教育者でもあるジョセフ・アルバースの作品と思考を紹介。

会場風景より © The Josef and Anni Albers Foundation

重要作家の日本初回顧展

ジョセフ・アルバース(1888〜1976)の展覧会、「ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室」が千葉県のDIC川村記念美術館で開催される。会期は7月29日〜11月5日。

ジョセフ・アルバースはドイツ出身の画家、デザイナー。1919年にドイツ・ワイマールで設立された美術造形学校バウハウスで学び、のちに同学校の教師となって基礎教育を担当した。その後アメリカのブラックマウンテン・カレッジや、イェール大学に勤務し、戦後アメリカの重要な芸術家たちを育てたことから、教育者としてもよく知られている。

会場風景より、講義するアルバース ©︎ The Josef and Anni Albers Foundation

本展は制作者、そして教育者としてのジョセフ・アルバースの作品と思考、教育方法を紹介するもので、日本では初の回顧展となる。企画は同館学芸員の亀山裕亮。

バウハウスにもっとも長く所属した人物

1920年にバウハウスに入学したジョセフ・アルバースは、その能力を認められ25年にマイスター(親方)となり、教育者としての道を歩み始める。33年にナチスの圧力になって閉校するまで同校で教えたアルバースは、バウハウスにもっとも長く所属した人物だ。

本展の1章「バウハウスー素材の経済性」では、のちの抽象表現からは意外に感じられる若き日の自画像から、ガラスを用いた作品、家具など初期の作品を展示。

会場風景 © The Josef and Anni Albers Foundation
会場風景より、《スタッキング・テーブル》(1927頃) © The Josef and Anni Albers Foundation
会場風景より、《ティーグラス》(マドラー、受け皿付き)(1926) © The Josef and Anni Albers Foundation

また造形の基礎教育を担当し、「素材の扱いを学ぶこと」を重視したアルバースの考えをよく示す、紙を用いた演習に関する展示もある。亀山学芸員は以下のように説明する。

「彼のいちばん有名な授業として、1枚の紙から何かを作るというものがある。学生が船や城といった具体的なものを制作すると、それはあまり良くないとアルバースは言う。なぜかというと、それらは紙ではなくても作れるものだから、紙の特性を活かしたとはならない、と。そのときにアルバースが評価したものは、紙を折りたたんで立ち上げ、強度を高めたものなどでした。アルバースは『2足す2を5にする』べきだと言っています。素材の「経済性」、つまり最小の素材や加工によって最大の効果を生み出すことの重要性を説きました」

会場にて、解説する亀山学芸員 © The Josef and Anni Albers Foundation
会場風景より、紙による素材演習 © The Josef and Anni Albers Foundation

ブラックマウンテン・カレッジでの深化

バウハウス閉校後、アルバースはアメリカ・ノースカロライナ州のブラックマウンテン・カレッジに赴任した。2章「ブラックマウンテン・カレッジー芸術と生」では、約15年在籍したこの学校での教育的実践と、その後につながる絵画の新たな展開を紹介する。

会場風景 © The Josef and Anni Albers Foundation
会場風景より、《リーフ・スタディ I》(1940頃) © The Josef and Anni Albers Foundation

ブラックマウンテン・カレッジはリベラルアーツ教育を行った学校で、ロバート・ラウシェンバーグやサイ・トゥオンブリーといったのちの重要作家を輩出し、ジョン・ケージが最初の音楽のハプニングを行ったことなどでも知られる。ここでアルバースは「よく見るための基礎を学ぶ」ことに重点を置き、木の葉や皮など身の回りにある多様な素材を用いた制作を学生たちに促した。

またバウハウス時代は絵画や版画の制作をほぼ行わなかったが、この時期に彼は抽象絵画に取り組むことになる。

会場風景より、《出会いB》(1934) © The Josef and Anni Albers Foundation

またブラックマウンテン・カレッジにおいて、アルバースは色彩課程という色に関する授業を本格的に導入。当時の学生らが作った色彩演習とともに、アルバースの教育方法が解説される展示も興味深い。

色彩課程に関する展示 © The Josef and Anni Albers Foundation

色彩の探究

3章「イェール大学以降―色彩の探究」では、アルバースの色彩に関する取り組みを紹介。アルバースの作品としてもっともよく知られる「正方形讃歌」は1950年、作家が62歳になる年から開始されたシリーズで、生涯に2000点以上が制作された。

「正方形讃歌」の作品や、作家が自らの制作について解説する映像などから、アルバースがいかに色を観察し、最適なものを選び抜き、制作を行ったかが伝わってくる。「正方形讃歌」は決まったフォーマットで4つの色の組み合わせた作品だが、配色によってそれぞれの色がどのように見えるか、実物を前にじっくり鑑賞してみたい。1組だけ、同じ色の組み合わせで大きさが異なるものが並んでいるので、その違いを見比べてみるのも興味深いだろう。

「正方形讃歌」の展示 © The Josef and Anni Albers Foundation
「正方形讃歌」の展示 © The Josef and Anni Albers Foundation
「正方形讃歌」の展示 © The Josef and Anni Albers Foundation

4章「版画集〈フォーミュレーション:アーティキュレーション〉」では、アルバースが1972年に出版した版画集を紹介。本作は過去に制作した作品をもとにした集大成ともいえるもので、それぞれにアルバースの造形思考が結晶化されたテキストが付されている。

展示風景 © The Josef and Anni Albers Foundation

ワークショップ・スペース:みんなでアルバースに学ぼう!

ここまで見たら、最後に立ち寄りたいのが常設のワークショップ・スペースだ。広い空間には色とりどりの折り紙や工作グッズが置かれ、アルバースが学生に課した色彩課程などに取り組んでみることができる。自らの手や頭を使って、色に向き合う面白さを体感したい。

ワークショップ・スペース
ワークショップ・スペースで実演する亀山学芸員
ワークショップ・スペース
グッズショップ。Tシャツや折り紙などオリジナルグッズが充実

福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集長。『ROCKIN'ON JAPAN』や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より「Tokyo Art Beat」編集部で勤務。2024年5月より現職。